罠はいくつか仕掛けるもの。(前)
長くなりすぎたので、2話に分割して投稿しています(1/2)
しばらく引き篭もっても問題ない状況を作ったので、ようやく時間が取れるようになった。
日本の勤務先で若手が怪我をしたので会社に顔を出す必要が増えた折でもあり、バーランの貴族にかまってやる時間が減ったという裏事情もある。一国の大事と一企業のどちらが大切かという問題は無論あるが、個人として言うなら自分の生活が第一だ。
「割り切ってるねえ」
高橋に事情を説明すると、苦笑気味にコメントされた。
「公人としては引退してるし、あんまり年寄がしゃしゃり出るのもなあ」
「で、本音は」
「若い奴が働け」
どうもバーランの連中はすっかり忘れてるようだが、私はそろそろ80になろうと言うジジイである。勤勉に働くべき年ではない。
「隠居生活希望のところを悪いんだけど、もうちょっと頑張ってほしいかなあ」
「新規の仕事は請けないぞ」
「新規じゃなくて、公聴会だから」
「それは行くけどね」
タリサ卿の査問の件だった。
タリサ卿はせいぜいよく言ってもオイタをした馬鹿者であり、締めあげるのが急務ではある。これ以上のとばっちりを食らっても困る私としても、対応しておきたい。
「牛歩戦術はとらせてる。でも10日以上は引き伸ばせないな」
「それはそれでいいさ。相手に誤解させられれば良いんだから」
襲撃が成功したと思い込ませ、油断させるのが目的だ。
実際、それで『塔』にも動きが出ていると、こちらについてはアンディ君が隠しきれない笑顔で報告していった。
それを教えてやると、
「悪党どもはどうやら、魔導卿が怖くて鳴りを潜めてたみたいだねえ」
と、高橋はニコニコしながら言いやがった。
「ジジイなんか怖がらずにとっとと動いてくれれば、もっと早く捕まえて楽が出来たんだがなあ」
「恐怖伝説がありまくるんだから仕方ないと思おうよ?」
「都市伝説だろ、大半は」
どうせろくでもない怪談の類だろう。と思ったら、
「確認した範囲だと、実話ベースで威力を8割にして伝えてるって感じだよ?」
と、高橋。
「なんだ、それだけか。それで怖がるんなら、根性が足りないだろ」
「いやいやいや、王城吹っ飛ばせる魔術師ってだけで脅威だからね?」
「何をいまさら」
動乱期にやって見せてるんだから、怖がるようなものじゃあるまいに。まして動乱終結から30年近く経っているんだから、対策くらいしてあるのが当然だろう。
「引退したんだから弱体化してる、くらい考えてくれないもんかねえ」
「無理だよ、何かあったらメテオストライクが降って来るって理解が成立したから」
メテオストライク……ああ、衛星実験のアレか。
「ああ、そういやそんなネタも出したっけな」
「覚えておこうよ!?」
計画しか立ててないんだし、忘れても差し支えないはずなんだが、高橋はこの意見に賛成はしなかった。
後編に続きます(同日投稿)





