第12話 ヨービル市冒険者センター
町に着いたのは日が傾きかけたころであった。
今朝の村から8リーグ、すなわち徒歩で合計8時間の距離である。
斎が見た中ではもっとも大きな町であった。城壁に囲まれ、大きな門がある。
それもそのはず、コンラッド伯の領地の中で最も大きな町なのである。名前はヨービル、城壁はその周囲を約1リーグにわたって囲っている。隣の領地との境界線に近く、また帝都から南に延びる3本の街道のうち真ん中の「サン・ピオール街道」はここを通り、交易都市としてにぎわっていた。
通りの両脇には村々では見られないような3階建て4階建ての建物が肩を寄せ合うように並んでおり、商店が軒を連ねている。教会の尖塔や城のようなものも見える。人ごみをかき分けながら進む。
「すごい賑わいですね」斎は言った「今までのところとは大違いです」
「そりゃあ、この付近では一番大きな町だからね」マルティナは言った「さあ、暗くなる前に宿を探そう。冒険者センターが空いていればありがたいんだけど」
「冒険者センターとは?」
「まあ、冒険者に仕事を斡旋してくれるところだよ。宿や居酒屋も兼ねている」
「仕事って、それ必要でしょうか。さっさと南を目指した方がいいのでは」
ちっちっちっ、とマルティナは人差し指を振る。
「お金がいくらでも必要なんだよ。いつどこでどんな足止めを受けるかわからないし、イターキに向かうには船乗りも雇う必要が出てくるしね。それに、あなたの路銀だけど、いつまで私たちが立て替えればいいかな?」
「いや、この旅に連れ出したのはそちらじゃないですか」
「最終的について来るっていったのはあなただよ」
斎は返す言葉がなかった。
「それに、戦闘経験がつめる依頼をこなさないと、実戦をこなせない」
ゲーム風に言えば雑魚敵でも倒してレベル上げをしないことにはどうしようもないということである。斎は、まあもっともなことだな、と思った。
「ええと確かこの道を進めば…‥あっ、見えてきた」
マルティナが指さした先には3階建ての建物があった。看板が剣と盾の形をしている。
「ヨービル冒険者紹介所、ねえ」
斎は看板の文字を眺めながら言った。
「あんた、文字読めたの?」シャルロットが驚いたように言った。
「そりゃまあ、リリーさんのところにいるときに読み書きは習ったよ。魔法にも必要だし」
「そんな短時間でまあ……」
感心しているのか驚いているのか、それともあきれているのかよくわからない声を上げる。
「読み書きもできるとなると、いろいろ幅も広がるね。さあ、中に入ろう」
馬をつなぐと、斎たちはドアを開けて冒険者センターの中に入る。中は薄暗く、すでに飲み始めている冒険者たちの笑い声や罵声が響いている。
3人は受付へと向かった。
「こんにちは、ここに何日か滞在するんだけど、何か仕事の依頼はあるだろうか」
受付にいたのは若い女性であった。彼女は3人の白いマントと、首から下げた貝殻を見た。
「ええと、巡礼騎士様ですか」
サーコートの文様から騎士だとわかったのである。
「そう。路銀がどうも足りなくてね」
彼女は台帳を取り出した。それをぱらぱらとめくる。
「うーん、騎士様への依頼はあるのですが……」困ったような顔をした「数日のご滞在となると、どれも……」
「見せてよ」
マルティナは台帳をのぞき込む。
「うーん、なるほど、領主の傭兵依頼ばっかりだね。これはちょっとできそうにないな」
「ええ。あとすぐにできそうなのならモンスター狩りがありますが……騎士様のご身分には役不足かと」
「なんでもいいわよ稼げれば」シャルロットが横から口をはさんだ。「それに、こっちは一人ほぼ初心者がいるんですから、それでもできないと」
受付の女性は斎を見た。縮こまる思いがした。
「初心者、となりますと……うーん、これですかね、ヴォルパーティンガー狩りとかですか」
「ヴォルパーティンガー?」
「ウサギに鹿の角と羽が生えた動物です。もうすぐ小麦の種蒔きが始まります。その芽が生えたところを、ツノウサギはその角で掘り起こしてダメにしてしまうんですよ。荘園代官の名前で依頼が来ていますね」
「報酬はどれくらいですか?」
「ええと、1羽あたり2ペンスですね」
現行の小銀貨で2枚、という意味である。宿代が1部屋2ペンスであることを考えると、比較的良い案件に思えた。
すると疑問がわいてくる。
「ウサギ狩りなんて簡単じゃないですか、なんでそんな依頼が残っているんですか?」
斎がそう尋ねると、受付の女性は答える。
「それはですね、この動物が特定の条件でないと見つからないからですよ」
「特定の条件?」
「ええ。ヴォルパーティンガーは動物が種族の摂理に反して交わり誕生したものとされているんです。曲がった愛の産物です。ですから、純粋な正しい愛を持つ人にひきつけられる。そう言う人が正しい時に探さないと、つけられない」
「具体的に言うと?」
「具体的に言いいますと、満月の夜に、清らかな乙女でないと、見つけることができないんです」
なるほど、と思いながら振り返って店内を見回した。冒険者の多くはむくつけき男たちである。そして女性もいくばくか見られるが、大半が胸元を強調したり着物の丈が短かったりと煽情的な格好をしている。おそらくは仕事がなければ春を売って生活しているのだろうと斎は思った。現に、この紹介所はそういう仕事も斡旋していたのである。
マルティナは、ははは、と笑った。
「そりゃいいね。わたしたちは教会騎士だよ。清純さは折り紙付きだね。じゃあその依頼、引き受けよう。暦では、丁度明日が満月だっただろうし」
「ありがとうございます。では、こちらにお名前を。まずは会員登録をしますね。それから依頼の契約書にサインを。登録料は騎士様なら一人1シリングいただくのですが、仕事が仕事だけに、普通の冒険者と同じ一人2ペンスでいいです」受付嬢は紙を取り出した。なお1シリングは12ペンスである。受付嬢は付け加えた「そして滞在されるお宿は決まっていますか? 今ちょうど2部屋空きがあります」
「いいや、一部屋でいいよ」小銀貨6枚を渡して、サインをしながらマルティナが言った「お金がもったいないし。浮いた分はここで飲むしさ」
「ええと、ベッドは部屋に一つしかありませんよ?」
「うん?」
マルティナがとぼけたように言う。受付嬢は居並ぶマルティナと、シャルロットと、そして斎を見ながら訝しげにこう言うのだった。
「みなさん、本当に『清純』なんですよね……?」




