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異世界召喚被害者の会。  作者: 中崎実
被害者会会長、また呼び出される。
10/80

生贄の子羊を探せ。

本日更新分 2/2 です。

「警察か、まあ無能ではないけどねえ」


 高橋が教えてくれた情報に、私はいささか苦笑した。

 召喚術取り締まりで功績を上げたいという、警察の内部事情もあるのだろう。王宮内の事はとにかくとして、外でこれまで行われてきた犯罪については首を突っ込みたい、といったところか。


『そっちの警察は自白頼みすぎて、あてにならない部分もあるんだよな』


 これは大島さん。


「科学捜査の初歩さえありませんからねえ。いっそ推理小説でも持ち込みますかね?」


 シャーロック・ホームズでも読ませた方がいいんじゃないだろうか。


『科学捜査までは出来なくても、まともな捜査は覚えて貰って良さそうだね』

「捜査官の勘と思いこみで自白誘導してハイおしまい、は困るんですよね」


 そして真相は闇の中、になるのも以前は珍しくなかった。

 あまりにも予断に満ちて諸々邪魔だったので何人かをドツき倒した覚えがあるが、学習効果はほぼ無かったと記憶している。


『警察以外でまともな部署がどこかあれば、良かったんだろうけどね』

「表立って捜査に動かせる部局が警察くらいなんですよ。軍の諜報部というわけにもいかないし」


 と、高橋が肩をすくめた。


「軍はちょっと方向性が違うだろうなあ」


 なにしろ内向きの事件である。軍の出番はあまりなさそうだ。


 とはいえ正直なところ、警察はほぼ確実に、あのデータの意味を読みとれないだろう。

 ガディス卿は辛うじて及第点。

 ただし彼は国務卿という役職があるから、動けない。


「いっそ寺井がやればいいと思うんだけどねえ」

「人遣い荒いな!?」


 高橋の外見に(だま)される人間はけっこういるが、いつもニコニコしている童顔に誤魔化されてはいけない。こいつの中身は鬼が基本仕様だ。


「え~、使えそうな奴がいるのに使わない理由はないだろ?」

「引退したジジイをこき使う気かよ」

「私もおまえと同い年。まだ働けてるから大丈夫」

「実年齢70オーバーを主張したい」

「その外見で信じろという方が無理」


 それはお互い様である。

 高橋も、外見年齢はだいたい30代後半といったところだ。


「引退の自由を認めろよ」

「永眠したら休めるから、大丈夫」


 そして言う事も何かと酷い。これも高橋の基本仕様だが。


「冗談はさておき、あとは誰か若い役人でもあててくれれば良いと思うんだけどな。誰かいないのか?」


 ガディス卿にも子飼いの部下はいるだろう。


「何人か候補はいるよ。ただ協力者が寺井だからねえ、二の足踏んでるところもあるんだ」

「なんだよそれ」

「フィクションの力って凄いよね」

「嫌な予感しかしないんだが」

「演劇では人気キャラだよ、魔導卿」


 わざとらしい真面目な口調の高橋に大島さんがモニタの向こうでニヤッとし、私は高橋の(すね)を蹴飛ばした。


『面白そうな話だね、高橋君?』

「大島さん、なに言ってんですか」


 良い予感が全く無いので止めようとしたが、


「遠慮せず聞かせてやるよ、フィクションの魔導卿(おまえ)って大人気だぞ」


 もちろん、高橋には遠慮のえの字もなかった。


「なんだそりゃ!?」

「主人公サイドに味方するけど、付かず離れずの悪党だ。アメコミの悪役(ヴィラン)っぽいポジションだな、結構人気あるぞ?」

「要らんわっ」

「いや〜、シナリオライターを(そその)かすの大変だったな〜」

「おまえが諸悪の根源かよ!」

「え、放って置いておまえが極悪人って事にされたら、召喚被害者会の印象も悪くなるだろ。だから格好いい悪役にしてみた。先に作った者勝ちだろ、イメージなんて」


 くそ、イメージ戦略か。

 そういえば高橋はこちらで小説家になったトマソンと仲が良かったから、その伝手でやった事だろう。


「だからって何で私なんだよ。ウィリアムズだっているだろ」


 残留組のトマス・ウィリアムズは、放棄された不耕作地を手に入れて大農場主をやっている、地域の有力者だ。農業王(アグリ・キング)の異名も持つショットガンと馬の似合うテキサス男は、ちょっとした立身出世ストーリーの主人公でもある。

 あれもそれなりに見栄えする物語になると思うんだが、高橋は笑顔でスルーしやがった。


「ちょうど良い看板だから?」

「中年の野郎が首を傾げても可愛くないぞ」

「うちの奥さんには喜ばれるぞ?」


 さり気なく惚気(のろけ)てはぐらかそうとするあたり、実に根性が悪かった。


「まあそんなわけで、魔導卿は目的のためならなんでもする怖い人、ってイメージが強くなっててなあ。候補の若い奴でも腰が引けないのとなると、途端に数が減る」


 それ、イメージ戦略失敗じゃないのか。と突っ込みたかったが、とりあえず高橋としては成功にカウントしているんだろう。

 私個人の事情には関知せず、目的が達成されたかどうかで判断する奴だ、こいつは。


「……実際には何人くらい使えそうなんだ」

「数人かな。各人の仕事の調整をつけさせれば大丈夫」

「若手役人にそんな(ヒマ)あるのか、というか有望な奴は出し渋られるんじゃないのか?」

「大丈夫、これまでに各所に売りまくってきた恩を回収するから」


 にこにこと言う高橋は、トラウザーの中に黒い棘のついた尻尾を隠しているに違いない。


「候補者になんか希望はあるかな?」

「データの意味が判る奴にしてくれ」


 私が召喚魔術を妨害する仕組みを作ったのが、こちらの時間で30年前。当初は狭い範囲での試験運用だったが、20年前に自動化し、現在は大陸の90%程度をカバーした。

 そして引っ掛かる召喚術はすべて記録に残してある。

 実は監視作業の管理に使っているサーバのスペックが上がるにつれて監視範囲を拡大できるようになった、というだけの話だが、そうして集積してきたデータには明らかに系統だった召喚術使用がみとめられていた。

 割とあからさまなのだが、しかし意味が判らなければ無視してしまう事も可能だ。


「いちいち説明しなくても動ける奴、で良いかな?」

「あとはそれなりに出世しそうなのを頼む。下っ端のまま終わられたら影響力を持てないから、別の奴を教育しなきゃいけない」


 一度で済ませられる手間は二度かけたくない。


『出来が悪いようなら声をかけてくれ、遠隔で良ければ教育は手伝うよ』


 こう口を挟んだ大島さん、実は貴族のドラ息子を更生させた実績も複数ある。

 今の有能ぶりからは想像もつかないが、あのガディス卿もかつて大島さんに叩き直された一人で、昔は身分を鼻にかけるだけの無能な子供の一人だった。

 文官向け大島式ブートキャンプは、人格が変わるレベルで厳しい。


「ガディス卿にも伝えておきますね、それ」


 そう返した高橋は、実に良い笑顔だった。


『そうしてくれ。弟子の部下どもが役に立たないようなら、弟子もろともシメなおしてやる』

「楽しみにしていた、と言っておけば良いですか」

『成長に期待していると言っておいてくれないかな』


 いつもの大島さんの笑顔は、悪役そのものだった。

次回更新は9月22日21時を予定しています

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