熱中卵は夢をみないa
「わたし、小説書くのやめるから」
まぶしい太陽が白い校舎をからからにしてく、夏の日。白いカーテンが揺れる美術教室で、黄色の夏服に身を包む女子高校生まひろは宣言してきた。
「なんで私に報告?」
「創作仲間のさや先輩には一応報告しとこうかなって」
「ふーん」
さやは筆を動かし続けた。電子画板に絵を描いている最中だった。髪は後ろに束ねポニーテールにし、腕の黒い袖をまくって、描き殴る。さやなりの作品に対する姿勢だった。
「まぁ、この時代に創作するのは大変よね。ペンネーム使用しても本名や住所やら全てわかっちゃうし~」
「先輩はあいかわらず冬服のまま何描いてるんですか?暑くないんですか?」まひろは嫌味たらしく尋ねてきた。
「まぁ、暑いよ。今度は夜の森の絵。さっき、読書感想文用のつもりでシェイクスピアの「夏の夜の夢」読んだの。その時のインスピレーションをね」
「......へえー」興味なさそうな空返事をまひろは演じていた。小説が関連して余計気に食わなかっだのだろう。聞いておいて失礼なものだ。
「課題図書は大人の思惑が丸見えでつまらない。だから、荒削りだけどまっすぐで、未熟だけど純粋なまひろの小説が好きだったわ。毎回読むのを楽しみにしていたのに残念ね」と嫌味たらしく返した。
いつもならここでムキになってくるまひろだが、それはなかった。
「......先輩、わたし本当にやめるからね」
「いつもの小説書けない書けない詐欺じゃなさそうね」
電子筆を置いて、まひろに体を向けた。
まひろは体をびくつかせた。
書いた創作物はインターネットに自動登録され、可視化される。それは途中経過であっても上書き保存され、投稿という概念がない。
ゆえに、さやの描いていた絵画もアーカイブに上書き登録されている。昼の時代が始まる前は公開処刑だのいわれていたらしいが、盗作防止の観点から徐々に受け入れられた。批判を恐れて書かなくなったプロ作家もいる。
「私の知るまひろは批判されて本当にやめるやわな子ではなかったはずよ。なんで急に?」
「プロの作家に指摘されたんです。IPアドレスはマイナンバーなので、誰が言ったかわかりますから」
「よかったじゃない、プロの目に止まって。可視化至上主義の情報過多なこのご時世で、なかなか発見されないものよ。で、どんな作家なの?」
「VRMMO系エンタメ小説作家。52万views。副業で広告会社勤務のサラリーマン。年収320万で作家収入は105万です」
「そんな気にすることないわよ。副業でリーマンやってるやつなんかに」
「副業やってる作家の方が多いですよ。昼の時代の前じゃ、夢も見られませんね。いいんです。自分でも才能ないって見えてたし」
さやはぐるりと頭を回す。日頃は絵画のことしか使わない頭を鈍く稼働する。まひろが小説を辞めるのが腑に落ちない。これだけが原因ではなさそうだ。そういえば、時期的に適性診断なんていう、実にくだらい結果が帰ってきたことを思い出した。
さやは空間上に情報を表示した。
「私は去年絵画適性48.5%で今年は63.9%よ。適性診断なんてやった時々で変わってくるものよ」
「まひろも見せなさい。見せなくても学校アーカイブからまひろの情報見れるけど」
まひろは渋々開示した。
物書きの適性は3.2%と予想をはるかに下回るほど低かった。長距離走適性が74.4と一番高い。
「あー、まひろ足速かったもんね。こんな適性高いんだ。可視化≒最適化でいうなら、賢い選択は走るだろうね」
「もういいですよ!!先輩のばーか」
美術教室を飛び出して行った。
「ほんと、賢くてざんねんね」
呟くような独り言は美術教室にこだました。
どうも夜桜咲です。
よく小説書けない書けない詐欺してます。
稚拙な文をお読みいただきありがとうございます。小説での創作はほぼ処女ですがよろしくお願いします。
わかりずらいメタファー
白い校舎→卵の殻
白いカーテン→膜
黄色の夏服→未熟な卵黄→ひまり 高1
黒い冬服→熟した卵黄→さや先輩 高2