プロローグ
平穏な暮らしがしたい。
何も起きなくてもいい、ただ普通に働き、普通の女性に恋をし、結ばれ、子供を作り、育て、子供が大人になり自分が歩んだような道を進み、自分はこの世界の生涯を家族に見守られて終わる。
ほとんどの人がそういった人生を迎えるだろう。
だが俺は、そんな退屈な人生なんてごめんだ。
厳しい人生を望んでいるわけではないが、それでも刺激のある人生を送りたい。
それこそ簡単んで多少の人が興味を示すような小説の主人公みたいに。
すこしカッコつけたがりなベタな英雄みたいに。
俺の人生はそういったすこし刺激の入ったお気楽な人生がいい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔術世界アルカディア、その大国アーシア大都市の一つルーディア、飲食特区の端にある喫茶店「太陽と月」で俺、ジョット・エヴァンスは働いている。
この喫茶店「太陽と月」はジョットを含め女店主、今買い出しでいないがもう一人の男店員の3人で開いている。
「え、学園?俺が?」
カウンター内のジョットの横に並んで立つ金髪の美女この喫茶店の女店主シエル・リーティアに唐突に告げられた。
「ああ、手続きは昨日のうちに済ましておいた」
「ちょっと待てよ、いきなりどうしたんだよ?」
聞き返すジョットに対してシエルは答えた。
「いきなりではない、先日お前には話したはずだが」
「先日って………あぁ、あの時か」
ジョットが1週間前のことを思い出す。
1週間前の夜、ジョットが自分の部屋のベットで寝沈もうとしていた時、いきなり部屋の扉をノックされた。
「ジョット、すこし話いいか?」
シエルの声だと知り、寝ようとしていた体を動かし、部屋の扉を開けシエルを中に迎える。
「はぁ〜あ、どうしたんだよこんな夜中に〜?」
眠気を我慢しながらシエルに問いかける。
「実は、以前学長をしている私の知り合いに学園に来て欲しいと頼まれてね、最初は断ったんだが伸び悩んでいる子達にいい刺激を取り入れたいと言われてな」
(確かにシエルならいいかどうかは置いといて絶対刺激にはなるだろう。)
寝ぼけている頭でもそれだけはジョットは理解できたので答えた。
「………いいんじゃない?」
「…そうか!すまない。数日後私は学園に行くため1日店を空ける。店番を頼んだぞ」
「はぁ〜い」
あくびとともに返事をする。
(別に自分のことなんだからいちいち俺に許可取らなくてもいいんじゃないか?)
一瞬そう考えたジョットだが眠気が勝ったのかベットに横なり夢の中に落ちていったのだった。
「あれってシエルのことじゃなくて俺だったの?」
「何を言っている私が行ってどうする?そもそもお前だと伝えたはずだが?」
お前は何を言っているんだと言わないばかりの表情を向けて来る。
(この人も見た目こんな美人でもかなりの歳だからな、ついにぼけたかババァ)
「ついにぼけたかババァ」
最後の部分が声に出ておりバッチリ本人に聞こえていた。
「…………」ドン、バキバキ、バン、バンバン
「ズビバゼン俺が悪がっだでずだから無言で今振り上げでいる拳をじまっでもらえないでひょうか」
今の無言の間、床に叩きつけられ、関節決められ、数度顔を殴られた。
「………しばくぞ」
殺意込められた。
しばいてから言わないでもらいたい。
「嫌だったのか?」
シエルがすこし不安といった感じで聞いてきた。
「嫌ってわけじゃないよ。むしろ学園とか学校とかって俺には無縁な場所だと思ってたから少し楽しみかも」
照れていながらもすこし嬉しそうに頬をかき話すジョットにシエルが優しく答える。
「学園は、何も勉強だけ学びに行くものではない。人とのコミュニケーション、繋がり、そういった関係を学ぶのも社会に出るには必要なことなのだ」
学園等で学んだ者は将来こういった人物になるのだろうとジョットは感心した。
シエルも先ほどの自分の質問にジョットが意外な答えを出したので親的な立場で今までジョットを見てきたシエルは良い変化だと思い嬉しく思った。
