攻略対象者は幸せを手にいれた
一応これは、天才腹黒美少年×ヘタレ美少女です。
俺は正確にはこの国の第三王子だ。
昔母が王様の侍女をしていた頃、手慰みに花を散らされたらしい。
遊びであったからか王からの慈悲などなく、王妃と側妃達に苛められ王城を辞した後で俺が腹にいることに気付いたそうだ。
まあおかげで安全な地方で育つことができた。
王族は美形な一族で俺もその特徴が顕著にあらわれた。家の内外問わずよく浚われ、襲われたりした。その度に俺の母方のジジイが怒り狂って暴れ助けてくれたのだ。
学園に入学しても同年代の子達からも男女問わずひっきりなし構われ襲われ、他人と会うことが嫌になるのは時間がかからなかった。
俺は大抵学園の図書館に逃げ込む、難しい論理や技術の本が並ぶ奥の小部屋には殆んど人が来なかったからだ。俺は本に夢中になり気付くと学年で首席となり、飛び級をしては全てを圧巻で負かしてこの国一番の神童と呼ばれる程になっていた。
是非とも国の研究所へと誘われたがそこで俺は出生の秘密を知る。
上司である宰相様が俺の顔が王と似てると過去を調査され王の庶子と判明したからだ。
宰相様と俺の家族は話し合い他人のそら似として誤魔化すことにした。
天才科学者である俺を政権争いで失うのは惜しい。
そんな思惑だか、俺も美形以外取り柄のない享楽的な王族と係わり合うのはごめんだった。
そうこの国の王族はお飾り、有事の際の責任の押し付ける、後始末の為に生かされているそうだ。
素行の悪い本人達は理解してないようだが、影でこの国を運営している者達はそう取り扱っていた。
そんな裏の思惑を知りますます人嫌いが増す中で、偶々家に帰るため研究所の外に出た時に男に襲われた。何時もならジジイが付き添って居たのだか今日は腰を痛めており付いていなかった。
押さえ付ける息の荒い男が気持ち悪い。腕を縛られ麻袋に入れられた処で、男は悲鳴をあげた。
「痛い!痛い!痛い!うあっぁぁぁぁ!」
うわ!袋の隙間から何だこれ!空気に触れた処が痛みだす。
男は転げ回りながら何処かへ消えた。
「うわこれ失敗。僕も痛いや」
その声と共に水が掛けられる。先程よりは痛みがひいたが、それでも痛む。
被せられた麻袋から出されて、「ごめんね、大丈夫?」と声をかけてきたのは一人の美少女だ。
「濡れてしまったね、僕の服貸すから。」
そう言って直ぐ側のドアに手招きする。
普段なら知らない人間に付いて行くなどしない。が、この痛みは本当に酷く何とかしたくて飛び込んだ。
パン屋の二階にあるソイツの下宿先でシャワーを貸してもらいやっとこさ一心地つくが、出された服はワンピースであった。
助けてもらってなんだが、怒りが湧く。
「俺は男だ!」
「へ?嘘、間違えてごめんね」
と男物の衣類を貸してくれた。
話を聞くと偶々このパン屋の裏口から出た処で拐かしを見かけ、痴漢撃退用ハバネロ爆弾を投げたと聞いた。
しかもその美少女は実は男で同じ目に何度も合っていてこれを開発したという。
爆弾の中身は変鉄もない唐辛子の一種を粉にしただけ。今までこんなに効果のある代物はお目にかかったことはない。この男に興味が湧いた。
「僕、ここに来たばっかでさ、友達いないんだ。
良かったら友達になってくれないか」
同じ境遇も気になり二つ返事で了承した。
ケンタ・ヤマザキという不思議な響きの名前に、図書館にもない知らない知識、馬鹿な冗談を言い合うがそれ以上の性的な目で俺を見ない。逆に人に騙されそうになるくらいのお人好し。
人嫌いな筈の俺がコイツの隣にいるのに苦しくない、むしろ楽しい。俺の家族、そんな気がしてきた。
コイツはちょっと抜けているようで男の癖によく男に狙われる。その度に俺は邪魔をする。
