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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第11話 旅路の朝

 翌朝、窓にはまった板戸(窓ガラスはなく、板で窓をふさいでいる)の隙間から差し込んでくる陽光で目が覚める。斎はねぼけまなこをこすりながら枕もとをごそごそとさぐった。自分の下着を取り出すためである。


「あれ、これかな……」


 そう言って彼がつまみ上げたのは黒い下着であった。着用する際に横で紐を結ぶ、いわゆる紐パンであった。


「あれ? なんだこれ」


 斎がそう呟くと、その向こう側に顔を真っ赤にしたシャルロットがいた。シーツをつかんで胸を隠している。


「それ、わたしの……」


 シャルロットはぷるぷる震えながら言った。


「ご、ごめん、寝ぼけていたから……」斎は謝った。そしてそれをシャルロットに渡す。彼女はひったくるように取り上げた。


「むこう向いて」


 シャルロットに言われるまま彼は後ろを向く。さすがに着替えるところを見られるのは恥ずかしいのであろう。


「ん、おはよう……」


 もぞもぞとマルティナが起き上がった。もちろん彼女も裸である。シュミーズと膝丈の下着を取り出して着る。


「マルティナ様、やはり服を脱いで寝るのはちょっと……」シャルロットは顔を赤くしながら言った「女ばかりの時はいいかもしれませんが……せめて下着をつけさせてください」


「今は夏だよ。寝汗で無駄に下着が汚れるのは困るじゃないか。毎日取り換えたり洗えるわけじゃないし」


「それはそうですが……」


「じゃあ我慢することだね。私は気にしないよ」


「でも万が一のことがあっても、彼は無罪なんですよ」シャルロットは付け加えるように言った。


「ちょっとまって、どういう意味ですか」斎が聞く。


「そのままの意味よ。知らないの? 『女が裸である男と同じベッドに入った場合、女がその男に強姦されても男は罪に問われない』という法律があるのよ。もちろん場合によっては私闘(フェーデ)の対象になることもあるけれど……」


「まってくれ、俺がそんな行為を働くとでも?」斎が言った。


「男だし、わからないわ。寝ている時に無理やり襲うかも」


「まあまあシャルロット、憶測でものを語るんじゃないよ」マルティナがなだめるように言った「それに騎士として鍛えてきた君が、彼に簡単に組み伏せられるとでも思っているのかな?」


「それは……」シャルロットはうつむき加減に言った「それはそうですけれど」


「さあ、もう服を着て顔を洗ったら出発しよう。今日進めるだけ進んでおきたいし」


「……わかりました」


 そう言ってシャルロットはベッドを後にする。棚に置いていたチェインメールを手に取ると、袖を通すのであった。


***


「そう、結構できるじゃないか」


 次の街までの途中、川辺で昼食のため休憩を取っている。マルティナは斎に弓の稽古をつけてやろうと言った。川辺の一本松を射てみよというのである。


 試みに50歩を隔てて射てみるに、松の幹の真ん中に命中する。

それを見てマルティナは感嘆の声を上げたのである。


「そりゃ、ウサギぐらいなら弓で狩れますからね」


 斎はそう言う。マルティナはうんうんと頷くが、しかしシャルロットはむすっとした顔のままだ。


「なんでそんな彼を持ち上げるんですか。我々が狩るのはウサギじゃないでしょう」


「3か月であれだけできるんだ。このまま練習していけば、島に着くころまでにはそれなりになっているんじゃないかな」そして斎に再び話しかける「にしてもすごいな。目がだいぶいいんだな、私なんて目の訓練だけで2か月だよ。それまで弓を持たせてくれなかった」


「ははは……」斎は空笑いをした。女神様にこの世界に飛ばされるときついでに近視を矯正してもらっていたからである。そして目がよくなりすぎたのだ。サバンナの住人かと思うほど遠くまでよく見えるのである。「それで、マルティナ様は、どんな訓練を?」


「瞬きを我慢したり、虱をじっと見つめたり。そんなのを2か月」


「うへぇ、それはきついですね」


「そう。嫌がらせかと思ったけど、終わってみると確かに世界が違って見えるんだよね。すごいよね。まあ、あなたは元からそう見えているのかもしれないけれど」


「いやぁ……」


「マルティナ様、さっきも言いましたが、彼を誉めすぎです!」


「はいはい、シャルロットもすごいよ」


 マルティナはシャルロットの頭をなでる。シャルロットは顔を真っ赤にした。


「そ、そう言う意味ではありません!」


 その様子を見ながら斎は笑みを漏らした。そして言った。


「まあでも、俺がまだまだなのは事実ですから、戦力になるように頑張ります」


「期待しているからね」


 そう言ってマルティナは斎にウインクしたのだった。


 この後斎は、さらに何回か矢を射て、マルティナから姿勢などのアドバイスを受ける。そして食事をとって、川の水を汲んで革袋の水筒に入れる。そして馬に十分な水を与えると、川辺を後にしたのであった。

紐パンは中世欧州に実在しました。履いていたのはどうも男性のようですが。


50歩の距離は約30メートルですね。弓道における近的が28メートルなので、そんな感じです。

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