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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また仕事が増える

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釣り餌が危険。(ディガン視点)

少し短めです(話のきりが良くないので短めになってます)

 色々と逸話のある人物だけあって、引退生活もまったく魔導卿に影響しなかったらしい。


 内心では呆れているディガンも、思っている事を顔に出すような真似はしない。

 たぶん、この昼餐(ちゅうさん)会の席にいる者は似たり寄ったりだろう。なにしろ全員がこの後起こるはずのことを知っているのだし。


「それにしても、ずいぶん注目を集めましたね」


 一通りの食事の後、部屋を移して(くつろ)ぐ段になってからそう言ったのは、姉のエーリャだった。

 男女を分けて催す古式ゆかしい宴でもないから、今回の昼餐会にはエーリャも主だった王族の一人として参加している。

 そして魔導卿は一部の異世界人のように男女の組で参加することに固執しないから、一人での参加だ。

 これは王族(こちら)側としても助かった。

 男女一組で参加するよう義務付けてしまうと、独り身の者はどうしても関係の比較的浅いものを連れてくることになる。妻や夫といった間柄ですら時として信用できない以上、むやみな者を連れてこざるを得ないあの形式は、あまり歓迎できないものだとディガンは思っていた。


「注目されないと困る、ちょうど良いのじゃないかな」

「思い切ったことをなさいますね」


 食後の茶を受け取りながら返したエーリャに同意するように、父もうなずいていた。

 一方で魔導卿はといえば


「最近は相手の動きも地味になってきていてね、私もやりにくくなってたんだよ」


 と、こともなげに言ってのけた。


「……それほどでもないと、伺ってますが」


 こちらで把握している襲撃未遂事件だけでも3件。あきらかな襲撃は2回。

 いずれもかすり傷一つ受けることなく済ませた魔導卿ではあるが、魔術なしに身を守れない体でよくやるとしか思えない。


「多少の騒ぎはあるが、釣れるのは小魚ばかりだ。釣り上げて楽しいものが動かない」


 魔導卿も茶を受け取りながら、ぼやきとも取れる事を言い、それに


「安全ではありますよ」


 と、にこにこしながら父が釘を刺していた。


「老人の楽しみにも、多少の刺激は必要だよ。餌を替えてやらないと駄目だろうな」


 年齢を言っても絶対に信用されないだろうに、魔導卿はしれっとそんなことを言っている。


「大物が釣れたら、君達にもお裾分けするとしよう」

「ありがとうございます、しかしご無理はなさらないでください」


 あくまでも丁寧な対応を心がけつつも、父はけして賛成していないと示すのを忘れなかった。


──────────


 女王が招いた昼餐会の帰りに魔導卿が襲撃を受けた事件は、新聞の一面で取り上げられていた。


「魔導卿は()()に血をにじませた姿で自身の馬車で帰宅、だそうだ」


 いくつかの新聞を卓上に置いた明るい応接間でニヤリとしてみせたのは、もちろん、怪我一つない魔導卿だった。


「こちらの部下も入れ替わりに気がつかなかったのですが、いつの間に?」


 王宮を離れてしばらくしたところで別の馬車が事故を起こして道を(ふさ)いでいたため、迂回した魔導卿の馬車が襲われた、というのが今回の顛末(てんまつ)だ。

 事故を起こしていた馬車はもちろん、魔導卿の進路を妨害する目的で雇われたものだった。


「ああ、あれは侍従の一人でね。帰りの馬車に乗り込んだあとで上着を交換して、王宮を出るまで私は補助座席に座っていたんだよ。王宮を出てから、私だけ別の馬車に乗り換えて帰ったんだ」


 馬車の中では進行方向を向いて座っている人間が主人、後ろ向きにかけているのが侍従と決まっている。

 魔導卿の顔を知らない襲撃者は、前を向いた席に一人座っていた男を魔導卿だと判断したのだろう。


「念のため、王宮に出入りするときは髪の色を変えていたんだがね。私の顔は知らなかったようだ」


 魔術を使って本来の髪色をごまかすことは昔から行われているが、ごく短時間しか維持できないとされている。

 魔導卿はといえばもちろん、時間制限など知ったものではないとばかりに、昼餐会の折には王宮に入ってから出て行くまでずっと、白髪のままだったが。


「卿が黒髪だと知らない者の犯行、というわけですか」


 ディガンがいささか首をかしげながら言うと、


「あるいは、実行直前に私の姿を確認しただけの者、だろうな」


 と、魔導卿は返してきた。


「背格好が似ている者を身代わりにしたが、ご覧のとおり顔までは似ていないからね」


 魔導卿が手で示したのは、まるで家具のように壁際にぴったり収まっている、少し肌の色の濃い侍従だった。

 ただし侍従は髪も目も黒い。


「あの者にも、色替えの魔術を?」

「ああ。色だけじゃなくて、幻術も併用したよ。実際に怪我をさせたわけじゃない」

「卿がいらっしゃって、怪我させるはずもありませんか」

「当然だろう」


 そう考える者は少数派であると指摘しようかとも思ったが、やめた。

 平民の兵卒など使い捨てて当然とされていた動乱期でさえ、魔導卿が無駄な部下の損耗(そんもう)を嫌っていたことは、軍では良く知られた話だ。元々の気質でもあるのか、人を(ちり)(あくた)のように()り減らし使い捨てていく事は好まず、配下となった貴族将校にも同様の振る舞いを求め、指示に反した将校を処罰したとも伝わっている。


「私が負傷したと思わせる必要があったが、実際に身代わりの者が怪我するようなことがあれば、襲撃者しだいで思わぬ深手を負うかもしれない。そんな馬鹿げた危険は冒せないよ」

「なるほど。それで、今後流していく情報について確認しておきたいのですが」

「とりあえず、怪我をして不機嫌になってる、とでも言っておいてくれると有難いね」

「とはいえ怪我をされたからといって、襲撃を恐れて引き(こも)るご性格でもないですよね……」


 聞き及ぶ限りの魔導卿の性格だったら、むしろ報復が待っているだろう。王室、というより母サエラ女王に対しては穏便を好む魔導卿だが、万人に対しての態度ではない。


「打ち合わせのとおり、怪我の程度は判り難い様にしておいてくれるかな。相手をイラつかせるほうがいい」


 動けないほどの怪我ということにしてしまえば、証人として出席できないのもやむなしとみなされる。正確な情報が得られない状態にしておくほうが、揺さぶりをかけるには好都合だ。


「君の演技力にも期待してるよ」


 人の悪い笑みを浮かべた魔導卿に、ディガンは軽いため息をついた。


「卿の護衛についても知られていますから、これが罠だと気付かれそうなのですが」

「気がつくようなら、情報収集ができる敵だということだね。そんな敵が私の顔を見間違えるとも思えないが」

「卿を南方系と見間違える者もおりますから、どうでしょうか」


 なにしろ魔導卿はこの大陸の南方にいる人々に近い目鼻立ちだ。バーランの貴族としては少し背が低い部類に入るのも、南方系の人々と同じ。何の説明も受けなければ、異世界人だと気がつくほうが難しい。


「タカハシ書記官ならすぐに異世界人と判るでしょうが……」


 彫りが浅い童顔で小柄なタカハシ書記官は、あきらかにこの地の民ではない。


「同じ民族なんだがねえ」

「信じがたいですよ、それは」

「良く言われる」


 面白がっている様子の魔導卿に、ディガンはもう一度ため息をついた。

危ない餌での釣りに協力させられる末王子ディガン君。貧乏くじ体質なんでしょう。

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