変な虫を付かせてたまるか。そんなことから盗聴器と発信器を開発して宰相様からも効果を賞賛されるようになった。
コイツの話はどこか突拍子的だ。画期的なゲームやら小説やら遊び方を発明する。俺には親しい友達がいなかったから特に新鮮だった。
これらも学園の子供達が買えるような値段で玩具を売り出す。大いに売れた。
ただコイツはお金の価値観がずれていた。大金を持たせたら男の他にも金目当ての女も寄ってくる。騙されないよう俺の方で管理しておくことにきめた。
俺はコイツの親友といわれる頃には天才発明家と呼ばれるようになった。
その頃だ。魔王と勇者が現れたらしい。が、特に影響がないこの国では遠い国の物語のようであった。
だがその勇者からの応援要請があり現実となる。
魔王は浮遊城に居り、そこまでの移動手段がないという。
ケンタの話にあったヘリコプターとやらは作成中だがアイツも国に売り込んでやろう。
最近アルバイトにせいを出し、めっきり構ってくれない。
そんな立派な名目をたて、俺はアイツを連れて王城へ向かった。
「こちらは隣国の勇者パーティの騎士様です。
魔王討伐だか問題が発生したらしい。それを打開するための機器を作って欲しいそうだ。
世界的危機に対し我が国も貢献をしなくてはならない。頼んだよ」
宰相様はそう引き合わせると部屋を退出する。
俺はこの騎士がなんとなく気に入らない。
さっきからケンタを見つめている。いや、睨んでいる?
「お前…、「始めましてケンタ・ヤマザキと申します。どの様な問題が発生しているんですか?」」
ケンタが遮るように挨拶する。
「自殺したはずの公爵令嬢がこんな処で何をしている!」
「初めてお会いします。自殺となれば生きてる訳ががないじゃないですか。どなたかとお間違えではないですか?」
知り合いか?だとしても関係ない。俺はケンタを擁護する。
「そうですよ、ソイツは男です。そんなに似てる方なんですか?」
「いや間違えない!その王族に連なる者の紫の瞳。散々嫌がらせをした公爵令嬢以外にあるものか。このアバズレが捕まえて打ち首にしてやる!」
「止めてください!」
騎士は突然腰にある剣を抜きはらう。
なんだコイツは。
咄嗟にケンタは痴漢撃退用ハバネロ爆弾を投げつける。
「うりゃ!」
「うわ!ギャー!痛い!何だこれ!痛い!」
痛みに悶え、床にゴロゴロと這いまわる騎士を後目にケンタは逃げ出した。
こんなのでも一応国賓だ。ケンタの対応に一瞬固まった。
逃げた、そういえばアイツは一人暮らしなのにワンピースを持っていた。
真相はともかくアイツを保護しないと、俺は後を追った。
「おいケンタ、お前まさか!」
「いやアレ、話が通じないようだったから。取り合えず後でな!」
「の、逃がすか!」
かけられた液体よりも怒りで赤くなった騎士がよろめきながらも追ってくる。
アイツと話をしたいのに!邪魔だ!
騎士の足に『拘束ほいほい』(商品名)を投げつける、小さな玉から触手が発生し足を捕らえて転ばせる。
「はい、そこまで。それ俺の親友です。止めてください!」
「無礼者!私を誰だと心得る!」
「勇者パーティの方ですよね。確かにご立派です。しかし貴方など代わりとなる者は掃いて捨てるほどいる。たが必要な機器を造れる者は私しかいない。そんな口をきいてもいいのですか?」
隣国で話し合いもせず無体を行なう奴に配慮することはない。ましてや俺のケンタにだ。
一歩も引く気はなかった。
「今は魔王による世界的な危機。それとあんな国賊を比べられては困る。
話を聞けば貴方も理解される。
だから早く開放してくれ。」
始めにそれをしないお前が言うか!
