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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また仕事が増える

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もう一人の問題児

 証人喚問が終わるとすぐ、休憩の鐘が鳴った。

 元々の予定ではもう少し早く休憩するはずだったが、気を使ってもらうほど弱ってもいないので承諾した結果、三十分ほど予定が延びていた。


「たしかに、ご高齢だからと気を使うのは返って失礼だろう」

「肖像画は若い頃のものしかないと聞いていたが、本人がお若いだけだったんだな」


 休憩時間になると、そんな話をしている声が聞こえていた。


「すっかりバレたなあ」


 口調は普段のものに戻す。あんな気取った話し方をいつまでも続けてたら、私が噴出すところだ。


「良いんじゃないの、そろそろ現実見せてやっても」


 高橋は相変わらずの調子だった。


「そこらはまあ、構わないんだけどね。これで外出が面倒になったかと思うと」

「そっちの心配?」

「顔を知られてないって便利なんだよ」


 実年齢と外見年齢が一致しないから、あまり警戒されることがない。しかしこういう形で顔を晒してしまったら、今後はそうも行かなくなるだろう。


 控え室の扉が閉められると、外の声は聞こえなくなった。

 ここは議会にいくつかある控えの間でも、上等のものだ。今回は第二王子のサール君と第四王子のディガン君がいるので、ここが割り当てられたらしい。暖炉がある居心地を良く考えられた部屋で、備え付けの家具も立派だった。

 サール君は我々に構わずさっさと暖炉のそばの椅子に近寄っていったが、そこでディガン君が咳払いをした。


「兄上」


 軍人らしくきりっとした声に、サール君が鬱陶しそうに振り返り、それから我々に気がついて、ばつの悪そうな顔になった。


「あ、ああ、そうだな。魔道卿、どうぞこちらへ」


 相変わらずと言うわけだ。


「君のほうが身分が上じゃないのかな」


 もちろん本気で言っている訳ではない。


 身分制度など、同じ枠組みの中に生きていなければ何の意味もない。異世界人である以上、我々が相手の身分に敬意を表するのはあくまで好意からのもの。従う義理などそもそも無い。

 そして無意味な身分を振りかざすようであれば、王族としての自覚が足りないと言える。

 つまりこれは試験だし、サール君はかつて二度、この試験に失敗していた。

 今回も、ディガン君は合格だが、サール君はディガン君のフォローが無ければ危ういと判断できた。


「子供の頃とはいえ、大変失礼いたしました。無礼のほど、お詫び申し上げます」

「理解できたなら結構」


 サール君が場所を譲ったので、さっさと座った。

 表向きの身分を問うならたしかに、第二王子であるサール君が最上位に見える。

 しかし私はサエラの元後見人。高橋も表向きは高級官僚だが、その実は王室の監視者であって、王室より上位に位置する立場だ。この国でのややこしい身分制度を尊重するなら、第二王子よりも『女王の庇護者』『王家の監視人』のほうが上に来ざるをえなくなる。

