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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また仕事が増える

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そろそろ増殖は打ち止めにしたい。

今回は短めです。

 アンディ君に対応を任せたのはまったく正解で、ここぞとばかりに引きずり出してきた情報はうんざりするほどの問題の山だった。


「私が『引退』したあとのやらかしばかりだな」


 ため息しか出ない。


 借地権の又貸しと建築物の借家人による又貸しは禁止、という条項を契約に盛り込んでいたので、本来であれば『塔』は自ら建築物を建てて、それを利用者に直接貸すことしか出来ないことになっている。

 しかし実態としては2棟の住宅が『塔』から借地権を得たと主張する連中の手によって建ち、『塔』の学生用住宅とするべき建物は住民の勝手な又貸しが横行していた。

 『塔』としては賃料がよけいに入ってくるという事だから、あえて目をつぶったのだろう。


 ちなみに担当している『塔』幹部は会計をごまかして、横領していた。


「いったん、更地に戻したほうがよさそうだな」


 新規の建物2棟に調査の手を入れたところ、法で義務付けられているはずの各戸への炉と排水路の整備も不十分で、水道の通ってないトイレや雨漏りのする天井、窓の無い部屋などが発見されている。

 まだ数年しか経っていない建物なのに、壁のゆがみやひどい湿気も報告されている。これは建材そのものが劣悪な品で、建築当初から歪んでいたとのことだった。


 はっきり言って違法建築である。現行法でまともに審査されていれば、許可されない代物だろう。

 改修は考えるだけ無駄なレベルである。


 しかも裏通りに面したその建物のある土地は、1DKを基本とした一人暮らし学生住宅建築地として借したはずだが、いつのまにか一部屋に数人が暮らす貧困世帯用住宅と化している。

 このまま放置しておけば、スラム形成まであと10年とかからない。

 わずか7年の間に、『塔』のある表のエリアと、その陰になるスラムという構造が出来上がりかけていた。


「住民への補償を求められそうですが」

「契約違反なんだから、『塔』の賠償金で賄うしかないな。貧困家庭用住宅の斡旋は別途行う必要があるが、そこはシェフィールド土地開発公社に頼もう」


 トマソンの知己が代表を勤める、福祉住宅の斡旋もしている半公半民の会社をあげると、アンディ君はうなずいた。


「判りました、その方向で話を進めます」

「あと、この契約違反についてはトマソンに情報を流すが、構わないかね」

「脚本に利用されるという事でしたら、正確な情報が必要ですね。誹謗中傷ととられないようにする必要があります」

「わかった」


 トマソンと、トマソンと付き合いのある新聞記者数名に情報を流せば良いだろう。

 動乱期後の王都再開発にもずいぶん手間をかけたのに、こんな事をされては我々の努力が水の泡だ。年単位で時間がかかるだろうが、上下水道建設の時の苦労を思い出せば、1ブロックの再開発はまだ容易い。

 とはいえ一人で処理できる分量を超えているので、自分の所有地については人を手配することにした。


「まだまだ現役だねえ」


 王宮側にも情報を流すべく、高橋にこれらの経過を説明してやったら、腹黒大福餅(たかはし)は満面の笑顔でのたまった。


「あのなあ、私はとっくに引退してるんだが?」

「もうちょっと働く気、無い?」

「特別なことをしたわけじゃないぞ、今回は」


 相手に遵法(じゅんぽう)精神があれば、特に問題にもならないはずの契約が火を噴いただけだ。

 法律をなぞる形での契約だから、法を守っていれば契約違反になるはずも無い。

 その昔、王都再開発を進めた際にスラムの発生原因を潰すべく制度も作っていったわけだが、又貸しの禁止や違法建築の禁止はすべてその制度に盛り込まれている。貸主の多層化に伴う責任の所在不明や、事故の多発しそうな建物などの存在がスラム化を引き起こす要因ともなるのは、あちらの歴史からも判っている事だから、そこは徹底的に潰しておいた。


 もっともどんな法律であっても、運用が(まず)ければ絵に描いた餅に過ぎないが。


「全部、都市建築法や借家法の範囲内だね。監督官庁が手抜きしたかな」

「そういう事だろうな。というわけで引き締めはそっちの仕事だぞ」

「え、私は王宮の監視役だし?」

「どこかに下僕(コネ)はいるんだろ、そいつにやらせろよ。魔導卿(あくやく)が脅して回るのにも限度ってものがあるんだから」

「誤魔化されてくれなかったか」

「これ以上、仕事したくないんだが?」

「ボケ防止に良いんじゃない?」

「そっちは会社の仕事で間に合ってる」


 そろって忘れてるようだが、日本に戻れば私も一介のサラリーマンである。


「最近はトレーニングの時間も犠牲になってるんでね、仕事減らしたい」

「トレーニングって?」

「筋力が足りないんだよ」


 治したほうの足を叩いてみせると、珍しくきまり悪そうな顔になった。


「治りきってなかったんだ」

「まだ心もとない」


 歩けるようになっただけマシとはいえ、無事だった足より弱い。ずいぶん回復してはいるし、杖があれば斜面歩行もある程度できるのは確認しているが、それでもトレーニングは欠かせなかった。

 最近すっかりご無沙汰なので、ちょっとまずいのだが。


「というわけで、今回出てきた問題はそっちでよろしく」


 さすがに、これ以上引き受ける気には到底なれなかった。

なぜか仕事が増える一方の魔導卿。

さすがに一人で頑張るのは限界の巻。

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