相手の事を考えず一方的に断罪する。王妃達と同じ。
理性がぶちりとキレた。
「なんのことですか、ここはガセスト王国。
貴方のお国ではない。勝手をしても良いことではない。」
「勝手はアイツだろう!こんなことをして!」
拘束していた触手を引きちぎる。
「先に手をたしたのは貴方です。
見た目と同じ頭の中身も筋肉しかないらしい。
私の親友に手をだしたのだ。それ相応の報いは受けて頂きましょう」
「黙って聞いておれば、たかだか一介の科学者が偉そうに。お前の上司に伝えて処分してやる!」
「できるならどうぞ」
話を聞くのも馬鹿らしい。手元にあった全ての『拘束ほいほい』を投げつける。
一挙に触手が視界を埋め尽くす。
アヒィ!情けない声をあげて騎士は触手に囚われ弄られる。
『拘束ほいほい』は本来、痴漢撃退用品。
男が尻でしか感じなくなれば痴漢などしない、をコンセプトに作った。
自力で出られなければそうなるだろう。
無害化した騎士を転がして、ケンタを探した。
「勇者さまが探していたよ。
是非とも高名なお前とお近きになりたいらしい。
だが勘違いするなよ。お前は単なる科学者だ。
彼女には私のような王族が相応しい。
失礼のないように。
それと彼女はこの後、晩餐会にエスコートするつもりだ。
早々にきりあげろよ」
この能無し色欲の塊が服着て歩くな!
そう叫びたいのを我慢する。邪魔だ。
「殿下、お久しぶりです。
例の依頼のためただいま取り込んでおりまして。
大変失礼ですが代わりにお相手して差し上げて頂けませんか。
私のような者より殿下が側に居られる方が余程喜ばれることでしょう」
「そ、それもそうだな。うむ、そうしよう!」
あっさりかわしたものの、本当に王城は嫌な奴等ばかりに合う。
ケンタを探す方法を替えた。
盗聴器と発信器を操作する。聴こえたのは知らない女の声だった。
「何であんたが此処にいるの!
シナリオだとセリア様が人を嫌って訪れる筈なのに。
もしかしてセリア様を狙ってんの?
死にたくないって苛めの裏取引を持ちかけたのは嘘だったの!」
「は?シナリオ?あんたもしかして異世界人じゃなくて、転生者?」
誰と話してる?異世界人、噂の勇者か?
「そうよ。それより最後の攻略対象者よ!逆ハーする予定なのに!」
「いやいやいや知らんがな。俺クリアする前に死んだから!」
「そう、だけどゲームはまだ終わってないわ。
なら取引はまだ有効よね。公爵令嬢とバレて死にたくないなら手伝ってくれるわよね
天才科学者のセリア様をここに誘き寄せてちょうだい」
俺の名を呼ぶ女の声に吐き気がした。
俺を狙っているらしい。
攻略、逆ハー、クリア…。
言葉の断片が、ケンタが話したゲームというモノを呼び起こす。
『クリアする前に死んだ』、ケンタは転生者か。
頭の中でピースが填まっていく。
自殺した公爵令嬢、勇者、騎士、魔王、クリア。
転生者同士の裏取引、嫌がらせ、アバズレ。
なるほどな。
隣国の学園で勇者が仲間を集めていた。
嫌がらせ、アバズレはその手引きとしての裏取引。
死んだ筈の公爵令嬢、ワンピース、ケンタか。
天才科学者、王の庶子。俺は最後の攻略対象者という訳か。
気が重くなる。ケンタは俺を狙っていたのか。
ケンタはその事を知らないと言っていたが、本当にそうか。
だがあの抜けているお人好しのことだ。
本当に攻略するつもりなら、普段の態度に秋波を送ってもいいのに、恋愛のれの字すらない。
王城、下宿先、王都郊外へと移動する発信器に俺は覚悟を決めた。
ケンタを捕まえる。
俺の心をしめた平穏な存在。
それほどケンタに入れ込んでいた自覚はある。
アイツを俺のモノにしてしまえば誰も手出しはできない。
宰相様の部屋へ足早に向かった。
「おや、何がありましたか。必要な物の要望ですか?」
「違います。宰相、取引をしませんか」
