突入(1)
短いです。
妙なところで妙な横槍が入ったが、ファラル確保の段取りは付いた。
「時計を合わせろ」
屋敷への突入は合計3班。裏手を固める2つの班と、正面から入る私の班だ。
タイミングを合わせるために班長の持つ時計を出させ、時刻を確認する。こちらでようやく普及し始めたのは機械式時計だから、直前の時刻合わせをしておかないと、ずれている事がしばしばだ。
「15分後に行動開始する。手順は打ち合わせ通りに。質問は」
「ございません」
「なし」
返答が異なるのは所属する組織ごとの文化の違いだろう。前者は官僚、後者は軍人だ。
裏口から突入する第2班は関税局の特別調査班を混ぜてある。比べて、第3班は逃走防止を主目的に動くので、軍(外国との魔石細工違法取引があったため、外患誘致の疑いで動く事が可能だった)が中心になっていた。
先行した偵察班からは、異常の報告は無い。既に内部に侵入させてある観測機は、書斎で手紙を読んでいるファラルの姿をとらえていた。
時刻5分前、待機していた馬車から降りる。
そして、開始時刻になった。
「行くぞ」
まず門番を突破する必要がある。
ファラル邸の使用人は当面、全員を勾留の予定だ。事情聴取が終われば全員解放になるだろうが、使用人の見聞きした事は常に貴重な情報になる。
案の定、門番は我々を通す事を型どおり制止したが、私の身分証明書を見せるやいなや黙って通過を許可した。
担当者に雑に扱わないよう注意を与えた上、その場で門番詰所に軟禁させる。代わりに正門に立つ要員は、すでに決定済みだった。
全く予想されていなかった使い方だろうが、これまで高橋がやらかしてきたイメージ戦略が役に立つ。たいていの使用人は私の姿を見るやいなや、さっさと降伏していくのだから、話が早い。
そのためにわざわざ、威圧目的で黒長衣を着る羽目になってはいるが。コスプレして捜査とは焼きが回ったが、諦めざるを得ない。
さすがに裏口は私達ほどスムーズに事が進まないのか、騒ぎになり始めているようで、いくらかの物音が聞こえていた。
「ファラルは二階だ」
場所は既に把握してある。
私達が二階の廊下で遭遇したのは、魔術光学迷彩を解いた隠密観測用端末に照準を定められ、へたり込んでいるファラルだった。
「ファラルだな」
同行した者たちの一部が書斎になだれ込むのを止めようともせず、ファラルは私を呆然と見ていた。
「召喚術使用幇助の罪で逮捕する」
限界まで一杯に目を見開いていたファラルが、言葉にならない奇声を発した。