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一度滅亡した世界の物語  作者: うたり
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(1)プロローグ


 ワープアウトした先に、小さな太陽系があった。その第三惑星には 知的生物が存在する兆候がある。

 接近して確かめることになった。


「見ていられないな」4番氏族テタの男性が言った。

 感情的になってしまうのが この種族の特徴ではあるものの、それは あまりにも凄惨な光景だった。

 特にエウロパと呼ばれる地域と その周辺が酷い。無知だからこその悲劇、それさえも自覚していない。

 無知を助長する存在がある。残虐な行為を正当化する存在がある。「神の語り部」だ。

 ほんの些細な、くだらない理由で簡単に戦争を起こし、僅かな領土の奪い合いをしている。それを推奨しているのも「神の語り部」だ。明らかに政治的に利用されている。いや、積極的に係わっている。調べると それが何百年も続いているようだ。

 神の定義は、存在する筈もない造物主だ。

 実際には その代理人や預言者が「神の語り部」となって その言葉を告げる。というシステムとなっている。

「どうする? 介入するの」2番氏族デイの女性が確認した。彼等は理性で判断する。あまり乗り気には見えない。乗り気ではないものの、やっと見つけた「調査対象」である。切り捨てるには惜しい。それが本音であろう。

「六分割して対応してみない。等分とはいかないけれど、ここの文明の種類で分割した感じでは それで問題なさそうよ」7番氏族エプの女性は、既に介入を前提に話している。彼等の種族は、決断が早く行動的だ。

「エウロパは、力で捻じ伏せた方がよさそうだ」8番氏族オクの男性も賛成のようだ。

「その南のローマンとタークも、同じですね」9番氏族エンの女性も賛成した。

「我々の領分ですね」エプが言った。

「これで、実験も開始できそうだ。私達は その反対側を担当しよう」1番氏族エイの男性が、2番と3番氏族の代表に視線を向けて提案すると、彼等も同意した。

「では、我等4番から6番氏族で下準備にかかりますね」6番氏族エクの女性が立ち上がりながら、同種系統の仲間に行動を促した。これは、確かに感性に干渉できる彼等が相応しいだろう。

 多重分岐世界調査ための巡航である。その上、うまく実験場所探索の目的も達成できそうだ。実験準備は先々代によって完成されている。あとは計画案の通り実際にやってみれば良い。3番氏族トレの男性は、冷徹な考察に基づく結果を予想した。そして予想を裏切るハプニングを期待していた。


 多重分岐世界調査研究チーム・番号93065船の乗組員は 代表者全員一致で、その惑星に干渉すことを決定した。


 具体案が検討された。会議室に九名の氏族代表が集まっている。

「まずは、この星の全人類に自転数で五回 同じ夢を見せよう。世界の真実を知らせるとしようじゃないか」5番氏族ペンの男性が干渉の初手を提示した。

 最適な方法だと 全氏族の代表が賛成した。

「夢の内容はどうしますか」と言うエクの問いに、テタが答えた。

「まずは『神』を抹殺しよう。あれが元凶だ。例えば『我々が、この世界を創った者である。しかし、お前達の思っている神ではない。何者にも意志を伝えていないし、代理も許していない』これで現状を否定する。

 あと具体的に『神の言葉を伝える者の全てが 偽りの聖職者である。直ちに その地位を剥奪し追放せよ。追放された者には、その虚偽の教えによる 全ての被害者への謝罪と賠償を命じる。この命令に背く者は 我等の名の下に断罪、処刑され、一切の救いを剥奪した上で永遠に地獄を彷徨うことになる』これくらい脅せばよいだろう。

 そして『また、この世界が唯一のものではない。よく観るが良い。この世界の真実を』と、こう言って分岐世界を見せる。これでどうだろう」

「良いな。それでいこう。多くの世界を見せるのは具体的で、言葉より遥かに説得力がある」ペンが賛同した。

「それでも疑う者がいれば、実際に奇跡を起こせば良いだけね」この エクの言葉が実行されたのは、エウロパで使用されている暦法、ユリウス暦で十五世紀半ば 夏のことであった。


 奇跡は 地球を半回転させ、南北の極点を反転させるという形で実施された。季節が逆転したのだ。それは驚いただろう。これで、神とその代理人の特権は剥奪された。

 度量衡を統一した。この星の自転周期を元に一秒を仮定、光速度を三十万キロメートル毎秒と確定してから、逆算して一秒を決めた。メートルと秒が決まれば、それに合わせて、一日は きっちり二十四時間に、一年は三百六十五・二五日に固定した。そう、誤差をゼロにしたのだ。重さは変えていない。一気圧・摂氏四度の純水一リットルの質量を一キログラムとした。

 地球の、この系統の世界において中世は、暗黒時代を早々に終了した。


 ユリウス暦・十八世紀。我々が居住することにした この世界には、更に大きく干渉した。

 まず、暦法を『征暦元年』とし、言語と文字を統一した。それは、三世紀の間に 東洋で急激に版図を拡大した国の言語である。非常に無節操で、どの言語でも吸収する機能があった。漢字、ひらがな、カナカナ、アルファベット何でもありだ。「これは面白い」ということになったのだ。

 一切の戦争行為を禁止した。

 厳格な施政システムを創り、全員に平等な機会を与えることにした。しかし急激な政治形態の変更は混乱の元だ。緩慢な改変を勧めることとし、最上位に このシステムを置いた。


 実験も、つつがなく実施された。




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