 さすがのサール君も、大人になった今は、そこらを理解できるだけの知識は叩き込まれたようだ。

 実践が伴わないのはどうかと思うが。


「兄上、なにをやらかしたんです?」


 ディガン君には具体的に教えていなかったが、どうやら彼もなにやら察したらしく、ややじと目になっていた。


「ここで聞くか?」

「聞いておいたほうがよろしいでしょう。王族として間違いを犯したなら、場合によっては僕も連帯責任って事になりますからね」


 ディガン君はあまり表情を動かさずにきっぱり言い切ったが、


「母上が責任を取られたから、ディガンは気にしなくていい」


 サール君は逃げる気満々。


「サール君が言いにくいというなら、私からディガン君に説明しても良いが?」


 もう一押ししておくか。

 もちろん、助けの手を差し伸べたつもりは毛頭ない。これまた試験である。

 ここで説明さえ出来ないようなら、それまでだ。


「いえ、私から説明いたします」


 さすがに何か拙いと気がつくだけの能力はあるか。

 とはいえなかなか決心がつかないのか、かなり戸惑ってから


「昔、魔導卿に無礼を働いた」


 そう、簡潔に言っただけだった。

 何が拙かったのか、それすら理解していまい。理解していると期待はしていないが。

 ディガン君がため息をつき、高橋は


「おや、ずいぶんと軽い話にしましたね」


 と、いつもと違う、感情をまったく含まない低めの声でコメントした。

 そしてちらっと控えていた侍従に視線をやる。

 サール君もその視線を追い、合図された侍従が取り出したものを見て、唇を引きつらせていた。


「兄上、ここで誤魔化すのは下策ですよ」


 ディガン君ももちろん、意味は判っているだろう。


 侍従が高橋に手渡したのは、例の日本刀だ。受け取った高橋はといえば、普段は柄と鞘を巻きとめている組紐をゆっくり解き、抜刀できるように準備をしていた。


「ああ、いや、その、誤魔化すつもりでは」


 サール君も理解したらしく、あわてている。

 なぜかこっちを見たので、黙って見返すだけにとどめた。


「兄上、きちんと話されることをお勧めします。この様子からすると、兄上の失態は『王家の断罪人』を動かすだけのものだったようですね」


 高橋はことさらゆっくりと、左手に刀を持ちかえていた。


「カタナを抜かれるより前に、ちゃんと話されるべきですよ。その剣の意味は、さすがにご存知ですよね?」


 ディガン君の声も低くなる。


「あ、ああ」

「で、なにをやらかしたんです」


 ディガン君もなかなか演技派だった。


「うむ、その……魔導卿を、奴隷以下の異世界民と罵った」


 異世界人をふくめて召喚という拉致をし続けたラハド五世と、言っていることがまったく同じだ。

 そんな言葉を口にすれば、王家は罪を償う気がないと受け取られかねない。少しは王族の自覚を持ってもらいたかったものだ。


「その様子だと、どうせ他にも何か言ったんでしょう」

「ああ……私は王子なのだから、上座を譲れと」

「それ以外にも何かやったんでしょうが、あとで昔の調書でも探しますかね?」

「その、当時はまだ、事情を理解してなくてだな」

「お幾つだったんですか」


「十六歳だな」


 サール君がごまかす前に、私から教えておいた。


 サール君に言い訳の余地など無いことは、はっきりさせておいたほうが良いだろう。

 ちなみにやたらと偉そうに『わたしは王子だ、奴隷は下がっておればよいのだ!』と叫んで私の悪いほうの足を蹴飛ばしてきたので、その場で床に転がしてドゲザ・スタイルをとらせ、這い(つくば)らせた。

 なにしろ16歳と言えば、サイズだけ見れば大人に近い。そんなサイズの無分別な少年に思い切り蹴りを入れられてたら、当時の私では無事ではすまなかっただろう。よってあの場での魔力使用は正当防衛である。


 ちなみにその時はサレク君が目撃者で、私が魔力を解いたあと、サレク君に思い切り殴られていたのは余談だろう。サレク君は私よりも容赦が無かった。


「……兄上。それはしかるべき行動をとれと求められる年齢です。少なくとも私は、14歳の時には幼年学校におりましたよ」


 ディガン君と比較するのは酷だ、とは言わないでおいた。


 幼い頃から優秀で幼年学校入学試験にも悠々と合格したディガン君と、特に良いところも無かったサール君では、受けてきた教育が違う。

 ディガン君に対してはリーダー教育が行われたが、トーン君ほどではないが見所らしい見所が無かったサール君に対しては、サエラ夫妻も大して期待はしていない。兄サレク君の治世の邪魔にならぬよう、一般的な教育を施したのみだ。


「バーラン王家の者が異世界人を奴隷扱いした上にこれまで謝罪もしていなかったなどと、兄上はどこまで愚かなんですかね。トーン兄上に続いてサール兄上までそれでは、王家の反省が足りないといわれても何も言えませんよ」

「その時は、母上が」

「ご自身で詫びを述べられたのがついさっきのようにお見受けいたしましたが?」

「母上にお任せした以上、謝罪は」

「必要です」


 きっぱり言い切ったディガン君は、軍人らしく背筋を伸ばした姿勢から向き直り、腰を折った。


「不肖の兄がご無礼をいたしましたこと、また謝罪の遅れましたことにつき、私からも深くお詫び申し上げます」

「ディガン」

「兄上、タカハシに斬られるのと私に殴られるの、どっちが良いですか」


 これで案外、ディガン君も気が短い。まあ高橋が刀を抜くよりマシだろうが。


「まあどのみち、兄上の『友人』に対してはこちらからも手を打たせていただきましたが。ああ、『塔』に連絡入れても無駄ですよ。塔主は辞表を提出したそうで」

「どういう事だ」

「軍がクガルの会を見逃すと思ってたなら、兄上の頭は風船並みに空っぽですね」

「何の事か、判らんが」

「後でゆっくり思い出していただきますよ。……お連れしろ」


 軍人口調に戻ったディガン君が鋭く命令すると、侍従に化けていた軍人がサール君を拘束した。

苦労人のディガン君、花は持たせて貰えますが苦労もやっぱり多い之図。


クガルの会は「茶番劇と不穏分子と大人の都合(https://ncode.syosetu.com/n1418ef/46/)」に登場した反異世界人・貴族復権主義者の過激集団です。

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