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SNS断ちしたら人生変わった

作者: 結月楓

 朝起きた時。

 通勤電車に揺られる時。

 昼休みの時。

 家に帰った日暮れ時。

 入浴の時。

 寝る前のひと時。


 これは僕がSNSに費やしていた時間。

 現実世界で仮面を被って震えている僕が唯一心を溶かした瞬間。


 喜びも悲しみも苦しみも怒りも。

 驚きも欲望も嘆きも羨望も。

 全部、全部吐き出して、僕という人格はすっかり電子の渦に飲まれていた。


 SNSに存在する僕こそが本当の僕であり、SNSが無ければ僕という存在は成立しない。


 本気でそう思っていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆



「結月君? 急に無言になっちゃって、何考えてたの?」


「あ、いや、なんでもないよ」


 腫れぼったい(まぶた)を一擦りしながら返事をする。


 この二日間僕は殆ど眠れていない。

 その理由は簡単、一昨日SNSをやめたからだ。


 きっかけは不謹慎な写真投稿による炎上。

 自分ではちょっとした悪戯のつもりだったのだが、世間はそうとは捉えなかった。

 幾千、幾億にも思える剥き出しの敵意を生身で受け止めた僕はもうボロボロで、立ち直る力は微塵もなく、その日SNSアカウントを削除した。

 毒を孕む電子の海の中で生きていくには、僕という器はあまりにも小さすぎた。


 自分の心を投影するフィールドを失った僕は、やり場のない感情に救いを求めるため、高校時代の友人を集めて後日飲み会を開いた。


 今はその二次会の英国風パブで、スタンディングテーブルを取り囲み、ショットグラスを片手に一杯やっているところだ。


「それにしても驚いたよ、結月君がそんなに結婚願望あったなんて」


 僕は今までかっこ悪いと思う自分の姿をあまり見せないようにして過ごしてきた。

 無様にもがき苦しんで、必死に生きている本当の姿はSNSに投稿することで満足していた。

 でもSNSを失って、ちょっと考え方が変わったんだ。


 もう仮面を捨てよう、隠すのはやめようって。


「恥ずかしい話だよね、この年になってようやく焦り始めるなんて。年収もたかが知れてるし、相手が見つかるかなんてわからないよね」


「卑屈すぎでしょ! 一緒に家庭を作ってこうってタイプの子だっているんだから行動しないと。良かったら女の子紹介するよ? 私の周りには結婚したい! 男の子紹介して! ってバリキャリの子結構いるし。パーティーでも開こうか?」


 高校の時Msに選ばれた程の美麗な顔立ちの彼女の左手薬指には、きらりと輝くリング。僕にはそれがとても眩しい。


「……是非。お願いします!」


「お、結月急に元気になりやがって、調子のいい奴!」


 横で会話を聞いていた男友達から野次が飛んできたけど気にしない。


「パーティーなんだからお前も呼んでもらえよ」


「うるせー、俺は結婚する気なんてないからいいんだよ」


「老後になって後悔してもしらないぞ~」


「うるせー、誰だって結局死ぬときは一人なんだよ」


「なるほど、そういう考え方もあるか」


 いつの間にか人がまばらになっている。終電も近い。


 僕はグラスのウイスキーを一気に飲み干して、携帯のSNSアプリを削除した。

人生変わるかは今後次第なんですけどね。

悪い方向に変わる事だって十分あり得ます。

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