女王陛下、孫の始末をする。
「なんてことを、まあ…」
女傑だけあって絶句はしないが、苦虫を噛み潰したような顔になるのは避けられまい。
久々に顔を合わせたサエラは、孫娘に対する嫌悪を隠さなかった。
「処遇はどうするね?何らかの処分は無いと示しがつかないと思うが」
「王族の籍を除します」
本人を目の前に、実にあっさり決断する女傑様は相変わらずだった。
「おばあ様!」
「なぜ召喚術が禁じられたのかは、あなたも習ったはず。政治問題につながるのですよ、これは」
「ですけど、わたくしは」
「問答無用。この程度も理解できずラハド五世と同じ行いをするならば、そなたは王族にふさわしくありません。共犯者も、相応の処罰となります」
「おばあ様!」
「連れてお行きなさい。処罰については、法に照らして決定となります」
王族の籍をどうするかを即断できる権限はあるが、さすがに拉致犯に対する処遇は法で定めてある。法で決めてあることは王といえども従わざるを得ない。
法を定めた時は、王族であることを理由に好き勝手させないための策だったのだが……と感慨にふけっていると、サエラが改めて頭を下げた。
「まことに申し訳ございません、テライ様」
「あれに引っかかったのが私でよかったな」
まったく嘘偽りない感想を述べると、サエラは複雑な表情になった。
他の人間が引っ掛かったのであれば、被召喚者救済のために召喚被害者会が動く協定になっている。まるで無関係な被害者を可及的速やかに救助し、元に戻し、実行者を処罰するための仕組みは整っていた。
それ以上の仕組みも作ってあるが、これはサエラが知る必要はない。女王が知っているべきなのは、やらかせば我々が遠慮なく罰するという事だけだ。
「慣れておられますものね……」
ほんの少し迷ったサエラが選んだのは、実に無難な言葉だった。
「いやあ、さすがにこの格好で呼び出されるのはどうかと思ったけどね」
直近で宮廷に顔を出したのは、私の時間で5年前。仕事帰りのネクタイとスーツ姿で、いささか風変りであるがそれなりの服装と認識されていた。
当時の私を覚えているこちらの者にとって、今の私の格好はいささか違和感があるだろう。なにしろ山菜採りの途中で召喚されたものだから、トレッキングウェアでT型ストックを持ち、熊よけ鈴のついた山菜採りの籠を腰から下げていて、どこからどうみても田舎のオッサンそのものである。現代日本の装備だから上等な品には見えるだろうが、宮廷向きとは判断されまい。
T型ストックは筋肉ダルマのお仕置きに使ったので、魔術師用の杖と思われているようだが。
「女王陛下にお目にかかる服装でないことは、大目に見ていただきたいな」
「こちらの過ちでございます。無理にお招きした以上、本来であればお召し物を整えさせていただくのもこちらの務め。わたくしどもの不手際をお詫び致します」
「あの娘にゲンコツ落とした後始末の方が先だよ、女王陛下」
「拳で済ませていただけて、寛大なご処置に感謝いたします」
まあそういう感想にもなるだろう。本気を出したら城ごと破壊できたのだし。
「このお茶で手打ちということで、一つ」
香り高い茶を湛えたカップをちょっと持ち上げて見せると、サエラが微笑んだ。
「ありがとうございます。ところでご帰還までに少し、財を増やしてみるお気持ちはおありではございません?」
「昔馴染みのお役に立つなら、わずかばかり手をお貸しするのも悪くはないね」
詳細についてはまた後で相談するとして、とその場での話は切り上げて、忙しいサエラは仕事に戻っていった。
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