読書、ドワーフ、悩み
空騎士とは、対空戦力として魔物と戦う者である。
空騎士は精霊を多量に含んだ、通称"精霊石"に王政の一部の者か発案者である現ガルディン魔法学園長のグラル・オーダスしか知らない儀式をえて、大量の魔力を注ぎ込む事でできる石型の魔法具を、専用の杖もしくは長年使い続けた物に着けることで効果を発揮する。
その効果とは、持ち主の重力を極端に減らす物であり、石自体に空を飛ぶ性能はない。なので風系統の魔法を使いこなさなければならない空騎士は別名"操空者"と呼ばれる。
そこまで読んだマイルは満足げな顔で静かに本を閉じる。
「……素晴らしい…」
マイルは今、学園の図書館にいる。
何故かはすでにわかると思うが、中級クラスになった事で今まで借りれなかった本が増え、空騎士について書かれた本の一部も解禁されたためだ。
違う魔法関連の本も並行して読んでいたため何回も通っており、図書館内ではすでにその容姿から顔も覚えられており、たまに管理人さんや学園の先輩、初級までは一般公開なので街の人などと喋ったり、声をかけられたりした事もあった。
「おや、マイルさん。その様子ですと全て読み終わったようですね」
声の聞こえた方を振り向くと少しひょろっとしているが優しい笑みで喋りかけてくるこの図書館の管理人がいた。
「こんにちは。確かに全て読み切りましたが…よくわかりましたね」
「マイルさんのその顔を見れば大体の人はわかると思いますよ」
確かにマイルは読みたかった本を読み切り、心地いい解放感を味わっていた。
そんp表情が顔に出ていたことを知り、少し恥ずかしくなる。
「そんなに顔にでていましたか。ポーカーフェイスの練習も必要…?」
「いえ、私はそのままのマイルさんがいいと思いますよ。しかし…これでここに来るのも少なくなってしまうのは残念です。なので早めに上級クラスになる事を祈っています。では私は新しい本の整理がありますので失礼」
最後の方は呟き程度の声量だったのにも関わらず、管理人に聞かれてしまいつつもここ数日はお世話になったためお礼を言うと、管理人さんは本棚の向こう側に行ってしまった。
(それにしてもスカイランナーか…響きがかっこいい!)
また少し笑みがこぼれてしまい、遠目でマイルの事を見ていた周りの人の一部が卒倒しているのも気づくわけもなく家に帰るのだった。
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「鍛治で最も大事なのは武器にどれだけ魂を自分の想いを叩き込むかだ。弱い心で武器を作ってもそれはただの鉄の塊だ!どれだけ速く!どれだけ自分を…………」
俺はドワーフ族だ。
ドワーフ族は種族柄、火と土属性が得意な種族として有名で殆どのドワーフ族は大陸の南側にある鉄火山という鉄が豊富な山に集落を築いて暮らしている。
俺もそのうちの一人で、少し使える火法で家の仕事である鍛治を手伝っていた。しかしある日俺は思った。
自分の実力を上げたい。鍛治屋として手伝いじゃなく、親父のような立派な一人の鍛治職人になりたいと。
俺は本気だった。それを家族に話すと親父もお袋も「やっとお前の心に鍛治魂が宿ったか……!お金はちゃんとあるから家の事は気にせず思う存分学んで来い!」と背中を押され今まで降りた事のなかった山を降り、少しばかり大変だったが、前線都市の中級試験を合格できた。
そして今は中級で学ぶ知識を鍛治に応用するためにボランティアでやっているプロの職人による講義に来ていた。
やはり流石はプロ。精神論がやや多いが、タメになることばかりだ。金槌の握り方、力の込め方はまさに神業といえるな。
ノートにそれらを写していると鉄のドアを開け、"アイツ"がきた。
アイツは肩までかかりそうな長い銀髪を暑いからか後ろで一本にまとめた大人しそうで知的な美貌をもった女だった。
その女は俺の近くに来て「隣いいですか?」と聞いてくる。その声を聞いた時、俺の心臓がバクバクと外に聞こえるんじゃと思ってしまうほどの大きな音を立て始めた。
……何故こんな気持ちになるんだ。女に喋りかけられたからか?…いや、違う。女ならドワーフでも人族でも初級の時に何回か話したことがある。答えのない自問自答の中でただ思えたのが、あまりにも場違いだということだけだった。パッと見、筋肉もそこまでなく鍛治をやりそうな雰囲気にも見えない。…じゃあ、何のためにこんな男ばかりのむさ苦しい場所にきたんだ?
