第二十話 僕の願い 3
初めての投稿作品です。
あまり投稿できなくてすみません。読んでくださると幸いです。
風を切る音が絶え間なく続き、金属と硬い物質がぶつかる音が何度も響いた。
セトは変化を遂げた人型アーグルに対して、自分の最高速度をもってすれ違いぎわに何度も剣で切り裂こうとしていたが、人型アーグルのどの部位も自分の力では切り裂けず、かすり傷を与える程度で人型アーグルも全く痛くないのかぴくりとも動かなかった。
「くそっ、力が足りない」
セトは攻撃を続けながら、どうすればこいつに致命傷を与えられるかを考えるが良い方法が思い浮かばない。変化前は今ほど硬くはなく、セト自身より体重が何倍も重かったため体重を利用して致命傷を与えられたが、変化後は人型アーグルの体重がずっと軽く、バランスを崩そうにも崩すことができなかった。
切り続けること約2分、セトは呼吸を切らしたのか荒い呼吸で人型アーグルから距離を取った。
「どうする、どうする」
セトの額から汗が浮かび、打開策が見えない現状に焦燥感を抱いた。
人型アーグルがセトをじっと見つめ、不敵な笑みを浮かべると、セトは剣を構え直す。
「クワセロ」と一言、呟くと人型アーグルは腕の側面がブレードに変化し、変化前より速いスピードでセトへと詰め寄りブレードを閃かす。
セトは急激な速度の上昇に反応がおくれながも片腕のブレードを剣で打ち落としたが、もう片方の腕は避けきれず脇腹を切り裂かれた。
剣を思い切り振り払い、人型アーグルを一旦遠ざけると、血が溢れ出る脇腹を押さえ、片膝が崩れる。
「ヤリカエシタ、ヤリカエシタ」
人型アーグルが笑う声とセトの荒い呼吸と痛みからくる悲鳴が響く。
セトは大量出血と壮絶な痛みから、意識が混濁し視界がグラグラすると、ふと、幻聴のような声が頭の中を響いた。
「コイツを、絶望を切り裂く術は教えただろ、セト」
それはオルデアの声であった。
オルデアの声によりセトの意識が覚醒し、笑みを浮かべセトの様子を窺っていた人型アーグルに相対すと、剣を目の前に立てて口ずさむ。
「光を我に、闇を討ち払わんがために」
その一言にセトの持つ剣が輝き、セトの黒髪が白色に発光し始める。
その光に、人型アーグルは不快感を覚えたのか、咆哮をあげると、最後の戦闘の幕が上がった。それは一瞬のことであった。
「アレリヤ刃界術、輪舞」
セトが剣を構え、その名を呟くと、虚空から眩き光の刃が二つ出現し、セトは人型アーグルへと疾走した。
人型アーグルがブレードが生えた腕をセトに向け閃かせると、セトは舞い踊るように優雅に剣で受け流し、その反動を利用して人型アーグルを切り裂いた。
「太陽の冠」
そう呟くと、セトとともに迫った光の刃が人型アーグルの頭上をクルクルと回るとともに急劇に降下し、胴体を貫いた。
セトが血振りをし剣を鞘に納めると、髪の色が元に戻り、人型アーグルを貫いていた光の刃が消え、人型アーグルはピクリとも動かなくなった。
セトは人型アーグルが絶命したのを確認し、ソルシアの元へと駆け寄ると少し力が入るようになったのか、ソルシアはセトが駆け寄ってくるのを視認すると壁を手で掴み体を持ち上げ、セトに駆け寄ろうとする。しかし、まだうまく力が入らないのか壁を掴んでいた手から力が抜け、倒れそうになるところでセトがソルシアの体を支え、二人は顔を見合わせ、笑った。
「やったね、セト」
「ありがとうソルシア、ソルシアのおかげで僕はまだ生きているよ」
「それはこっちのセリフだよ!」
ソルシアがセトの発言になけなしの力で突っ込むように答えると、二人はクスクスと笑い合った。
「手当てをしないとね、今、私が力を使えればよかったんだけど」
「大丈夫だよ、まず学園の中心まで戻ろうか、流石にリーダルたちが、先生を呼んでいるさ」
「呼んでいるなら、もっと早く来るでしょ」
「そうだよな、ならなんで…」
二人が救援が来ていなかったことに気づき、なぜかといぶかしげな顔を浮かべ考えだすと、人型アーグルがいる方向から突然女性の声が響いた。
「それは、私が逃げた3人を眠らし、周囲に漏れそうな音を外に聞こえないようにしたからですよ」
気配もしなかった、不意な声に二人は驚き振り向くと、人型アーグルの隣にフードのついた全身を覆う外套を身につけ、顔は見えないが声色から女性だと推測できる人が立っていた。
「それにしても、あなた何者ですか?正直この学校の生徒でこいつらを殺せるのは3人程度しかいないと思っていたんですけど、それに最初の戦闘を見る限りあなたさっきまでパーシスに目覚めてなかったそうですし、それにこいつを殺した最後の力は……」
フードを被った女性が淡々と話し始め、二人が呆気に取られると、それに気づいたのか一つ咳払いをして改めて話し始めた。
「まだ名前を名乗っていませんでしたね、私はウルト教団に所属する、クーゼという者です、まぁ名を知ったところですぐに死んでしまうのだから関係ないですけど」
