第八話 自身の願い
初めての投稿です。温かい目でご覧ください。
「パーシスは願いの力であり、俺たちは願いの中心をコアと呼んでいる。パーシスは基本的にコアを叶えるために必要な力であるため、似た力はあれど、一つとして同じ力はない。そのため、自分のパーシスが他人より劣っているということは決してない、結局は願いの強さと力の使い方だ。よって、この授業は主に、自分と向き合う時間、そして、少しでも力の使い方を知るために戦闘と支援に別れ、それぞれペアを組み、二対二で戦う時間として授業を行う」
黒い雲に空が覆われ、どんよりとした天気の中、オルデア学園の中心にあるコロシアムにおいて、一年上位クラスの担任であるフラッド先生が初めて行われる実践授業の説明をしていた。
多くの生徒がフラッドの説明を真剣に聞いている中、各国の王族、貴族は「一緒に組んで、平民共を嬲り倒そうぜ」などとフラッド先生に聞こえない位置でこそこそと話をしている。
対して僕はというとこの授業があるため、朝からとても憂鬱な気分であった。右隣に立つシーナはただ、先生を見つめ、シーナの隣に立つソルシアはペアを組みたいのか、シーナをチラチラと見つめていた。
フラッド先生が授業概要の説明をし終わり、パーシスの能力によって、戦闘向きか支援向きかに別れるよう指示を出すと、多くの生徒が隣の人や知り合いと自分の力がどちらに向いているのかについて話だし、次第に別れていく。
僕は多くの生徒が動き出すのを見て、パーシスが発現していない僕はどうすればと不安に駆られながら、隣に立つシーナに助け舟を求めるべく、体をシーナのほうへ顔を向けると、シーナは一言「そんなに不安がらなくても大丈夫よ」とフラッド先生の方を向いて答えた。
「えっ、それはどういうこと……」
僕がシーナに説明をしてもらおうと、疑問を投げかける直前、フラッド先生の大きく、厳格な声が僕の声を遮った。
「セト・オルデン、お前はパーシスが発現していないからこっちに来い」
その驚くべき発現に多くの生徒の視線が僕に集まり、怪訝な目を向けてくる。ソルシアでさえ、不安な表情で僕を見つめた。
僕はその視線にたじろぎながらも、下を向き歯を食いしばり、フラッド先生に向け歩きだした。数歩歩いた時、後ろからシーナが少し熱のこもった声で「一週間でこちらに来なさい」と僕に聞こえる大きさで呟き、思わず僕は「はい!」と前を向く。
フラッド先生までのほんの20mほどの距離がとても遠く感じる、僕はシーナの激励とも思える言葉をもらって、強い気持ちを携え前を向いたが、周りの陰口が想像以上に心に響く。
特に、クルセイ様が周りにも聞こえるように大きなこえで笑いながら叫んでいるのが辛かった。
「あの奴隷、シーナの騎士になっていやがるのにパーシスも発現してないのかよ、シーナもよくそんな価値の無いやつを自分の騎士にしているよな」
僕への罵倒であったり、卑下の言葉は、奴隷でいた頃に散々言われて慣れているが、自分の大事な人が卑下されることがこんなにも辛いとは思わなかった。
シーナは何一つ顔色を変えず、戦闘向きのパーシスを持つ人が集まる集団に向け歩いていくが、僕は今シーナがどう感じているのか少し知りたかった。
曇天で少し薄暗い空の下、僕はフラッド先生の前まで辿り着き、その巨体が作った陰の中に包まれ、より一層前の景色が暗くなった。
「フラッド先生、僕は何をすればいいですか」
僕の質問に対し、目の前に立つ大柄な男は「隅で、自分自身と向き合うとともに、コロシアムで戦っている生徒達が何を願っているのかを考え、多くの願いを見極めろ」と、変わらぬ声で告げた。
僕は一礼をし、コロシアムの端に座り、自問自答をし始める。
こうして、やってみると僕は初めて自分が何をしたいのか、自分の願いとは何かについて考える気がする。
これまでは大体、他人のため、特にシーナのために何が出来るかということについてしか考えてこなかった。
