第14話 雨音 その1
翌朝、シャルロットは頭痛とともに目が覚めた。
「うう、水……」
彼女は割れそうに痛む頭を持ち上げると、ベッドのわきの棚を見た。水差しとコップが置かれている。彼女はコップに水を注いで飲んだ。生き返る気がした。
その時板戸を打つ水音に気付いた。外では雨が降っていた。屋根から水が零れ落ち、地面をたたく。土でできた街路はぬかるんでいた。
「ああ、雨……」シャルロットは気だるそうにつぶやいた後はっとした。「雨!」
雨となると大変である。今日はヴォルパーティンガーを狩りに行くはずではなかったのか。
そのときバン、とドアが開いた。びしょ濡れになった斎が入ってきた。わきには樽を抱えている。
「ちょっとそれどうしたの!」シャルロットが叫んだ「びしょ濡れじゃない!」
「風呂屋が開いているから行こうと思ったんだけど、出た途端に大雨に降られてさ」
「その樽は?」
「濡れたついでに服を洗おうと思って。体もぬぐえるし。下で灰汁を分けてもらったから石鹸にもできる」
そう言って斎は服を脱ぎ始めた。
「ちょっと何脱いでるのよ!」シャルロットが金切り声を上げた。自分で大声を上げておいてなんであるが、頭に響く。
「脱がなきゃ洗えないだろ。さあ、そっちの服も渡して」
「なんで渡さなきゃいけないのよ。まだ着れるわよ」
「いや着れないだろ」
そう言って斎は床に落ちている物体を指さした。
それは吐瀉物まみれになった、シャルロットの服であった。
「ぎゃーーー!」彼女は悲鳴にも似た叫びをあげる「なによそれ、あんた何したの」
「あんたがやたんだよ! 覚えてないのか! 昨日、俺があの募兵官をつぶした後、祝杯だとか言って飲みまくったんだよ。それでもどした」
シャルロットは愕然として言った。
「えっ、全然記憶にない」
「だろうね」
斎はそう言って、持ち上げたシャルロットの服を桶に突っ込んだ。とりあえずすすいで吐瀉物を落とす。そして下に誰もいないことを確認すると、窓から水を捨てた。
そしてひっくり返すと、すぐに桶に水がたまった。
そこに二人分の衣服を投入する。灰汁から作った洗剤を入れると揉み洗いをする。
その一連の流れを、シャルロットは唖然として眺めていたが、ふと我に戻って言った。
「そう、そんなことじゃないわよ。そう、大変じゃない」
「何が?」視線を洗濯物から落とさず斎が答える。
「雨が降っているのよ。これじゃあ月は出ないわ」
「仕方ないじゃないか。6ペンスはあきらめるしかないね。また別の仕事を紹介してもらえばいいよ」
シャルロットはむすっとして言った。
「これはあんたのための仕事なのよ、それなのになんでそんな暢気なの」
「喚いても始まらないよ。飲んで吐いている誰かよりはましだと思うけど」
「なによその言い草」
「俺が君のゲロまみれの服を洗っているんだよ?」
そう言って斎は樽の中の水を再び捨てた。そして新たな水で服をすすぐ。
ぎゅっと服を絞ると、柱の間にかけたロープに服を干す。
「そんなので乾くと思うの?」
「魔法を使うんだよ」斎は得意げに言った。「火の魔法は乾の性質を持つだろう。それを服にぶつければ」
「ちょっと待って、それって……」シャルロットが嫌な予感が走る。
「いけ! フィアト・イグニス(火よあれかし!)」




