第16話 月明かり
目が覚めた。
シャルロットは重い瞼を上げる。ああ、いつの間にか眠ってしまっていたのだな、と思った。
横を見る。隣では斎がやはり寝息を立てている。だらしない顔をして寝ているなぁ、などと思っていると、あることに気づいた。
雨だれの音がしないのだ。
部屋の中は真っ暗である。窓に取り付けられた板戸の隙間からかすかな光が差し込んでいる。
シャルロットは立ち上がると、板戸を開けて外を見る。雨は上がっていた。そして、空を見上げる。
満月だった。満月が夜空に輝き、街を照らしているのである。
シャルロットはすぐさま斎を揺さぶり起こす。
「ねえ、ちょっと起きて、雨が上がって月が出ているわよ!」
「ええ、月が……月!」
斎は飛び起きた。彼も窓から月を見上げた。
「こうしちゃいられない、すぐ準備をして狩りに行かないと」
斎は蝋燭に火をつける。そして干してあった服に手をかけた。案の定まったく乾いてはいなかった。
「ちょっとこれどうするのよ、まだ濡れているじゃない」
「仕方ないだろ、とりあえず着ろよ」
そう言ってシャルロットの方に彼女の服を投げた。ずちゅっという水音がした。
それと同時にあることを思い出す。
そう、パンティーがないのである。
「パンティー!」シャルロットは叫んだ「私のパンティー! パンティーがないと外出できないわ!」
「行かないと狩りできないだろ!」
「パンティーは必要よ! どうにかしなさいよ!」
「じゃあなんだ、俺の履くか?」
シャルロットはその申し出に目を丸くした。
「なんてこと言うのよ!」
「じゃあ履かないのか」
シャルロットはうぐうと言った。背に腹は代えられなかった。
「は、履くわよ! さっさとよこしなさい!」
斎はシャルロットに自分の下着を渡す。
「あんたはどうするの?」シャルロットはまだ湿っているそれを履きながら言った。
「腰布でも巻いておけばいいよ」
そう言って彼は麻布をふんどしのように巻き上げる。そしてズボンとチュニックを着て、弓を取った。
シャルロットも服を着て剣を腰から下げる。そこで気づいた。
「あれ、そういえば、マルティナ様は?」
「そういえば」斎も思い出したように言った「朝、用事があるとか言って出かけるのを見たっきりだ」
「ちょっとどうするのよ」
「探しながら行くしかないよ、とりあえず急ごう」
そう言って部屋を飛び出す。どたどたと階段を下りていくと、なんと、下からマルティナの声がした。
まさかと思って1階の居酒屋を見ると、なんと他の冒険者や商人たちと混ざって酒を飲んでいるのである。
「マルティナ様!」シャルロットが叫ぶように言った「何をしているんですか、雨が上がりましたよ、ヴォルパーティンガー狩りに行きましょう!」
「えー」マルティナはジョッキ片手にこっちを見た。顔はもう真っ赤である「あー、無理無理、私もう結構飲んじゃってるし、まともに戦えないよ。二人で行ってきて」
「そんな! マルティナ様がいなくてどうするんですか」
「だいじょーぶだって、頑張ってきてね、さて」そう言ってマルティナは一緒に飲んでいた人たちの方に向き直った「改めてカンパーイ!」
ああ、こりゃだめだ、という風に斎は冷めた目で見ているが、シャルロットはどうしたものかと頭を抱えている。そんな彼女の腕を斎はつかんだ。
「えっ?」シャルロットが驚きの声を上げた。
「とにかく行こう、今日しかチャンスはないんだから」
「でも、作戦は……」
「君ひとりで追い立てられるよ、ちゃんと俺は矢を射るから」
「うん……」
「さあ、とにかく時間はないよ、急ごう」
そう言ってシャルロットを引っ張るようにして外に出る。月明かりが二人の影を作った。ぬかるんだ街路を城門に向かって走る。パシャパシャと水たまりを踏む音がする。
夜である。もちろん門は閉じている。自分たちは冒険者でありいまからヴォルパーティンガー狩りに行くのだと言っても守衛は通してくれない。結局これでお願いしますと1ペニー銀貨を守衛の手に握らせると、彼はやっとにこにこして通してくれた。
街の外は農地と、それに隣り合うように森がある。ヴォルパーティンガーはこの森に出没し、畑を荒らすのである。
二人は意を決した。互いにうんと頷くと、森の中へと分け入っていったのである。