僕は何を…… 、深い精神の中にセトは吸い込まれていった。
「ーーは何でいつも鍛えているの?」
子供の声がする、思わず声のする方を向くと、見覚えがある小さな男の子が大人の男性に喋りかけていた。
「そうだね、ーーは、人が生きていけるように鍛えているんだよ」
男性の声はとても優しく、聴き慣れたような声であったが、ぽっかりと開いた穴の様にその男性が誰だったかのかが僕の記憶の中からは抜けていた。
僕は一面、草で覆われた草原に座っていた。
僕は周りを見渡す。この景色に見覚えがあったからだ。
僕は記憶を巡らした、そして、奴隷としてシーナ帝国に来る前に夢で見た景色と同じ事を思い出した。
あの懐かしい景色、そして聞くと涙が出てくる、女性の声、しかし、今回はその女性は見当たらなかった。
僕が景色に目を取られつつも立ち上がり、男の子と大人の男性がいる方に向き直すと、目の前に、先ほどの男の子が立っており、口を開いた。
「お兄さんは、何のために鍛えているの?自分の願いが無いのに」
僕はいきなり現れた男の子に驚くとともに、返答しようと、「僕は……」と言いかけた時、前から強い風が吹いた。
僕は思わず手を前に構え目を瞑った。風がおさまり、目を開けると授業で使っている、コロシアムに戻っており、また、雲が晴れ始め、雲と雲の間から夕焼けの光が差し込んできていた。
僕は目の前で行われていた二対二をぼーっと眺めた。
ふと、コロシアムに設備されている、時計を見ると、先ほどの草原にいた数分間でこっちでは数時間も経過していた。
僕が記憶の余韻にひたりぼーっとしていると、隣から一人の少女が「大丈夫?」と話しかけてくる。
僕が振り向くとソルシアが心配そうな表情をして隣に立っていた。
「うん、大丈夫だよ。ソルシアはもう戦闘訓練終わったの?」
「ううん、今日は先生が選出した4組のチームだけがやるから、私とシーナちゃんはまた今度なの」
僕はソルシアの言葉から、シーナとしっかりペアを組めたんだと安心し、少し笑顔を浮かべた。ソルシアも僕の笑顔を見て安心したのか、照れ笑いを浮かべながら話始める。
「ねぇ、いつか私とシーナちゃんとセトで一緒にチーム組もうね。私、セトとも一緒に戦いたいな」
ソルシアの優しい笑顔に僕も思わず「そうだね」と笑顔で返した。
僕とソルシアが話していると授業の終わりが近いのか、シーナがこっちに来てと目配りをしているのにソルシアが気づき、「行こ」と僕に声をかけた。
僕は、体を持ち上げると、妙に体が重いことに気がかりを覚えずづも、ソルシアとシーナのところに向かった。授業が終わり、シーナとソルシアとはシャワールームが違うため、食堂で待ち合わせをし、僕は男性のシャワールームに向かいながらさっき見た光景は何だったのかと考えていると、背中に強烈な痛みがくるとともに体が前方に吹き飛ばされる。
うまく受け身をとり、前を向くと、そこにはリーダルが立っていた。
「無様だなセト・オルデン、なぜ奴隷でしかも弱いお前がシーナ様の隣にいるのか、身分を弁えろ」
リーダルが強い口調で言い放つと、後ろからクルセイが嘲笑を浮かべながら、「可哀想だろ、やめてやれ」とリーダルに告げた。
bリーダルもクルセイの言葉に同感したのか、クルセイを先にシャワールームに通すと、笑みを浮かべて自身も中に入っていった。
僕は一息吐き、ここに長く止まるのは危険だなと感じ、手早く、シャワールームの角でシャワーを済ませて部屋をでた。
僕は心の中で自分を罵り、夕焼けの日に照らされながら待ち合わせをしている学生食堂へと走り出していた。
場所は移り変わり、一匹、一羽、一人、何て数えたらいいのかわからない異形の怪物が遠く離れた島の洞窟に潜んでいた。ギルドの人間に見つからないよう、殺されないようひっそりと、潜んでいた。強い怒りと、どれだけ捕食しても満たされない食欲をもち、それが爆発する寸前までただひっそりと潜んでいた。
多くのアドバイス、批評を待っています。