第三話 第二試験試合の合間
ラルクvsリゼリアの試合は、リゼリアの降参によりラルクが勝利した。
2人が訓練場を去った後の観客席では、
「すげーあの転入生、リゼリア先輩に勝っちゃったよ」
「私鳥肌立っちゃった」
「私無詠唱で魔術使っている人初めて見た」
「剣の強化、王級魔術だろ⁉︎やっぱ、B級魔術師は違うなぁ」
「でも、試験生の子って剣の強化なんてしてたのかなぁ?」
「聞こえなかっただけで、してたんじゃねぇの。じゃなきゃ、リゼリアのレイピアを弾くなんてできねぇよ」
2人の試合に興奮する声や、疑問の声が飛び交っていた。
「……っち」
そんな中、それをよく思わない男が観客席から消えていった。
更衣室に着いたリゼリアは、椅子に座り、先ほどの試合を振り返る。
(確かに最初は、油断していました。ですが、動体視力なら、会長の次くらいには自信がありましたのに、動き始めたことに反応できませんでした。気づいたらあの転入生は、私の目の前、ブレーキをかけたところで、やっと気づけた。それに)
リゼリアは、訓練場を後にした時のラルクとの会話を思い出した。
『………少しよろしいかしら?』
『はい?』
リゼリアの呼びかけにラルクが答える。
『貴方は、いえ貴方達は、この学園に入り何を考えているのですか?』
『何故その質問を?』
リゼリアの問いかけにラルクは問い返す。
『貴方は、私の王級の剣の強化に対して自身の身体能力のみで私の剣を弾き飛ばしました。
私が未熟な部分もありましょうが王級の剣を弾くなんて芸当この世界探せどB級にはいません。とすると貴方は、A級以上の実力があると判断しました。もう1人の方もそれに近い実力と仮定し考えました。貴方達は、それほどの実力を持っていながら、この学園で何を学ぼうとするのか興味がわいただけです』
リゼリアが、先ほどの試合でラルク達の実力を分析し、自分の思っていることを告げると、
『理由は、勉学以外にもいろいろありますが、私も、ジョットも根本的なことは同じです』
『どういうことですか?』
『学校、学園という所を楽しみたいんです。お恥ずかしながら私たちは、一度も学校というところに行ったことがなくて、どんなところか想像するしかなかったんですよ。なので、えーっとすいません先輩なのにこんなこと言うのも変なんですが、この学園で初めての友達になってくれると嬉しいんですが』
『///………はい、私でよければ』
照れながら左手を差し出し握手を求めるラルクに少し顔を赤くしながらリゼリアは笑顔でその差し出された左手をとった。
『まぁ、ジョットが万が一不合格になってしまったら、私もこの学園からさらなければいけませんし、短い付き合いになってしまいますが』
ははは、と笑うラルクにリゼリアが笑顔で告げる。
『大変仲がよろしいんですね』
その言葉にラルクは表情は変えずに告げる
『……先輩』
『はい?』
『私は、ノーマルですからね』
『………はい?』
「ラルク・コーテッドですか………」
「……ぱい、先輩、リゼリア先輩?」
「はい⁉︎」
いつからいたのか、ユッカの突然の呼びかけにリゼリアは我に返った。
「もう先輩ぼーっとしてどうしたんですか?さっきの試合で怪我でもしたんですか、障壁を纏っていたとしても派手でしたからね。医務室行きますか?」
「いえ大丈夫ですよ!」
「本当ですか?顔も少し赤い気がするし、もしかして体調が悪いのに試験試合引き受けてくれたんですか⁉︎」
「そんなことありませんよ‼︎顔が赤いのは、えーっと、そう、陽射し、陽射しがさしているからそう見えるだけだと」
リゼリアが必死に答える。するとリッカは、
「でも先輩ここ窓ついていませんけど?」
アヴァロン魔術騎士学園では風紀のため更衣室の窓は設置されていない代わりに、空調管理はしっかりしている。
「………さ、」
「さ?」
「先ほどの試合、陽射しが強かったですからね、少し日に焼けてしまったかもしれませんね‼︎」
今までこういった態度を見せるリゼリアをリッカは見たことがないので唖然として答える。
「ほ、本当ですか?」
「本当です‼︎さ、次は貴方の番なんですから頑張ってきてください‼︎」
「え、ちょ、ちょっと先輩⁉︎」
戦闘衣に着替えたリッカをリゼリアは更衣室から追い出す。
「ふぅ、私一体どうしたんでしょう?リッカさんにあんな態度を取ってしまって……」
更衣室のドアに寄りかかりながら先程の行動についてリゼリアは考えていた。
時間は少しさかのぼりジョット達がいる男子更衣室
「よ、お疲れ」
ラルクが戻るとジョットが待っていた。
「モニターで見てた、あの先輩にはびっくりしたな」
「ええ、彼女は良い魔術師になるでしょう」
上から目線の2人。
「ああ、お前に魔力を使わせたからな」
「ええ、まさか王級を使えるとは。私たちは、この学園を低く見すぎたのかもしれませんね、貴方も気をつけてください、油断してると痛い目を見ますよ」
ジョットは小さく「あぁ」と答えた。
「なぁ、それにしても」
「ええ」
「「ここの学園の戦闘衣は、いい(ですね)なぁ」」
アヴァロン魔術騎士学園では、風紀には厳しいものの、戦闘衣は、基本。身体にマナが通しやすいよう極力、露出も多く、生地が薄い。
この世界の女性魔術師は露出が少なかったり、厚着の場合どうしてか、マナの通りが悪く、発動しなかったり、暴発、最悪爆発を起こしてしまう。
男性の場合は、そんなこともなく、作業着のような服装だ。
「性別に不平等差を感じますが」
「魔術師は男性より女性の方が多いんだからかえって平等だろう」
ラルクの疑問にジョットが答える。
「あの先輩、D、いや、もっとだEだろ!」
「いやぁ、近くで見ましたがFはありましたね」
あの時、試合開始直後、ラルクの瞬間的攻撃の時のブレーキ、あれは、障壁にも気づいたが、ラルクの目線は、先輩の胸部に向いていた。
「あの時ほど障壁を憎んだことはありませんね」
「お前も要領が悪いなぁ、もっと試合中あっただろう飛んだり跳ねたりとかしてさぁこう、もうちょっとバインバインに」
ジョットが胸の前に手を持ってきて上下に振るジェスチャーをする。
「いえ、間近で見た満足感と紳士的な私が勝ってしまって」
「そんなもん捨てちまえよ、邪魔だろ」
「いえ、子供の時からの教育によるものと女性にモテたいと思う願望のためというもので仕方なく」
「女性にもてたいか、ならばよし」
なんとクズな会話だろうか。
時間が経ち
「よし、それじゃ行ってくる」
「ええ、本当に油断してると痛い目見ますよ。それに、シエルさんに聞いたこの学園に入る意味も考えてください」
シエルが言った、"この学園の生徒が伸び悩んでいるということ"
それを深く理解し、ジョットは「あぁ」と頷き、訓練場入口に向かった。
「よし、セリカのため、私はどんな戦いだろうと負けられない、お姉ちゃん勝つからね」
リッカは、気合いを入れるため軽く頬を叩き、ジョット同じく訓練場入口に向かった。
「………これ以上くだらん戦いをしたら俺が………」
入口に向かうリッカの背中をその男の視線は捉えていた。