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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また呼び出される。

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迷惑な暴走とその結果

 盗聴できる範囲で判断すると、ファラルのもとに押し掛けた連中はどうやら警察を名乗っているようだが、事実を確認している暇はなさそうだ。

 自称警察官は8名。うち一人は警部を名乗る男で、残りは警官の制服を身につけている。

 警部を名乗る男とファラルがしばらく口論の後、一人がファラルを警棒で殴りつけた。


「相変わらず、乱暴な連中だ」


 自称警官のうち5人ほどが、殴る蹴るの暴行を始めた。

 これでは私刑(リンチ)と変わらない。


「まずいね」


 投影画像を見ていた高橋がぽつっと言った。


「仕方ないな」


 これだけ興奮状態だと、暴徒鎮圧用ペッパーガスではどこまで抑えられるか判らない。

 うずくまって頭を守る姿勢になっているファラルに、自称警官の容赦ない蹴りと警棒が浴びせられている。地上30センチのファラルに影響を与えず、自称警官の頭の高さだけ処理すれば良いだろう。

 画面の中で、自称警官が昏倒した。


「何をしたんだい?」

「酸素濃度を下げた」


 自称警官の頭部がある高さを、ファラルに暴行を加えている自称警官と自称警部の周囲に限って酸素を排除しただけだ。

 ちなみに人間というものは、酸素欠乏空気を吸入すると昏倒するように出来ている。

 自称警官が倒れた時に術は解除してあるから、他の人間に影響はないだろう。


『出ていけ』


 自称警官にだけ聞かせるよう、指向性をもたせた言葉と魔力をぶつけると、残った二人が慌てて逃げて行った。

 ファラルはしばらくそのままうずくまっていたが、やがて、おそるおそるといった様子で顔を上げた。

 懐から取り出した魔石細工(アミュレット)を見つめてにやりを笑ったところからすると、どうやら、細工が功を奏したと思っているらしい。


「あれ、どうする?」

「ご満悦のようだから、突き落としておくか」


 ファラルの手元だけに照準を合わせ、魔力弾を放つ。

 一番大きな魔石が砕け、勢いで魔石細工がファラルの手を離れて床にたたきつけられた。

 ギョッとしたように顔を上げたファラルの眼の前に、光学的偽装を解いた攻撃用端末をホバリングさせる。

 直径7センチほどの滑らかな球体にカメラが一つと、小さな照準器が一つ。シンプルにそれだけの、こちらの世界では異様な姿に、ファラルがあからさまに後ずさった。

 その顔の真横にもう一機、攻撃補助観測用端末を出現させる。大きさとカメラは同じだが、照準器が付いていないそれに、しかしファラルは横っとびに逃げた。

 そして逃げた先にもう一機。

 精密位置決定のために3機セットで動かしている端末に、ファラルが悲鳴を上げた。

 それを確認して、光学的偽装を再び有効にする。


「……脅すねえ」

「誰がやった、とは言ってないぞ?」

「寺井以外にやらないでしょ、こんなオーバーテクノロジーな演出」

「否定はしない」


 慌てて逃げ出して行ったファラルを3機に追わせ、私は魔術的疑似モニタから3機の画像を消した。


※※※※※※※※※※


 呆れた事にファラルを襲撃したのは本物の警官で、警察長官の指示で動いていたと報告があったのは、数日後の事だった。


 その間、ファラルは屋内に引き篭もっていて動きはない。

 手紙は幾つか書いていたが、手紙を受け取った者を押さえる必要もあるから、一部を除けば手紙そのものに干渉はしない。内容は撮影しておいたが。


「仕事してないのがばれたから、慌てて実績を作ろうとして先走ったみたいだね」


 ガディス卿の報告書を持ってきた高橋も、呆れたような顔は隠さなかった。


「あれじゃ犯人が死ぬな。相変わらず、やり方が雑だ」

「死んでも良いから、が自分達にも許されると思ってるんだろうね」

「召喚術使用者及び幇助犯の処刑は、私の権限なんだがなあ」


 こちらの世界の者がやると、なにかとトラブルになりやすいという側面もあるので、私が請け負っているのも事実だ。

 そうは言っても、いちいち手を下して回るのも好みでは無いし、そもそも事後に処刑していたのでは被害者の増加は食い止められない。だから召喚術を実行すると自動的に魔術的逆流現象を起こし、術者が死ぬように仕込んである。

 仕込む時に一番大変だったのが、召喚術に効果を限定する部分だ。ここの精度を甘くすると無駄に死人が出るだけに、実装には慎重を期した覚えがある。


「犯人だけじゃなくて、容疑者にもあれをやるのが困ったとこでね」

「疑ったら即ち有罪、という扱いをしたがるのは変わらないか」

「おかげで、何を任せてもまともな捜査にならないんだよねえ」

「ご愁傷様。警察の始末はガディス卿に任せるよ」


 教育指導をしたければ、ガディス卿以下が頑張れば良いだろう。


「あれ、寺井は口出ししないんだ?」

「引退したジジイなんだから、私にものんびり隠遁生活を送る権利があってだね」

「永眠したら休めるから、焦らなくて良いんじゃないかな」


 腹黒大福餅は相変わらず、容赦がなかった。


「だいたい、寺井が色々調べ上げたせいで、あっちこっちで仕事の山が出来てるからね?」

「みんな、給料分は働けばいいんだ」

「寺井も働きなよ」

「手当の分は働いてるつもりだけどね」


 召喚術使用者の取り締まり以外、私に権限はない。

 よってそれ以上は働かない。

 実に完璧な論理である。


「働き者なんだか怠け者なんだか」

「働き者だろう。ダブルワークなんだし」


 あちらとこちらの仕事をいっぺんにこなしているのである。余計な仕事を増やされてはたまらない。


「おまえが会社員ってあたりが一番納得いかない」

「世知辛い現実ってやつだよ」


 にやりと笑ってみせると、高橋が肩をすくめた。


「あとは、実際に踏み込む計画をどうするかだね?」


 質問では無く、確認だった。


労働安全をかじったことのある方ならご存知と思いますが、酸素欠乏症は意識消失・低酸素脳症・死亡などにつながりますので、日本においては、酸素欠乏危険作業に従事させる場合は酸素ボンベなどを使わせる事になってます(詳しくは「酸素欠乏症等防止規則」等をご参照ください)。

なお酸素濃度を極端に下げると、意識消失までいくらも持ちません…というのを魔術的手段で悪用したのが今回のトリック。


魔導卿、やる事はかなり地味。

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