「買い出し行ってきましたぁ〜」
先ほどの会話から少し時間がたち少し青みがかった銀髪のイケメンが店の中には行ってきた。
もう一人の従業員ラルク・コーテッドが買い出しから帰ってきたのだ。
「もう、量が多すぎですよ〜」
「お疲れ様だ、ラル。休憩がてら冷たいものでも入れてやろう」
「え、シエルさんが妙に優しい、何が起こるんですか。新しい魔術薬か魔術式の実験?買い出しリストに勝手にえろ本追加したのジョットですから僕は関係ないですから」
真剣な顔で答えるラルク。
このラルク、顔はイケメンなのだが言動がたまにふざけていたりするのでジョットと妙に気があうのだ。
「馬鹿!リストの横に口外厳禁って書いてあるだろ、それに俺の趣味は尻じゃねえよ‼︎デカ尻はそこのシエルで飽き飽きしてんだよ、ほっそりとした細脚の若い娘だよ‼︎」
「いや、デカ尻は置いといても結構若くて可愛い子ですよ。ほらこのページなんか」
「え、マジ⁉︎うわ本当だ、すげ、でもデカ尻がなぁ」
瞬間、本当に一瞬の出来事だった。持っていた本が消し炭になり床に落ちていったのだ。
「おいおかしいぞこのページ、服着てるし顔般若だし、何よりシエルに似てるしよ」
「そうですね、いやでもなかなかの美人じゃないですかいいと思いますええ、ピッチピッチの張りのある肌とか綺麗なボディラインとか」
「ピッチピッチっていまどきそんな言葉使わないだろう」
冷や汗をかきながら答えるジョットとラルクを無表情で見ながら先ほどの消し炭とかした本を指し。
………次はお前たちの番だ
声には出していないものの周りの殺伐とした空気で嫌でもそう語っていることを理解した。
来ていたお得意様たちはまたかと思いながら彼らから位置が近かったものは少し遠くに避難し、数秒後、喫茶店「太陽と月」からは一つの爆発音とともに2人の男性の悲鳴が響き渡った。
「そういえば私が帰ってきた時、シエルさんが妙に優しかったのはなんでですか?」
黒焦げになりながらも散らかった店を片付けるラルクに先ほどのジョットが学園に行く話をした。
「なるほど、それで。ジョットも大変ですけどこの店を私とシエルさんで回すのも大変なんじゃないですか?」
「それならば大丈夫だ、私の知人に手伝ってくれる人物がいてな店の方はなんとかなる。それになにを言っている?行くのはラル、君も一緒だぞ」
今度は口に出して言っていたがなにを変なことを聞いているのだと言った風にシエルは答えた。
(この人も見た目こんなに美人でもかなりの歳ですからね、ついにぼけましたかババァ)
「ついにぼけましたかババァ」
トントンと肩をジョットに叩かれるラルク。
「どうしましたジョット?」
「それさっきやった」
「……?」
次の瞬間先ほどのジョットと同じ光景が繰り返された。
「まぁ、ラルの場合は伝えていなかったが、ジョットが行くんだ、お前が行かない理由はないだろう」
「まぁ、そうですよね」
自分がジョットと一緒にいる理由、ラルクは深く理解していた。
「悪いなラルク」
もしわけなさそうに苦笑いで答えるジョットにラルクは笑顔で
「別に問題ないですよ。君のそばにいると退屈しませんから」
「言っといてなんだが俺はふつうに女の子が好きだから」
「唐突になにを言ったかと思えば、私もノーマルですから」
「まぁ、何はともあれ行く気になってくれてよかった。将来も別にこの店を続けなくてもいい、自分たちでやってみたいことを探してくるがいい」
肩の重荷が取れたと言った風にシエルが答え、今度はジョットが質問した。
「で、本音は?」
「これでお得意様や近所の奥さんにお前たちがこんな平日の真っ昼間の時間に働いていることを苦笑いや冷たい視線をされなくて済む」
「ご迷惑をおかけしました」
ラルクがもしわけなさそうに答える。
お‼︎っとジョットは思い出したようにシエルに尋ねる
「そういえば学園のこと聞き忘れてたな。どこの学園なんだ?」
「………ああ、アヴァロン魔術騎士学園だ」