都合のいい人間を呼びだせると思ったら、大間違い。
飲み会での馬鹿話から誕生した話です、気楽にどうぞ。
一時期流行った(そして最近は廃れつつあるらしい)のがいわゆる異世界ファンタジーだが、人生で何度も実体験するべきものではない。
そう腹の中でため息をつき、私は涙目で頭を押さえてしゃがみ込んだ若い娘と、いきり立ち剣を抜いて斬りかかろうとした筋肉馬鹿(複数)を見下ろした。
「まったく、いきなり斬りかかるとは何様のつもりかな」
「ぶ、無礼者!」
一人だけ離れて立っていたため無傷だった痩せ型の男が、ようやく金切り声をあげた。
「いきなり呼び出して斬りかかって来るほうが、よほど無礼だろうが」
「身分というものを弁え」
喚き始めた男は、私が数歩歩いて手にした杖を突きつければ沈黙した。
筋肉ダルマが床にいくつ転がっているか、ようやく数え終わったらしい。文官にしては遅すぎる。
「それに、私をなんの身分もない平民だと思っているようだが…ここはバーラン王国のエウィラ城であっているね?」
「知っているならこの方の」
「発言は許可していないよ」
杖の石突を鳩尾にねじ込み、黙らせた。
なにしろ呼び出された直後に、呼び出した当人と思われる娘にはゲンコツ一発、娘の護衛連中は張り倒して「教育」を施した後である。今更、事実確認も怠り高飛車な口調で話し続ける文官を『指導』したところで、大した差はない。
「そんなにお喋りしたいなら、今はサエラ女王から何代後の御世かを教えてくれんものかな」
「聞いてどうする」
「質問は許可していない」
やれやれ、物分かりの悪い拉致犯である。
なにしろこの娘がやらかしたのは、サエラ女王が禁じた『異世界民の拉致』である。文官ともあろう者がそれを理解できてないなら、頭が故障しているに違いない。というわけで昭和の口伝に従って、壊れた機械用45度カラテチョップをお見舞いしておいた。
文官であれば、法の意義くらい判っていろというものだ。
なぜ法があるのか判ってないなら、また同じ災いを招きかねない。
サエラ女王の父ラハド五世は、あまりにも安易に『召喚』を使い過ぎた。呼ばれる相手に同意を得ることなく強制的に呼び寄せ、ラハド五世の役に立つ事を強要していた『召喚』はすなわち、拉致して強制労働を課したと言い換えて良い。そして治世の末期に難易度の高い異世界人召喚を行っていたのは、彼があまりにも外国人を誘拐しすぎたために召喚術の行使が国際問題となり、しかたなく異世界から人を攫って来たというのが実態だった。
法が成立した経緯を無視するなら、また同じ過ちを犯す恐れがある。カラテ・チョップで矯正されて済むなら安いものだろう。
「もう一度聞こう。今は、サエラ女王から何代後の御世かな」
「おばあ様がどうかしたというの!?」
痛みから復活した小娘が、ヒステリックに喚いた。
「君は彼女の孫だったか。祖母に似ず愚かなようだな」
私の一言に小娘が大いに傷ついた表情をしたが、手加減する必要を全く感じなかった。
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