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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第22話 火薬と新しい仲間

 シャルロットとマルティナが斎をじっと見つめる。


 今度は斎が困惑する番である。


「いや、火薬って言うのは、こう、火をつけるとパーンとはじけて燃えて‥‥‥あれ、知らない?」


 うんうん、と二人は頷いた。


 今度は斎は、セリーヌの方を向く。やはり信じられぬという顔だ。


「ええと、みなさん、どうされたので‥‥‥?」


 斎がそう言うと、セリーヌがばんと机を叩いた。


「冗談じゃないよ。火薬は、東洋の錬金術の秘術じゃないか」


 それを聞いて、斎は確信した。火薬は、この世界では知られてはいないのだ。


「あ、ええと、いまのなしで」


 斎は慌ててそう言ったが、しかしセリーヌがそれで引き下がるわけはない。


「そう言われて引き下がるわけないじゃないか。さあ、教えてくれないかな、その火薬の作り方とやらを」


 ぐい、っとセリーヌは顔を寄せた。


「ええと……」


斎は当惑していた。情報はタダでやるわけにはいかないのだ。

 しかし気になるのは、どこで彼女が火薬を知ったかである。


「その前に聞いておきたいんだけど」斎は言った「その、火薬の存在はどこで知ったの?」


「ああ、そういうことかい」セリーヌは言った「フルミニア戦役の帰還兵から聞いたんだよ。オリエンテ王国が妙な新兵器を使っているって」


 フルミニア戦役とは東方の大国、オリエンテとレモリアの間に生じた、フルミニアを巡る衝突である。フルミニアは東方に広がる砂漠地帯とその沿岸部にある都市国家の連合体であった。


「その兵器は、突如として飛来し、閃光と爆音をまき散らす。そして、終わった後には、体中に鉄片の刺さった仲間の死体が転がっていた、という話さ」


「そんな」シャルロットが言った「そんな魔法、聞いたこともない!」


「そう、魔法ではないんだよ」セリーヌが続けた「捕虜の一人を拷問すると、それが『火薬』というものを使った兵器であることが分かったんだ。残念ながら、その捕虜は火薬の作り方などは知らなかったようだけど」


「それは火球より強力なの?」


マルティナが尋ねた。セリーヌは頷く。


「恐らくはね。なんといっても、魔術師でなくても、だれでも扱えるそうだよ。だから作り方の分からない兵士でも、用いることができるんだ」


「なるほど」マルティナは頷いた。


「さあ、今度は君が教えてくれないかな、その火薬の作り方を」


「ええと、その、材料は知っているんだけど……」斎は言いよどんだ。


「知っているけど?」


「細かい割合までは知らないんだ」


「ふうん。じゃあこういうのはどうだろう。ボクは薬品の扱いに慣れている。だから君が材料を教えてくれたら、それをもとにボクがいろいろと試行錯誤してみる、というのは」


「それはいいかもしれないけど」斎は困惑するように言った「貴重な情報だよ、タダ、というわけには」


「でもボクの助けがないと君も火薬を作れないんじゃないかな。さっき火薬を作るって言ったけど、配合比が分からないんじゃあ作れないよね」


「まあそうだけど……」


「じゃあ決まりだね。君が材料を提示する。ボクが火薬を作る。これでいこう」


「ねえ、ちょっと待って」シャルロットが割って入った「その、火薬って言うのがすごく貴重な物なのはわかったんだけど、それを何につかうの?」


「ん~、そうだね、誰かに売り込んでもいいじゃないかな。その時の報酬は山分け、ということで」


「まあ、それならいいけど……」


「いや、よくないね」マルティナが言った「完成すればそれは門外不出にしておきたい」


「それはどうしてかな」セリーヌは言った。


「それはまだ言えない。でも、人に知られるのはまずい」


「確かに、そうだろうね。オリエンテでも最高の軍事機密の一つだ」セリーヌは言った「でも、そんな技術を持っていてどうするつもり? 宝の持ち腐れじゃないか。それともどこかと戦うの?」


 マルティナは、にやりと笑った。


「ふうん、何か野望があるみたいだね。面白いこと?」


「そりゃあもう。面白くて仕方のないことだ」


 それを聞いて、セリーヌがははは、と笑った。


「これは愉快だね。うん、愉快だ。何か面白いことを企んでいるんだね。ねえ、じゃあボクも君たちのパーティーに加えてくれないかな」


「えっ?」


 3名は驚いた。


「それはまたどうして?」


マルティナが聞いた。セリーヌは指を一本立てる。


「ひとつに、ボクに火薬の作り方をなかなか教えてくれないのは、パーティーメンバーじゃないからだ。でも、仲間になれば別だろう?」


「それは……」斎も呆気に取られている。


「二つ目に、ボク自身も一人で旅をするのは少々しんどい。仲間が欲しいと思っていた」


 2本目の指を立てた。


「そして3つ目に、ボクはこれでも大学の医学部の学生だった。文字を書いたり、治療したりということができるし、薬品の扱いにも手馴れている。何かと役に立つんじゃないかな」


 3本目の指を立てる。


「どうだろう?」


「マルティナ様、どうしますか?」


 シャルロットは尋ねる。マルティナは少し考えた後口を開いた。


「確かに、大学での教育を受けたことがあるというのは大きいね。古代レモリア語も読めるのよね」


「もちろん」セリーヌは頷く。


「じゃあいいよ、メンバーに迎える」


「やった!」


「ただし、私たちの最終目的地まで同行してもらうのが条件。火薬を手に入れたら、はいさようなら、となっても困るから」


「それは心得ているよ。そこまで薄情者ではないよ」セリーヌは言った「で、その目的地とはどこだい?」


 マルティナは首から下げている貝殻を持ち上げて見せた。


「イターキ巡礼か!」セリーヌが声を上げた。「いいね、聖地は一度行ってみたかった」


「じゃあ決まりね!」


マルティナがジョッキをつかんだ。他の3人もジョッキを持つ。

そしてマルティナは高らかに叫ぶのであった。


「新しい仲間、セリーヌに乾杯!」

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