俺の異様な雰囲気に察したのだろう宰相はお付きの者を下がらせた。
「話を聞こうか」
無能な王族を一掃する。
元々建前たが、害がありすぎると噂されている王子達を廃嫡し、王とその妃達を後宮に隠居という幽閉をする。
代わりに俺が継承者として国をサポートする。
宰相は今後の国益とデメリットを秤にかけ俺に付くことに決めた。
「勇者一向はどうなさいますか?」
「どうせ俺の機器がなければ動けない。
騎士は王族の俺に歯向かった、それをネタに黙らせる。
勇者は第一王子とのスキャンダルでも流せばいい。
誰かれ構わず媚びを売っていたからな。
いざとなれば盗聴した内容をかの国にバラす。
あちらの国の現王はまともだ。
いくら能力があってもこれから問題を起こすような者を王家の一員にするとは思えない。
まあ、それは裏で連絡して、表面上は魔王討伐までは協力するさ。
なにせ『勇者さま』だからな」
「分かりました。早急に手配いたしましょう」
「頼んだぞ」
深く深く宰相は主君にする礼をとった。
夜を待ち、隠していたヘリコプターを起動する。
ケンタの話にあったヘリコプターとは原理がかなり違う。形もだが機動性や小回りが格段にいい。騒音もしない。
機首を郊外へ向けた。
発信器の発信元辺りをライトで照らす。
小さな影が薮に紛れた。
見つけた!
俺はヘリコプターを近場に着陸して向かった。
「ケンタ、俺だ。出ておいで」
優しく言ったつもりだが動く気配がない。
「発信器と盗聴機を付けている。隠れても無駄だよ。それともこの『拘束ほいほい』を投げ込まれたい?」
観念したのかがさがさと情けない顔で出てくる。
「お前何処まで天才なの?ここそこまで文明発達してないよね!というか僕教えてないよね。それ。」
「お前は何時も男に絡まれてるからな。対処するため開発した。これは応用も高くてな。
各国の諜報に使われ弱味を握り放題だと、上の連中は喜んでいたぞ。」
「そうですか」
がっくりと肩を落とす姿も可愛らしい。俺は核心に触れる。
「なあお前、女だったんだな。
俺と同じタイプの男かと思ってたんだが、お前も俺の能力や顔目当てで近付いたのか?」
「それはないよ。
話してないけど僕前世で男だったんだ。
こっちに生まれてからバカを言い合える男の友達に飢えていたから、僕と同じタイプなら襲われずに仲良くなれると思ったんだ」
やっはりコイツは他の奴等とは違う。ケンタの言葉に心が震える。
「そうか。俺を狙ってたなら容赦しないつもりだったが、俺もお前といて楽しかった。知らない知識を持っていて話が合う。一緒にいて苦にならない。
人が大嫌いだったけど、お前なら大丈夫かもしれない。
音声も録っていた。あの女の策略もな。
どうする?俺の手をとって平穏に暮らすか、死刑になるか」
俺は脅す。絶対に逃がさない。手に入れる。
「…見て見ぬフリで見逃し「却下」…分かりました」
そろそろと伸ばした手を掴む。
これでケンタは俺のモノだ!
「フフっ、嬉しいよ。…さて、厄介事はさっさと片付けてくるか」
驚くケンタをヘリコプターに乗せ、屋敷に閉じ込めると行動に移した。
陰で国を動かしていただけはある。宰相は殆んどしてくれていた。
国民はスキャンダルが多い王子達の廃嫡に喜び、身近な発明をする科学者である俺を王位継承者として認めてくれた。
暮らしが楽になる有効な物は民衆の心を掴んだようだ。
殆んどがケンタの案だが。
ケンタは遠い王家の親戚の養子に入り、宰相が後見人につき、俺の婚約者となった。
俺達は相変わらず発明の話をしてるが、最近特にケンタが可愛くて仕方がない。
最近巷で流行るゲームやら日用品がケンタの企画だと発表し、民衆からはなかなか良い印象を持たれてる。
綺麗な紫の瞳を覗きこむとふにゃりと笑ったような困った顔が一段と可愛らしい。
俺は笑って本心を告げる。
「愛してるよ」
お読み頂きありがとうございました。