そんな事を延々と考えているうちに何時の間にか講義が終わっていたらしい。気づいた時にはプロの職人はささっと荷物纏めて帰っていき、俺の手元にはほぼ白紙のノート。
「マジかよ、何にもかけてねぇぞ……」
俺がそう呟くと聞かれたのか隣に座る"女"がゴソゴソと自分のノートをちぎり、何故か俺に渡してきた。
「もしよければ私のをどうぞ。やはり私に鍛治は難しいようですから」
一方的にそう言って"女"は出て行ってしまった。
俺が正気に戻り、礼を言おうと外に出たがそこにはすでに"女"はいなかった。
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「…はぁ……」
カイト達の練習を見ながら、マイルにしては珍しいため息を吐く。
「ん?どうしたんだ?お前がため息吐くなんてな」
「私だって人間ですから。ため息はつきますよ」
水を飲んで休憩しているカイトにマイルは言うとレーナが何か思いついた顔をして言う。
「わかった!好きな人ができt……「ぶふぅぅ!」…お兄ちゃん汚い!ちょっとこっちに飛んできたじゃない」
レーナの話の途中でカイトが水を盛大に吹いた。マイルは咄嗟に風バリアを展開できたが、レーナには少しかかったらしい。
「ま、ま、マイル!すす好きな人とかできたのか!?」
カイトにその慌てようにマイルは少し引きかけるが変な誤解されても嫌なので答える。
「そんなわけないじゃないですか。レーナの冗談ですよ。私が悩んでいるのはこれです」
そう言いマイルは何かの設計図のような紙を広げる。
設計図には街で売っているような何の変哲もない剣が書かれていた。だが剣先にだけ細かい文字がびっしりと書かれている。
「っでなんなんだ?ただの剣…じゃなさそうだな…」
「これは簡単に言うと剣を振りながら魔法が使える"魔法剣"ですね」
魔法剣はその名の通り、魔法の触媒としても扱える剣のことだ。通常、魔法は中級以上になると身体に流れている魔力では効率が悪く、そのため杖や魔力が詰まった宝玉などを触媒--中継地点とし、効率よく使える。
「それは便利なんだが……マイルが使いそうな剣じゃなさそうだな」
「これはカイトのですよ。せっかく魔法を覚えたのに触媒がなければ使えませんから。…店で売ってたんですけど物凄く高く、デザインも気味が悪くて流石にやめましたので」
殆どの流通している魔法剣は大陸の西にあるダンジョン産だ。ダンジョンの宝箱はランダムで地下深くにいけば行くほどいい物が入っているらしい、日本にあったゲームみたいに。後は素材を集め、鍛治職人に作らせるという手しかない。
「凄く欲しいが……いいのか?高価で…てか素材とかもドラゴンクラスの素材が必要だろ?作れるのか」
そこでマイルがその言葉を待っていたかのように口を開く。
「大丈夫です。何のために私が図書館に毎日通っていたと思いますか」
そりゃ空騎士の本……と言うところでカイトとレーナが黙る。
「人は一つ答えが出てしまえば殆どの人がその答えに従ってしまいます。そのせいでもっといい答えを見つけられなかったんですよ。つまり……」
そこまで言うとカイトが何かを察したのか頭を抑え、マイルが言おうとした言葉の続きを言う。
「つまり……マイルが新しく魔法剣のレシピを見つけたってことか?」
「はい。ですがまだ設計図だけしかできていなくて……鍛治が出来ないと作れないので自分で講義に行ったりしたんですが、プロの説明が殆ど精神論すぎて断念しました」
「自分でやろうって発想が凄いが…それなら街で店出している職人に頼むとかは?」
「自分で言うのもなんですが、こんな常識破りな良くわからない実験を手伝ってもらえますか?」
「「自覚あったんだな(ね)」」
兄妹そろってツッコム。
「なら、知り合いに最近できたドワーフの鍛治職人目指しているやつがいるからそいつなら技術上げに頼めるぞ」
カイトがそう言うとマイルが希望が見えたかのような顔になる。
「それはいいですね。私も準備があるので明日に連れていってもらえますか?」
カイトが大丈夫だと言い今日は帰ることにした。
少し遅れました。投稿ペースが三日に一回になるかもしれません。
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