鳴かぬなら、鳴かせてみせる算段を。
短めです。
たまには王宮にも顔出しが必要なので、疑惑については自分から直接説明することにした。
内容は高橋に伝えてあるから、説明と言っても形重視といった意味が強いが。ガディス卿に色々丸投げしているから、少しは気を使ったほうが良いだろうという配慮もある。
忙しい時に訪問するのは失礼だ、と考えるのはあちらの感覚だ。体面を重んじるこちらでは、上位の者が下位の者を訪問する場合、訪問された側は丁重に扱われたと解釈される事も多い。ガディス卿にちょっと時間を割いてもらう必要はあるが、私が出向く事で彼の評価が上がるのならちょうど良いだろう。
とはいえ状況が状況だけに、ガディス卿も喜んではいられないだろうが。
「卿にはお手数をおかけして、申しわけございません」
案の定、ガディス卿は開口一番に詫びてきた。
「蓋を開けたら大騒動だったな」
叩けば叩くほど埃が出る幇助犯だけではなく、今回の発端になった元王女の周りも調べなければならない。横槍を入れた第3王子トーン君の背後関係もいささか複雑なようで、全体方針の仕切り直しも必要になっていた。
とはいえ王族のことである。下手に私が口を挟むとトラブルのもとにもなるし、王宮側に一任することで私が今の王2人、サエラとサレク君を信用していると示す材料にした。
そうすることで私の仕事は減らせるし、王宮側の体面も取り繕えて、八方丸く収まるはずである。
「予想を越えておりましたよ」
「王宮内で事件が発生していた時点で、さっさと処罰して終わりに出来るわけもなし、か」
「予測されておられましたか」
「いいや。振り返ってみれば……という程度だよ。考えてみれば、王宮内でこれほどの事を起こせる相手のわけだからな」
そしてこれほどの事件になってしまうと、指揮を執れる人間が王女を妻に迎えているガディス卿を始め、王室関係の数名しか該当者がいない。
正直に言うと、私でも無理だ。というより本来はこの国の人間でもない私が口を出せる範囲の問題でもない。今でもいささか行き過ぎの感はあるが、昔轟かせた悪名のおかげで文句を言われていないだけだろう。
こちらで把握した情報と把握に至る経過を説明する間、ガディス卿はあまり口を挟まずに聞いていた。
「……ガディス卿も聞き及んでいるとは思うが、以上がこれまでの経過だ」
私が締めくくると、ガディス卿は小さくため息をついた。
「……最初からこちらに問題を預けていただけましたこと、感謝いたします」
「手抜きしたかっただけなんだがな、結果としては旨く行ったか」
「手抜き、ですか?」
「私は10年も前に引退した老人だからね、若者を働かせるつもりだったのさ」
ガディス卿はあっけにとられていたが、しばらくしてぎこちない笑みを浮かべていた。
「……お変りになられましたね」
「昔は冗談なんか言ってられないことが多すぎたからな。しかし引退老人があまり出しゃばるべきでないというのは、本音だよ」
「御配慮ありがとうございます。ですが、老人とおっしゃられるにはお若いかと」
「世辞は要らないよ。それより私の役目をいつ果たすべきか、それを検討すべきかと思うんだが」
最近はかなり忘れられてる気もするが、私が維持しているこちらでの役割は、召喚術実行犯および幇助犯の処刑人である。警察の代理業務ではないのだが。
「正直に申し上げれば、可及的速やかに卿の責務を果たしていただき、問題の拡大を防ぎたいところでもありますね」
「これ以上、何か出てきても困るか」
「多忙すぎて、そろそろ妻に恨まれます。とはいえ安易に証人を処刑して、禍根を残したくもありませんし」
「あちら側から動いてもらうのも、手の一つかな」
「何か、策がおありですか」
「劇作家のトマソンが、新作を発表したくてたまらないらしいのでね。そろそろ、許可を出すべきじゃないかと思うんだが」
トマソンが送りつけてきた台本を机の上に置くと、ガディス卿の顔が目に見えてひきつった。
「……回答に、時間をいただいてもよろしいですか」
「ああ。囮は私がやろう、他の者を狙われると厄介だ」
「そこも、検討させてください」
「ぜひ前向きに検討していただきたいが、お願いできるかな」
「善処いたします」
少し魔力を使って威圧してから、ガディス卿のオフィスを辞した。





