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巫女恋  作者: トラキチ3
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~第壱巻  美しき巫女さんと出会うの巻~(1)

巫女恋 トラキチ3

~第壱巻  美しき巫女さんと出会うの巻~


初稿 20140724

7稿 20150525



#0 プロローグ


「私、結婚することにしたから!」


 俺より4つ年上の姉シオリは、何の前触れもなく、いきなり言い放った。 

 我が家の楽しい夕食のひとときは、一瞬にして凍りついき、父さんは、好物の唐揚げを箸で摘んだまま姉を見つめて固まってしまっている。


「はぁ?」

 やっとの事で俺が声を発すると、ドヤ顔の姉と視線が合った。

 しかし、姉はフンと鼻を鳴らすと、俺から視線をズラし母さんに「これがカズキさん……」とスマホの写真を見せ始めた。

(なんなんだ? また、いつもの暴走がはじまった?)

 姉はいつもこうだ。唐突に話が始まり、周りはいい迷惑。さっぱり意味がわからない。

 俺は、姉を睨みつけると少し声を大きくして叫んだ。

「ねーちゃん、まだ大学四年生だろう」

 すると、姉は面倒くさそうに口を開いた。

「うるさいわね。そうだけど、何か問題でもあるわけ? 『おねーちゃんがお嫁にいくなんてボクさびしいぃ』ってこと?」

「ない! それは絶対ない! っつうか、勉強の妨げがなくなってむしろ助かるって感じ……いや、そういうことじゃなくて、なんなんだよ『結婚』って、なんの相談もないじゃないか! 勝手すぎるよ!」

 姉はつまらなさそうに肩をすくめた。

「自分のことは、自分で決めて何が悪いなわけ?」

「はぁ? 家族を無視して、自分勝手に決めるのはどうかと思うんですけど」

「家族? もちろん感謝はしてるわよ。だけど、新たな家族を作るためには、自分で決めないと!」

 姉がビシッと言い放つと、突然、ガタンと音がした。

 俺が振り向くと、父さんは寂しそうな顔をしてリビングから出て行ってしまった。父さんの背中はどことなく小さく哀愁が漂う。


「ちょっと、ねーちゃん! 今の父さんの顔見た? あんまりじゃないか、もっと上手い切り出し方ってなかったわけ? ほら『お父様、改めてお話があるのですが……』とかさ、もっと段取りってものが……」

「うるさいわね、そんなのイヤよ。どうせ嫁いだ先で散々厳かにしなくちゃならないんだし、それまでは、自由にさせてもらいます」

「はぁ? 全然、意味わかんないんですけど!」

 俺は、箸をテーブルに叩き置くと、身を乗り出しギロリと姉を睨みつけた。

「あぁ、ヤダヤダ。負けそうになるとすぐに大声あげる男って、サイテー。彼女ができないワケだわ」

「なに! か、関係ないだろ!」

 冷ややかな目で俺を見つめる姉を指差し叫んだ。

「母さん、ねーちゃんのいっていることおかしいよね」

 俺は母さんに同意を求めてみたが、母さんは、姉の写真に夢中で俺の声なんか聞いてやしない。

「ねぇ、カズキさんっていうの? イケメンじゃない!」

 母は、スマホを覗き込み始終ニコニコ顔だ。

「ねぇ、シオリ、カズキさんの家は、神社なの?」

 姉は、ニッコリ微笑むとうなずいた。

「そうなの! 失業もないしね! でも、まだ修行中だから……まぁ、ゆくゆくは宮司みやつかさになるのかな」

 母さんは、姉の言葉に嬉しそうにうなずいている。

「だいじょうぶよ! お父さんには、後で話しておくから……任せておいて!」

 俺は、呆れて母さんを睨んだ。

「ちょ、ちょっと、母さん、そんなんでいいわけ? 会ったことも話したこともないんでしょ?」

「いいじゃない。イケメンで神様にお仕えしているってだけでステキじゃない。私の目は、節穴じゃないわよ」

「はぁ?」

 なんなんだよ。イケメンなら誰でもいいのか? っていうか母さんも父さんを顔で選んだのか? イヤイヤ、どう考えてみてもそうとは思えない。

 俺は、母さんをジッと睨んだが、姉の写真に舞い上がって俺のことなんか眼中にない。

「はぁ……」

 だんだん、バカらしくなってきた。あの母さんじゃ、姉がこうなったのもしかたがないのかもしれない。



#1 巫女舞


 姉の結婚話は、あれよあれよとトントン拍子に進み、嫁ぎ先の神社で年明け早々に行われることになった。

「な、何だって!」

 姉から結婚式の日取りを聞き、俺は呆れて大声で叫んだ。

「何が?」

「ねーちゃん、俺が大学受験の真っ只中だって知ってるよね?」

「知ってるわよ」

「知っててその最中に挙式をするってどういうこと?」

 またもや我が家の食卓に緊張が走る。

 姉は、一瞬俺をチラリと俺を見たが、すぐに貸し衣装がどうだ、誰を呼ぶのか……と母さんと話をしはじめた。

(え? なに? この空気。この俺は完全無視ですか?)

