表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また呼び出される。
4/80

旧友(とも)来る、また楽しからずや……と思ったら厄介事も来た。

 仕立て屋が採寸に来た後は情報収集でも……と思ったのだが、サエラの口からすでに諸々バレていた(そりゃあ王孫を厳罰に処すのだから、手早く公表する必要もあるのだろう)ため、挨拶に来る者への対応に追われることになった。

 訪問者の半数以上は探りを入れに来た者だ。その程度の者たちなら、手短な対応だけで終る。

 召喚被害者(みうち)とはそれなりに話すが、ほとんどはやはり短い会話だけだった中で、最後の一人は異なっていた。


「人気者はつらいな?」


 サウードは親しい者がみれば判る笑顔で抜かしたが、馴れてない者が見れば相変わらずの仏頂面といったところだろう。


「困ったもんだ。そういや、君も元気でいたようだな」

「ははは、元気だけどな、もう70のジジイだぞ」


 帰還しようにも行方不明期間が長すぎ、さらに母国の内戦で帰る場所を失ったサウードは、こちらにとどまることを選んでいた。

 拉致された当初は兵士として前線に放り出されていたが、生き残りをかけて戦い続けた結果、10年前には大佐まで上りつめていた。今の服装を見る限り、どうやら現在はそれ以上の職にあるようだ。


「孫もそろそろ成人する年でな。俺も引退だ」

「こっちの基準だと、70なら引退してて当然じゃないのか」


 日本の基準でも、引退する年のはずだ。彼の母国ではどうだか知らないが。


「そう言ってるんだけどな、まず年齢を信用してもらえない」

「何かの詐欺にしか思えないもんな、その若作り」

「おまえさんだって見た目は似たようなもんだろ」


 どうも元いた世界と同じ速度で年をとるらしく、彼は私と同年代にしか見えなかった。

 これは予測されていたことだから、別に驚くことでもない。


「あちらじゃ20年ちょっとしか経っていないから、別に若作りでもないぞ?」


 こちらではそろそろ50年ほどにもなるが、私もこちらにずっといたわけではない。


「こちらに何度も来てただろうが。あっちとこっちで合計何年生きてるんだ、おまえは」

「サエラ女王より10歳年上ってところだな」


 そのサエラが現在、70近い齢だということはあえて触れない。

 自分が合計80年近く生きている事も、敢えて気にしない事にする。


「それで、わざわざ顔を見に来ただけか?」


 かなりの階級にあるはずの彼が、無駄話をする暇があるとも思えないが。

 しかも地位を考えれば連れているはずの副官もいない。

 なかなか一人歩きも出来ない身分なのだろうから、わざと人払いしたと考えるのが妥当だ。


「まったくおまえは、すぐに疑うんだからな」

「それで?」

「御賢察のとおりだよ、部下を巻き込みたい話じゃない」


 表向き、彼はただ挨拶に来ただけだ。話す内容が何であったかは、私と彼だけが知っていれば良い。


「王族だから厄介じゃないはずもなし、か」

「まあな。あの馬鹿娘の外祖父は元国務卿のエルガール伯爵だ」


 まったく有り難くない名前が出てきた。


 10年前に失脚させた政敵だ。

 さっさとラハド5世に見切りをつけ職務に熱心だったがゆえに粛清を免れたエルガール伯爵は、我々召喚被害者を奴隷と呼んではばからなかった人物だ。我々被召喚者は能力を提供して使い潰されるが当然、こき使われて死ぬのが本来の姿だからありがたく思え、と抜かしたため潰す対象にしたのだが、潰すのに10年かかった。


 伯爵を派手に失脚させたので、第三王子に嫁いでいた娘も離婚されて田舎に引き篭もったが、王族の血を引く孫娘は王家に残されたわけだ。


「祖父が仕込んだのか、あの馬鹿は」

「可能性が無いとは言わん。確証はない」

「エルガール伯爵の政敵はどうだ?」

「そっちの線も捨てきれんな」


 あの王女はいわばエルガール伯爵の最後の手札。それが今回、王族ではなくなって利用価値も失せたわけだ。

 エルガール伯爵の政敵がいるなら、政敵にとっては喜ばしい事態だろう。


「他にもきな臭い話がある、あとで資料を持たせるが」

「頼んだ」


 それ以上は話さず、彼はあくまでも挨拶に来たふりをしたまま戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編に入っていないエピソードをいくつか、閑話集にて公開しております。

cont_access.php?citi_cont_id=912236301&s
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