「あなたは、何をしに来たんだ?」
クーゼが話終わり、人型アーグルの死骸の周りをクルクルと回りながら何かを確認し始めると、セトがソルシア壁にもたれかけさせ、剣を構えるとクーゼに何が目的かを質問した。
「目的ですか?そうですね、神の元へと還ることですよ」
クーゼが不敵な笑みを浮かべそう答えると、腰につけたポーチから何か液体が入った注射器を取り出し、人型アーグルに挿入した。
「さぁ、神人類への兆候を今度こそ、見せてください。私たちの宿願のために」
液体を全て注射すると、クーゼは注射器をポーチにしまい、二人に振り返り外套の裾を持ち上げ、王族、貴族のような気品を身にまとい一礼すると、大きく跳躍した。
「あなたたちの魂が神の元へと還ることを願っています。どうぞ、死んでください。」
クーゼが学園の周りを囲む壁を飛び越え、姿が見えなくなるとセトは嫌な予感がしたのか、人型アーグルに勢いよく振り向いた。
「何なんだ、これは」
セトが振り向くと、人型アーグルはまるで脱皮をしているかのように全身の皮膚が一気に剥けると、全身黒いだった体が、白色となり、目は血の色のような赤に染まっていた。
「お兄ちゃん、お腹が空いたよ、食べさせて、お兄ちゃんを」
「なっ、何でまるで人間じゃないか」
人型アーグルがしっかりとした人の言葉を話すことに驚愕を隠せなかったセトだが、その存在から発せられる圧を感じ、パーシスを発現させるとともに、オルデアに教わった剣術の構えをとる。
「光を我に、闇を打ち払わんがために」
再び、セトの髪が白色に変わり急劇に上昇した身体能力をもって人型アーグルに突貫し斬りかかると、先ほどは対応仕切れなかったセトの攻撃をブレードで防ぎ、セトを蹴り飛ばした。
「さっきより強くなってる!」
蹴り飛ばされた反動を受け身を取りなんとか殺しながら、人型アーグルの成長にセトは出し惜しみをするわけにはいかないと感じたのか、一旦距離を取り、目を瞑り意識を集中させると剣の輝きが強くなった。
「アレリヤ刃界術~輪舞~日の頂」
セトが疾走し人型アーグルの懐へと入り込み真上に蹴り上げると、セトの『輪舞』という声とともに現れた三つの光の刃が人型アーグルを三角形に囲むように広がり、上空に蹴り上げられた人型アーグルを山を駆け上がるように光の刃が動いて突き刺した。
光の刃が消え、落下した人型アーグルに対し、終わってくれと願うようにセトが息を切らして剣を構えると、人型アーグルは一言「僕、生きてる?」と呟いた。
人型アーグルが傷から流れる血を感じながら立ち上がると、セトに顔を向けて笑った。
「痛みって、生きてることを実感できていいね」
人型アーグルが笑みを浮かべたまま接近し、ブレードで攻撃してくる。
セトはそれを何とか防ぎながら、もう一回技を使おうと隙を窺うが、力を使いすぎたせいか目が霞、セトの髪も黒色に戻りつつあった。
「くそっ」
セトは意を決し、ブレードを力強く弾き斬りかかろうとしたがセトの力はそこまでだった。
ソルシアと同様に急に力が抜け、その場に倒れ込んだのだ。
(やばい、こんなところで倒れたらソルシアも殺されてしまう)
セトは何とか立ち上がろうと、体に力を込めるが、意志とは真逆に体から力が抜け意識が遠のいてくる。
「セト…セト!」
ソルシアの声が響くが今のセトには届かなかった。
人型アーグルがセトの動けない状況を知ったのかゆっくりと近寄りブレードを振り下ろした。
「だめ!」
セトの命を刈り取るはずだったブレードはセトの身には届かず、空中で光の壁に阻まれた。
ソルシアはまだあまり力が入らない体を無理やり起こし、パーシスを発動させ、セトの体の周りに光の壁を貼ったのだ。しかし、最後の力だっのかソルシアの意識が飛びその場に倒れた。
「ソルシア…大丈夫か?」
横目でセトは自分を守ってくれたソルシアを心配するが、その声は届いてはいなさそうであった。
セトはソルシアだけは守ろうと少しずつ腕で体を引きずりソルシアに近づこうとするが、人型アーグルの刃が閃いこうとしていた。しかし、次の瞬間、人型アーグルは自分がきた用水路の奥から感じたことのない圧を察してセトの側から飛び退いた。
着地してすぐさま顔を上げると、セトの側には燃え上がる炎のように赤く、人間の姿をしているが、人間とは思うことのできない自分と同じような異形な姿をした生き物がそこにはいた。
セトは顔は見えないが、その真っ赤な赤色を視認し、「ごめん、シーナ」と呟き、意識が途切れた。
「よくやった、セト」
人型アーグルは急に現れた目の前の異形に震え上がり、逃げようとするが圧倒的な恐怖に力が入らないのか四つん這いになり何とか動いていたが、意識を失った二人の生徒を残し誰も居ないこの空間でその異形は全てを打ち砕いていった。
「かわいそうに、眠りなさい」
真っ赤な姿に反した、静かで冷たい声がただ響いた。
多くのアドバイスと批評を待っています。