第四話 前夜
初めて投稿します。温かい目でご覧ください
セトがシーナの騎士に任命されてから、一週間程経った頃、セトとシーナはアーセム帝国と神導王国エリシタリアに挟まれ、海岸に接する中立国家スイシアに来ていた。
スイシアは国の領土の面積としてはエリシタリアの約20分の1、アーセム帝国と比較しても約5分の1程度しかない小国ではあるが、他の国とはあまり関わりを持たず独自の技術で発展した、漁業と物作りを中心とした国であった。しかし、五年前に終結した戦争の後に生じた変化により、全てが変わっていった。
戦争の終結と共に閃光が駆け抜け全てを包みそれが収まると共に、スイシアの近くにある島、シーザー島に人間が作ったとは思えない高さ100mはゆうに超える巨大な扉そして果実を実らせた木が出現した。そして同時期より、人は自分の願いを叶える力を手にし始めた。一年が経った頃、扉が開き始め、多様な姿をした怪物がそこから溢れ出るように出てきた。
スイシアが変わって行ったのは、アーセム帝国を中心とする人智連合と神導王国エリシタリアはこのことを受け、一時協定を結び、次に怪物に対処するための人材を集めるべく、シーザー島の近くにあり、どちらの国々にも関与をしていなかったスイシアに怪物と戦うための拠点と怪物と戦う人材を育成するための施設を作るよう戦力をちらつかせながら、半ば脅しともいえる協定の締結を結ぼうとしてきたからである。
スイシアは協定を結ぶ以外の道は無く、スイシアの首都に怪物に対処する人材を集めたギルドとその人材を育成するオルデア学園を設立した。
セトとシーナはそのオルデア学園の入学式に備えるべく、スイシアに入国していた。
日はとうに落ち、夜の静けさが訪れきた頃、シーナはスイシアに作られた、アーセム帝国の貴賓専用の宿の一室で羊皮紙に書かれている文章を眺め、文章の内容について考えていると、部屋の外からノックと共に、「セト・オルデンただ今戻りました」という声が部屋に響く。セトは他の騎士と共に行った宿周辺の見回りについての報告を主人である、シーナにしに来たのであった。
「セト、入ってきていいわよ」とシーナが呼びかけるとゆっくりと扉が開き部屋にセトが入ってくる。
セトが部屋に入り、見回りの報告をし始めると、シーナは先刻から眺めていた羊皮紙を眺めたまま報告を聞き始める。
セトが報告を終えると、シーナはふと羊皮紙から目を離し、セトに目をむけた。
「見回りは誰の騎士と行動していたの?」
「シーナ様と同じく今年入学されます、クルセイ様とアルバ様の騎士と共にいってまいりました」
シーナの質問にセトが答えると、シーナはセトの足に注視し、少し低い言葉で再び質問をした。
「じゃあ、その足の怪我はどうしたの?」
セトはシーナの質問を意図的に流したいのか、少し照れた表情を浮かべ「路地裏から突然飛び出してきた、猫にビックリして太腿をたまたまあった出っ張りにぶつけただけですよ」と答える。
シーナが「そうなの」とツーンとした表情でセトの答えに受け答えすると、再び羊皮紙に目を移し、数秒静寂が流れると、シーナは何かに閃いたのか手に持った羊皮紙を落とすと新しい羊皮紙と羽ペンを取り出し、新たに何かを書き始めた。
セトはシーナが手放してこちらにふわふわと流れてきた羊皮紙を拾い上げ、そこに書かれた文章を眺めると、内容に覚えがあったのか顔を上げた。
「シーナ様が書かれているのは、明日の新入生代表としての入学式でのスピーチ内容ですか?」
「ええ、そうよ」
「私が先日読ませていただいたこの羊皮紙に書かれている内容は素晴らしいと思いましたが、変更なさるのですか?」
「そうね、セトと話している間にいいこと思いついたの」
セトはさっき話していた話の内容に何かスピーチの内容を改良するヒントがあったのかと不思議に思いながら、羊皮紙をシーナちょうど使用している机に置き戻そうと近寄ろうとすると、シーナがセトがいる方に片手を突き出し、少し強めの口調で口を開く。
「それ、もういらないからゴミ箱に捨てて頂戴。あと、前にも言ったけど、私と二人きりの時はその敬語やめなさい。私はあなたと対等な関係でありたいと思っているのだから。」
セトはシーナの言葉に強い圧を感じ、「はい」と弱々しく言葉が出ると共に、くるりと体を反転しゴミ箱に直行した。
シーナが羊皮紙に文章をスラスラと書き始め、数十分が経ち、扉の横で主人の警護をするセトは部屋に備え付けられた時計をチラリと見た。
「シーナさ…、明日は入学式になるから、もう休んだ方がいいんではないでしょうか」
時計の短針が10に差し掛かった頃、セトが就寝の時間であると告げた。
シーナは羊皮紙に文字を書きながら、口を開く。
「もう終わるから、先に寝て居なさい。明かりは消しといていいから。」
「分かりました」
セトはそう言って部屋の明かりを消すと、再び扉の前に立ち始めた。
それを見て、シーナは息を漏らし、「分かったわ、もう寝るわよ」と羽ペンを置き、布団に向け歩き始めた。
「セト、明日は楽しみ?」
「はい、だけど不安の方が大きいです」
「願いの力がまだ発現していないこと?」
「はい、僕は力がないのに学園の上位組に入っていいのか……」
「大丈夫よ、私はあなたを信じてるから」
「はい……」
「じゃあ、寝るわ、セトも部屋で休みなさい」
「はい」
セトはシーナが床についたあと、用意された部屋に戻りベッドの上に座りながら暗闇の中、一人考えていた。
(明日は、シーナにとって大事な日だ、僕はシーナのためにできるだけのことをしてやりたい。シーナは僕を騎士として選んでくれた。僕には何ができる?僕には何がある?)
セトは考え続けているうちにだんだんと眠りに落ちていった。
多くのアドバイス、批評をお願いします。