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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第19話 旅路

 ヨービルからサン・ピオールまでは約1週間の道のりである。街道を南へと向かうのであるが、途中山を越えなくてはならない。そのため山賊に警戒する必要があり、護衛を要したのである。


 旅は順調に進んだ。が、しかし冒険者センターの一件以来、斎とシャルロットの間はなんだか気まずかった。


「ねえ、なんであの時あんたは否定したりしなかったのよ」


 休憩のさい、シャルロットは斎に尋ねた。


「いやだって……」斎は言いよどんだ「だって、あそこで『こんな嫁いらない』なんて言うのも、失礼じゃないか」


「それはお気遣いどうも。でも、何か言いようはあったでしょう。変な噂なんて信じるもんじゃないよ、とか」


「まあそうかもしれないけど……」


 斎は思っていた。たしかにシャルロットは美人であり、嫁に欲しいかほしくないかと言われれば、その顔だけであれば首を縦に振らざるを得ないだろう。見たところ大きすぎず小さすぎずである胸も彼好みであった。


 だが性格が彼好みかというとそう言うわけではなかった。気立てがよかったりすればいいのだが、しかしその逆で気が強く、時に彼を敵視するようなことも言う。好きになるというわけではない。だが、たしかに器量はよく、基本的に正直者の斎は本心から「結婚などあり得ない」などと言えるわけはなかったのだ。


「まあそもそも身分が違うんだからあり得ないわけだろうけど。騎士と平民だし」


「そ、そうだよね」


 斎はははは、と愛想笑いをした。そこへマルティナが近づいてきた。マルティナは言う。


「二人とも仲よさそうで何よりだよ」


「何を言っているんですか」シャルロットは言った「変な噂を打ち消すためにも、仲が良くては困るんです」


「どうして?」


「どうしてって、私がこの男と結ばれるみたいな噂が流れてもいいんですか。騎士と平民ですよ」


「身分違いの恋も趣があっていいんじゃない? 騎士道文学にもあるし」


「そういうことではなくて!」シャルロットはあきれるような声で言った。


「それに、イツキだってもしかしたら騎士に叙任されることがあるかもしれないし」


「俺が、騎士にですか?」斎が驚いたように言った。


「そう。領主の中には仕事をこなした冒険者を爵位でもって報酬とする人もいる。これからの旅の中でそう言う仕事をうけるかもしれない。そうすればあなたも騎士になる」そしてにやりと笑った「そう、そうあってもらわなくちゃ困る」


「なんですか、それ」


「ううん、なんでもないよ」マルティナはふふっ、と笑った「まあ、シャルロットも不自然にしすぎると噂が信憑性を増す可能性があるし、自然体でふるまうのが吉だと思うよ」


「ええ、まあ……」シャルロットはしおらしく答えた。


 その時荷馬車隊の方から声がした。もうすぐ出発の時間だという合図であった。


「さて、行こうか」


 マルティナはそう言うと、つないであった自身の馬の綱を外し、馬にまたがった。

 シャルロットもそれに倣う。斎も腰を上げると、二人の後を追うのであった。


 この後、商隊はペリゴール伯爵領へと入った。道はやや東へと曲がり、その後山へと入っていく。山に入って2日目、峠を抜けた。峠の関所では通行料を支払った。この関より先がサン・ピオール教会の領地なのである。


 一行は山道を下っていく。次第に視界が開け、眼下に湖が見えた。


「あれが、ピオール湖だ」


 誰かが言った。一行に歓声が上がる。


 四方を山に囲まれた水の都、サン・ピオールが我々の前に姿を現したのであった。

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