第17話 初仕事(クエスト)
夜の森は暗い。盛夏に繁る木の葉のカーテンのせいで、月の光もほとんど地面までは届かない。
斎がステッキの先端に灯をともして先導する。木の根っこに躓かないように気をつけながら森の奥へと進んでいく。
ある程度奥までやってきたところで、二人は別れた。ここでシャルロットがヴォルパーティンガーを待ち受け、離れたところにいる斎の方へ誘導するのである。
シャルロットは斎から渡されたたいまつを片手にあたりを見回す。風が木々を揺らす音が聞こえる。
その時である。
彼女の目の前の茂みで何かが動いた。いや、何かが動き、枝の揺れる音が聞こえたのだ。
風が吹き、ざわざわと木の葉が揺れる。それに合わせて月光が地面につくる光の模様が動く。
そして茂みから何かが飛び出してくる。たいまつの火が、その生き物を照らし出す。
それはサイズはウサギそのものであった。長い耳が生えている点や手足も頭もウサギそのものだ。
だが2点だけ異なるところがあった。
頭には鹿の角が生えており、そして背中には鳥のような羽があったのである。
彼女は剣を抜く。刃がきらりと光った。それに驚いたのかもしれない。突然その生き物は駆けだした。
(しまった!)
シャルロットはそれを追いかけるように走り始める。前の茂みが動くので追えていることは確かだ。それに、左右の藪も合わせて動いている。明らかに何かがいる。シャルロットはそれはヴォルパーティンガーだと思った。
森の中には通常狼や鹿などたくさんの生き物がいる。しかしたいていの生き物は火を怖がり、たいまつは動物除けにもなるのである。火を怖がらない動物は3種類しかいない。ヒトと、熊と、そして月の光を愛し夜光るものなら何でも月だと思い込んで寄ってくるヴォルパーティンガーである。
シャルトットは懸命に追い立てていく。だが、夜目が効いてきているといっても、暗い森の中は歩きにくい。地面も昼間の雨のせいでぬかるんでおり、思うようには進まない。ついに転んでしまった。
その拍子にたいまつが目の前にあった水たまりに落ちてしまった。じゅうっという音を立てて火が消える。
(しまった、これじゃあ見えない)
シャルロットがそう思い、斎を呼ぼうと声を上げようとした時であった。
突如、空が明るくなる。まるで昼間のような光が、森に降り注いだのである。
何事かとシャルロットは空を見上げた。そして唖然とした。
――いくつもの火球であった。火球は燃えながら落ちていき、そして森に落ちる前に燃焼しきる。そんな火球が打ち上げられていた。
バサバサ、と周囲で鳥の羽音に似た音がした。火球の光に誘われて、何羽ものヴォルパーティンガーが飛び立って行ったのである。その影を、火球の照明弾は映し出す。
突如、ひゅん、と森から矢が放たれた。そしてその矢はヴォルパーティンガーを過たず射貫き、射られた獲物は地面へと落ちる。
ひゅん、ひゅんと次々と矢が空へと射かけられ、次々とヴォルパーティンガーが射られていく。その一部始終は火球によって映し出されている。
シャルロットは唖然として見ていることしかできなかった。信じられなかった。あの男が、あれほどうまく火球と弓矢を使いこなしていることが、信じられなかったのである。
しばらくして光が止んだ。こちらへと向かってくる足音が聞こえた。
シャルトットは立ち上がった。
目の前に、ステッキの先に火を灯した斎が現れた。
「ありがとう、うまく誘導してくれたおかげで、10羽は射れたよ」
「ええ、それはいいんだけれど……」シャルロットは今でも信じられないという風に言った「あんな風に火の魔法を使いこなせたの?」
「いや、火球だけだよ。森番してた頃、逃亡者なんかを夜中森の中で追うときは、照明弾が便利だから、火球のコントロールだけはできる。熱そのものを扱うのは、ご存じの通り、下手」
「へえ……」シャルロットは頷いた。
その後、二人は狩ったヴォルパーティンガーを集めて森の出口に置いておいた。そして再び森の別のところに分け入ると、同じように狩りを行なったのである。
結局、夜が明けるまでにヴォルパーティンガー30羽を狩り、斎の初仕事は終わったのである。