 まぁ、毎度の事だ。いつもの姉の行動だから気にする事はない。俺はそう自分に言い聞かせた。

 俺は、晩御飯を急いで掻きこんだ。


「あー、ったく、腹がたつ! こんな身勝手が許されていいものか! 絶対おかしい!」

 俺は、自分の部屋にもどるとベッドに身を投げ、天井を見上げてつぶやいた。

「なんなんだよ。少しは家族の都合も考えろっつうの」

 俺はイライラして目を強く閉じた。


 姉はいつでも自分のことは自分でさっさと決めてしまう。というか、基本、周りに相談することはしないのだ。すべてが決まってしまって初めて「こうなったからよろしくね」と結論を話す人なのだ。

 とはいえ、「結婚」といえば、人生の大きな岐路だし、俺も先方の家族とつながりを持つ事になる。それを、家族にも相談しないで勝手にどんどん決めてしまうっていうのは……やっぱり合点がいかない。

 俺は、もう一度大きくため息をついた。


 ピピ、ピピ……


 突然、携帯が鳴った。

 俺は手を伸ばして携帯を取ると幼馴染のミユキからの着信だ。

「あー、こんどは、こっちね……」

 俺はため息をつく。

 記憶している限り、ミユキからの電話でいい話だったためしはない。「彼氏にフラれたから私は女として価値がない」と泣き出したかと思うと、「バーケンセールでヒドイ買い物をして腹が立つ」とか……くだらない話がウダウダと聞かされる。

(ほっとくか……)

 今の俺は、姉の一件でムシャクシャしてミユキのバカ話に付き合う精神的余裕なんてない。


 ピピ、ピピ……


 しつこく電話の着信音が鳴る。

(ったく、どいつもこいつも自分の事ばかり……)

 俺は、携帯の電源を切ろうかボタンに指を伸ばしたが、今にも泣きそうな情けないミユキの顔がチラっと頭をよぎった。

(しょうがないか……)

 大きくため息をつくと通話ボタンを押した。


「ハイハイ、ミユキさん。どうかしましたか?」

「ユタカ! 私、もうおしまい……」

 やっぱりだ。いつものパターン。どうせ、くだらない話なんだろう。

「何が、おしまいなんでしょうか? ミユキさん?」

「ユタカ……私、全然、勉強しても頭に入んない……どうしよう」

「ほぉ?」

 俺は、意外にもミユキの相談が真っ当な話だったので驚いた。

 とはいえ、ミユキのことだから、勉強しても頭に入んないんじゃなくて、はじめから頭に入れようとしていないに決まっている。そもそも、ミユキは、自分に興味のないことは、まったくといって手を抜く性格だ。そうはいっても、大学受験は、自分の人生にも大きくかかわる事だし、いやがおうでも手を抜くわけにもいかず、それでストレス爆発っていったところだろうか。

「ユタカ! 私、どうしよう……」

「あのぉ、ミユキさん? で、俺にどうしろと?」

「なんとかして!」

「あのなぁ、なんとかしてって言われてもなぁ。だいたい、お前の脳みそ、小っちゃいし……昔から、一つ覚えると一つ忘れるからなぁ」

「ちょっとぉ、もっと真剣に私の相談にのってよ!」

「じゃ、方法を考えてみよう」

「そうそう! ユタカなら何か思いついてくれると思うんだ! で、どうしよう?」


 ミユキは、いつも人任せ。丁度、姉のシオリとは正反対な性格と言っていい。自分で解決方法を考えることもせず、いつも俺に「ご意見を伺いたい」だとか「たとえば、どうする?」とか「ユタカならどうしたい?」と聞いてくる。

 しかし、彼女イナイ歴18年の俺に、彼氏と喧嘩をしたときの対処方法や、新しい彼氏とどんなデートプランがいいかと相談してくる神経は、どうにも理解できない。

 今回だって、いまさら勉強の仕方を教えてみたところで本人は満足しないだろう。ここは精神的にアゲアゲになるような一言をガツンと浴びせるしかない。

「そ、そうだなぁ……」

 俺が、ミユキ自身が自らやる気になってくれるような言葉を捜していると、近所の寺から除夜の鐘の音が聞こえてきた。

(大晦日か……)

