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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また呼び出される。
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防御網と予測された不穏

 国境山岳地帯に展開する部隊への警告と、その周辺での情報収集については結局、ポラナ夫人を中心とする女性ネットワーク経由のものと、サフィク卿らを経由する軍人ネットワークの二通りが実施可能になった。


 サフィク卿に『対応』を頼んでから、第一報が届くまでにわずか5日。ポラナ夫人の集めた情報はそれより前に入手できていたから、今回の対応でようやく穴が埋まった形になる。


「あまり捗々(はかばか)しくありません」


 今回の報告係になったラガン大佐は、憂鬱(ゆううつ)そうな顔をしていた。


「敵情は未だ把握しきれず、といったところです」

「現時点では牽制(けんせい)できれば良い」


 入り込んでいる鼠を退治するには時間も人も足りないし、とりあえず今の段階で最優先すべきは、国境付近の脆弱化をこれ以上進行させないことだ。

 これ以上の動きを見せれば危険であると思わせ、身動きできないように追い込んでやるしか無い。


「詳細な捜査そのものは、こちらがやる事でもないからな」

「……よろしいのですか」

「権限の範囲内で動くと、手の出しようがない」


 特務調査官の肩書と一緒に権限はついてきたが、それでも外交に影響が出そうな諸々にまでは手を出せないし、影響を及ぼす気もない。外務卿主導でマランティ国内の穏健派とは水面下のやり取りが始まっているから、そこを邪魔して良いことは一つもないのだし。


「それに、軍内部のことに口を出せる立場でもないからな。あまり派手に動いて反感を買うと、やりにくくなる」

「魔導卿に楯突くものがいるとも思えませんが」

「正面から物言いを付けてくる者はいないだろうが、妨害の方法などいくらもある。まずは鼠の動きを止めるのが肝心だ」

「魔導卿に御出座(おでま)しいただいて、それきりではあまりにも申し訳ないのですが」


 いったい、私を何だと思っているのやら。

 預かっている若手二人が相手なら即座にツッコミを入れるところだが、真面目そうなラガン大佐が相手なので、やめておいた。


「気にしなくて良い。引退老人だからな、老人なりのやり方をさせてもらうよ」

「失礼ですが、そのお姿で老人とおっしゃられても、違和感がございますな」


 そりゃまあ、見かけは40歳前後なんだから、違和感があって当然だろう。実年齢なら80近いのだが。


「中身は老人さ。若い人のように暴れまわるのは、好みではないよ」


 昔は両手が杖でふさがっていたし、今も走れないから当然のことだが、そこらは棚上げしておく。


「まあもっとも、この姿(なり)ならば素性がばれることもまずないから、便利ではあるがね」


 トマソンの劇に登場する魔導卿は()せた老人に描かれているから、実物の私とは乖離(かいり)している。劇の人気が出るとともにまた、私を認識できない者も増えてきて、動きやすくなっていた。

 なにより普通に出歩いても、警戒されることはまずないのが良い。


 というわけで、ラガン大佐が帰った後は予定通り、少し出かけることにした。


 王都の繁華街と呼べる場所は3箇所ほど有るが、用が有るのはそのうちの一つ、ドゥガス広場だ。ちょっとした飲食店や小洒落た店が軒を連ねる界隈で、広場から伸びる道にも高級店が並んでいる、商業エリアの中心地である。

 待ち合わせに指定されたのは最近流行りだというコーヒーハウスで、なかなか賑わっているテラス席にはすでに、待ち人の姿があった。


「配置は完了しました」


 私の注文が済むとそう言ったのは、ヘスディル伯だった。


「君の配下が来る予定だと思っていたよ」

「手違いがあっては困りますので」

「それもそうか」

「それに卿にご足労頂きますのに、私が動かないのは礼を失するかと」

「君も義理堅いな」


 目は動かさないまま、小さく魔力を弾けさせた。

 これは言ってみれば魔術的アクティブソナーだ。原始的で精度も低いが、ほんの一瞬の小さな刺激で終るため感知しにくく、かつ運用しやすいのでこういう場面では重宝する。


 そして返ってきた反応は()()


「あの娘には、目印を持たせたと言ったな」

「はい」

()が二人いる」


 そう教えると、ヘスディル伯はまったく表情を変えずに頷いた。


「予定より増えましたね。それで、『客』はどちらに」

「一人はあの娘のすぐ近くだ。もう一人は、エイス通りの入り口にいる」


 ちらりと目を向けると、広場の向こう側のやや賑わった一角に、元王女の姿があった。

 あの馬鹿娘は王族の籍を除され監視下に置かれているが、監禁生活を送っているわけではない。もちろん護衛という名の監視は付いているが、餌に使うにもちょうど良いので、本人も知らぬままこうして放流されているわけだ。


「エイス通りですと、どんな馬車が居ても目立ちませんね」


 一般に上流階級は店で買物をしないから、高級店と言えども上客を相手にするための設備はない。しかし通りに面した本店にはちょっとしたショーウィンドウを備えていて、中上流階級の男女(上流階級はお忍びと称するのが常だ)がウィンドウショッピングとデートを楽しむ姿が見られるのが常だ。

 そしてエイス通りは今のところ、最も人気の高い場所である。

 当然、通りを歩く紳士淑女が乗ってきた馬車が、そこらの馬車溜まりや路肩にいるという寸法だ。誘拐犯が一台くらい紛れ込ませた馬車など、もちろん目立たない。


「動いたぞ」


 ターゲット近くに居た()が、接近した。

 人混みの向こうにいるから直接確認は出来ない。悲鳴はあがらず、騒ぎも起こらないままに、2つの目印はエイス通りに向かっていった。

 配置した人員のうち、2名がこれを追跡。


 そこで、元王女が居たあたりに異変が起きた。


「やはり仕込んでいたか」


 緊急転送した封魔機をその場に叩き込むのと、元王女が『落とした』飾りが作動するのは、ほぼ同時だった。

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