突入(3)(捜査員A視点)
短いです。
視点が変わるので分離しました。
「ずいぶん大量に持って行くんだな」
「ほとんど掻っ攫……失礼、押収する予定です」
本音が出そうになったのは、半ばは目の前にいる魔導卿のせいでもあった。
さっきまで上に着ていた長衣をさっさと脱ぎ、適当に丸めて侍従に押し付けた魔導卿は、故国のものだという服装になっている。襟とカフスが身頃と一体化しているらしいシャツに黒っぽいベスト、ゆったりとしたトラウザーに黒の革靴で、どこか内向きの寛いだ印象が拭えない。
片手に持つ杖も故国で使っている品だそうで、軽くて丈夫な金属製のものだ。
見た目の若さも相まって、どうにも偉い人という印象が薄れて仕方が無い。
ついでに言うと、元同僚のウルクスと魔導卿のやりとりが、まるで若手官僚同士のそれと変わらなかったから、というのも大きい。招集された時は緊張したものだったが。
「魔術師じゃないのも良いことあるんだな」
こっそり感想を口にしたら、若手魔術官僚にそう嘆かれた。
「なんで?」
「さっきの魔術戦だよ。僕らじゃ、ああはいかない」
「え、ファラルが弱くて良かったと思ったけど」
「あれが弱いって何の冗談だ。魔導卿が全部封じてたんだよ。ファラルが使った魔道具は全部、前線で使える奴だぞ」
最初に一瞬で壊された魔道具は、本来なら目標物を含む一帯を爆発に巻き込むものだし、二つ目の飛礫は騎兵小隊を吹き飛ばせる威力がある。
「杖で弾き飛ばしてたけど、あれは普通、杖にあたったところで爆発するんだよ」
「へえ、不発だったんだ」
「違う違う、魔導卿が杖を当てた瞬間に壊してたんだよ。どういう腕してるんだ、あの人」
そう教えられても、一般官僚であるイサスにはピンとこなかった。
「普通はどうやって対処するんだい?」
「魔石の力を押さえられる、特殊魔術が使える魔術師が対応するんだ。それもかなり時間がかかるから、あのくらいのものだと半日は必要だね」
「そうは見えなかったけどなあ」
「だから、魔導卿が強すぎるんだよ」
「ああ、比べる相手が悪すぎるのか」
「そういう事だね。僕らは魔力が『見えて』るから」
「魔導卿の強さも良く判る、と」
その魔導卿はと言えば、別の魔術官僚に説明しながら、天井に仕掛けられた魔石細工を取り外させているところだった。
「たとえばあれもそうだよ」
梯子に乗った人足が螺旋廻しを片手に外しているそれは、ただの細工物にしか見えなかった。
「何かあるのかい?」
「僕達があれを撤去するなら、この室内から人を全部遠ざける。暴発の恐れがあるからね。術者はかなり集中力を必要とするから、2人は必要だよ」
「へえ、あれがねえ」
外した細工物を投げ渡すように魔導卿が指示し、人足は言われるままにそれを放っていた。
誰かが短く悲鳴を上げたが、もちろん何も起こらなかった。
「魔石が大きいだろう。間違っても、あんな風に余所見しながら雑に扱えるものじゃあないんだ」
「取り付ける時はどうするんだい?」
「細工物を取り付けた後で、起動させるんだよ。だから付ける時はそれほど配慮しなくて良いんだ」
「意外に面倒なんだなあ」
「取り扱いにくい厄介物もあるからね……うわっ」
手にした細工物を実に大雑把に木箱に放り込んだ魔導卿に、何人かの声が上がっていた。
本人は一向に気にする様子も無く、他の魔石細工の取り外しを指示していたが。
そして魔導卿があらかじめ送り込んでいた魔道具で押収すべき物の目星を付けていたから、作業は全体的に手際良く進んでいた。
「いつもこうだと有り難いんだがなあ」
人足に命じて木箱の蓋を打ちつけさせながら、イサスはしみじみと言ったが、魔術官僚は首を振りながらため息をついていた。
「僕は御免こうむりたいよ」
「また何故」
「そうしょっちゅう魔導卿とご一緒するようでは、我が国の治安が心配だ」
「それもそうだね」
撤収準備を指示する魔導卿の声に、イサスは再び仕事に意識を向けた。
魔導卿本人はたいした事をしてるつもりがありません。
経験値の差でしょう。