 大晦日……お参り……

「あのさ、神頼みっていうのはどうだ?」

「へ? 神頼み?」

「まぁ、懸命に願えば望みが叶うかもしれないし、霊力もつくかもしれないよ」


「……」

 無言。

 しばらく待ってみたが、いっこうに返事がない。

(我ながら、ちょっといい加減だったか……)


「あの、ミユキさん……どうしました?」

「ごめん! 今、着替えてるとこ!」

「はぁ?」

「ユタカに相談してよかったよ! 待合わせドコにする?」

 なんと驚いたことに、ミユキはノリノリの様子だ。

(マジかよ。そんなんでいいのかよ!)

 俺は思わずツッコミを入れそうになって息を呑んだ。

(思いつきで話しただけだったが……まぁ、いいか)

「実はさ、俺のねーちゃんが、嫁ぐ先が近くの神社なんだけど……」

「え! そうなの! じゃ、そこへ行こうよ! おめでたい話にご利益倍増間違いなしだよね!」

 ミユキは、興奮気味に話をしてくるが、なんの根拠もない話だ。まぁ、気分転換にはいいかもしれない。

「じゃ、夜中の0時に駅前の噴水でいい?」

「わかった! ユタカありがとね!」

 ミユキは、嬉しそうに叫ぶと、電話をブチっと切りやがった。

 俺は、ため息をついた。

「こういうところなんだよなぁ、ミユキの抜けてるところは……しばらく待ってから電話切れよ!」

 まぁ、俺も、姉が嫁ぐ神社とやらを偵察できる口実ができたわけで、マフラーとコートを手に取ると、玄関を飛び出した。


~~


「ユタカ! 混んでるね」

「ああ、こんなに大きな神社だとは思わなかったよ」

 ミユキは、寒そうに身体を震わせている。

「なんだよ、もっとちゃんとコート着てくればよかったのに」

「だって、即、お参りできると思ったんだもん」

「ほれ……」

 俺は、十分温まった使い捨てカイロをミユキに渡した。

「あ、サンキュー。ユタカって、優しいよね」

「まぁな」

「そんなところが、ダ・イ・ス・キ!」

 ミユキは、俺の腕に抱きついてくる。

「や、やめろよ」

 俺は、慌てて離れた。

 俺とミユキは、小学校のころからの付き合いだ。高校生になれば少しばかり女の子っぽくなるかと思いきや、小学校のときと変わらないノリなので、こっちが赤面してしまう。

 おかげで学校でも「俺とミユキは仲が良くてうらやましい」とか「ふたりは付き合ってんの?」とか勘違いされるが、俺的には、恋愛対象にはらない。幼い頃のイメージが強すぎて異性という感じがわかないのだ。

