密談(3)
ちょっと短め。
この20年間、性懲りもなく召喚を試みていたのは、主に二つの勢力。
一つが隣国マランティで、ラハド五世の母の出身国。そしてもう一つは、例の王女の外祖父と対立する一派だった。
別の書類を見る限り、今回の騒動の原因は国内にある。それは、ガディス卿が調べさせた範囲で判った事と同じ答を示していた。
「意外性は欠片もないが、しかし」
「また厄介な話ですね」
タカハシ書記官はいつもの穏やかな様子を崩さない。
再召喚騒ぎで仕事の量は確実に増えているはずなのだが、疲労を伺わせる様子はどこにも無いし、重大問題を扱っている事すら感じさせない、見事なまでの平常ぶりだった。
「これは魔導卿の功績にしなくて良いとおっしゃられたが、本当に大丈夫なのだろうか」
手柄の横取りになるようで、なんだか後が怖いのだが。
しかしタカハシ書記官は
「寺井本人が言ってるんだから、気になさらなくて良いですよ」
と、特に驚いている風でもなかった。
ちなみに出身国も同じ上に年齢も同じという事もあり、タカハシ書記官と魔導卿は近しい友人だから、こういう言葉遣いもおかしなものではない。
「寺井は表に出たがらないですからね。目立つのは嫌だそうで」
「……何を今さら、と言っても良いだろうか」
「そこは言わないでやってください、創作物じゃ定番の悪役だけど」
くすくす笑ったタカハシ書記官は、心底面白がっている様子だった。
「悪役、は言いすぎでは」
「いやいや、そんな事ないですよ。主人公の味方ではあるけど目的のためには手段を選ばない悪党、が定番の役どころじゃないですか、魔導卿って」
たしかに、演劇などで登場する魔導卿は、お世辞にも善人とは呼べない人物になっている。
「しかもここ20年くらいで、過激な人物像がどんどん作られてますからねえ」
「あれも、規制しなくて良かったのかな」
「下手に規制すると、逆にもっと凄いもの作られますよ。それに寺井を犯罪者として描いてる作はないですし、気にしなくて良いんじゃないですかね?」
「機嫌を損ねられたら困る」
「その時はこちらで説得しますから、ご心配なく。それにお伽噺より、現実に対処する方が先です」
現実主義者のタカハシ書記官は、容赦なくガディス卿の執務机に書類を置いた。
「国務卿お一人に動いて頂くわけにも参りません、ご許可いただければとの言付でした」
「警察長官か。……一部なら任せても良いだろうがね」
王宮内捜査の許可を求める書面を意味もなくいじりながら、ガディス卿はしかし署名する気にはならなかった。
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