キラーマシン、それでもお姉ちゃん
僕のお姉ちゃんは去年帰ってきた。ズタボロの状態で返された。体は半分も残ってなくて、顔もほとんど擦り切れてしまっていた。
今だから考えられる、僕のお姉ちゃんは最初からロボットだ。芸術には疎いけど、暗記も苦手らしいけど、いろんなことを知っている。お姉ちゃんは家庭科が得意で、外れたボタンや破れたぬいぐるみが次の朝、いつのまにか直っていたこともあった。走るのも、短距離走だと僕はお姉ちゃんに勝てない。
得意な教科では本当に強いお姉ちゃんを、みんなはロボットだって言ってた。
昔、家まで走って帰ろうって言った後、お姉ちゃんはぐんぐん僕から離れていったんだ。見えなくなりそうで、このままお姉ちゃんがいなくなりそうで、泣いた僕に気づいたお姉ちゃんは息を切らしながら
「おぉ、おぉ、よしよし。どうした、かわいい弟よ」
そして頭を撫でて、抱きしめてくれたんだ。
お姉ちゃんが壊れたのはとっても綺麗な秋空の下だった。その日はたまたまバスが遅くて、駅まで歩いて行くことにしたはずで……前の日は雨で、落ち葉が濡れていて……お姉ちゃんは受験勉強で疲れていて……突然司会の隅っこで、お姉ちゃんは倒れたんだ。そのまま、ガードレールの隙間から、お姉ちゃんは落っこちたんだ。
いつのまにか、お姉ちゃんが帰ってきていた。お母さんは驚いていた。お姉ちゃんは機械がいっぱい体からはみ出していたけど、僕のことをあの日みたいに
「おぉ、おぉ、よしよし。どうした、かわいい弟よ」
お姉ちゃんはきっと最初からロボットだったんだよ、だから直って帰ってきたんだ。
とにかくお姉ちゃんは喜ぶ僕の頭を撫でて、抱きしめてくれたんだ。
帰ってきたお姉ちゃんは、前よりもずっと強くなっていた。僕の方が身長は越したんだけど、前より速く走るし、裁縫もミシンみたいに正確にするようになった。暗記も得意になったって嬉しそうに話していた。死んだとみんなが思っていて、学校には行けないから……お姉ちゃんのことはみんなに秘密にしてねって言われたから、ちゃんと約束は守った。
お姉ちゃんは火炎放射器ってのを見せてくれた。左腕の皮を脱ぐと火炎放射器が出てきて、本当はもっと遠くまで届く火を出せるけどって言いながら、蝋燭に火を点けた。最初にシューって音を立ててから、ゴーって火が飛んで行くんだ。なぜかちょっとだけ泣きながら、すごいだろって言ってお姉ちゃんは笑ってた。その日の二人での花火はとても楽しかった。
お姉ちゃんが壊れたのは桜の蕾が膨らんでいる日だった。車庫の前でサッカーボールを片付ける僕の目の前に、まずスリッパが一つ落ちてきた。前の日、空から物が落ちてきたらすぐ離れるんだぞってお姉ちゃんに言われてたから、少し離れた。そしたらもう片方も落ちてきたから、もっと離れた。次に落ちてきたのはお姉ちゃんだった。
そしてまた、お姉ちゃんが帰ってきた。あの日お姉ちゃんを拾い集めてたおじさんたちが、おじいさんになって、お姉ちゃんを持ってきた。人間みたいな体は半分も残ってなくて、顔もほとんど擦り切れてしまっていた。沢山の壊れた機械が絡みついたお姉ちゃんは、大人になった僕よりずっとずっと大きくなっていた。
驚く僕にお姉ちゃんは銃口を向けた。
「おぉ、おぉ……あれ?」
お姉ちゃんは自分の手を見て驚いていた。
「……よしよし」
お姉ちゃんは銃口を引っ込めて、今度はチェーンソーと火炎放射器を突きつけた。
「……どうして?」
お姉ちゃんは自分の手を見てまた驚いていた。
「…………」
全部の手をぶら下げて、
「かわいい、弟、大好きだぞ」
お姉ちゃんはバラバラになった。怖い姿でもお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。壊れて尖った金属のパーツが刺さったけど、中心に近い部分はとても熱くて体が焼けたけど。その日多分初めて僕は、僕からお姉ちゃんを抱きしめた。