 嬉しい顔して俺の顔を覗き込むミユキに、俺は、また、ため息をついた。

「しかし、お前は、相変わらず子供だな……」

「そう?」

「もう少し、大人の女性って感じにはならないわけ?」

「むふふ、まだまだ子供でいいのだ!」

 ニコニコ笑いながら、俺のことをからかってくる。

「そうだ。去年みたいなことは、ヤメろよな」

「去年?」

「そうだよ、去年の初詣のときのこと覚えてるか?」

「うーん、なんかあったっけ?」

「あのとき、賽銭箱まで遠いからって、賽銭投げただろ」

 俺がミユキを睨みつけると、ミユキはプッと吹きだした。

「ああ、あの前の方のおじさんすっごい怒ってたね。タコみたいに赤くなってさ……あははは」

「あははじゃねーだろ! 人様に怪我でもしたら、天罰くらうぞ!」

「へーい……」

 ミユキは、口を尖らせて、ナマ返事。なんとも困ったものだ。俺がミユキをジッと見つめてため息をつくと、使い捨てカイロを両手でつかんだまま震えている。

「ちっ、しょうがねぇなぁ」

 俺は自分のマフラーをほどくと、ミユキの首に巻きつけてやった。

「おぉ! 温かい! ユタカの温もりだ!」

「こんなところで、風邪をひいたら元も子もなくなるからな。ちゃんと巻いとけ」

「へーい……」


 行列に並ぶ事三十分。やっとの事で賽銭箱近くまでやってきた。ミユキは、興味深そうに首を伸ばしては先頭で参拝をしている人をジッと観察している。

「ユタカ! お参りって、あんなことするの?」

「なんだ、おまえ、神社にお参りしたことないの?」

「だって、いつもお賽銭投げて、ポンポンしてるだけだし……」

「まず一礼して、鈴を鳴らして神様を呼び出す。で、賽銭を入れて、二拝二拍手一拝だ」

「ヘコ・ジャラジャラ、チャリーン。ヘコ・ヘコ・ポン・ポン・お願い事・ヘコ……でいいのね」

「なんだよ、ヘコって、まぁいいや。そろそろ順番だぞ、賽銭を用意しとけよ」

 俺が、サイフを取り出すと、ミユキが俺のコートの袖を引っ張り、悲しそうに眉毛をさげて俺の顔を覗き込んできた。

「ユタカ……」

「どうした?」

「あのぉ……財布、忘れてきたかもです」

 ミユキが泣きそうな顔して俺をみつめる。俺は、思わずミユキの脳天にチョップをいれた。

「イタっ!」

「おまえなぁ、何しにきたんだ。お参りしにきたんだろ! まぁ、お賽銭はなくてもいいけど、自分のケガレを賽銭に託して祓って貰うってことらしいぞ。だから、人様のお金だと効果は薄れるんだよ」

「あう……」

 ミユキは、いよいよ泣きそうな顔になる。

「ったく、ホレ……」

 俺は、財布から小銭を出すとミユキに渡した。

「サンキュー! そうだ! ユタカはケガレだらけだから、このお賽銭で、私も祈ってしんぜよう!」

「おまえなぁ……」

「私って優しいでしょ。ね、褒めてる?」

「褒めてないっ!」

 俺は、またため息をつく。この性格は何とかならないものだろうか。


 ミユキは、高校生になってもさほど背が伸びず、長い黒髪を突然バッサリ切り落としてショートカットにしたことがある。いきなりのイメチェンで最初は驚いたが、クラスの連中からは「カワイイ!」と好評で、それ以来ずっとショートカットにしている。

 とはいえ、見てくれが変わってもこの性格は変わらない。ズボラというかだらしないというか、もう少しなんとか落ち着いてくれればいいのだけれど、付き合った男子は、この性格についていけず、結局愛想をつかせてしまうのだ。


「ユタカ! ほい、次だよ!」

 ミユキが俺の腕を引っ張る。

「わかったってば……あっ」

 俺がミユキに引っ張られ賽銭箱のところへやってきた時だった、賽銭箱の向こう側を1人の巫女さんが通り過ぎて行くのが見えた。

 その姿は、厳かで慎ましやかで美しい。

「うぉ……」

 俺は、思わず叫び声をあげ深々と一礼した。すると、その巫女さんも俺に気付いたのか、こちらに微笑み一礼をしてくれた。

 その瞬間、全身にビビビっとまるで電流が走ったかのような感覚に包まれた。

(な、なんだ! この感覚!)

 呆然とその巫女さんの後姿を見つめた。


「ちょっと、ユタカ早く!」

「ああ? なんだっけ?」

「お参りしなくちゃ!」

「あ、そうだった。ゴメンゴメン」

 俺は、合格祈願をするのも忘れ、あの巫女さんにまた会いたいと思わず願ってしまった。


~~


 参拝が済むと、ミユキは、おみくじだ、団子がうまそうだ……と俺の財布を頼りにはしゃいでいた。おかげで、俺の財布は、すっかり空っぽだ。

 でも、そんなことはどうでもよかった、俺の頭の中は、先ほどのあの巫女さんのことでいっぱいだったのだ。


 ドンドン……


 突然、境内中央の方から太鼓の音と笛の音色が聞こえてきた。ミユキはすぐさま反応し、俺の腕をひっぱっぱり音のする方へ連れて行かれた。ちょうど、巫女舞の奉納が始まるところだったのだ。

 笛と太鼓に合わせて、千早をヒラヒラさせた巫女さんが数名舞台にあがってくる。手には神楽鈴と檜扇を掲げ、厳かに舞いがはじまる。

 俺は、先ほどの巫女さんは、いないだろうかとあちらこちらに視線を投げかけた。

「いた!」

「へ? 誰が?」

「ああ、いや、なんでもない」

 ミユキは俺の顔を不思議そうに覗き込んでいたが、そんなのは無視して、俺は、あの巫女さんの舞姿にウットリ見入ってしまった。


「しかし、綺麗な舞姿だったなぁ」

「うん、いいよね! わたしも感激しちゃった」

 ミユキは、今見たばかりの巫女舞いの真似をしているが、どう見ても幼稚園児のお遊戯にしか見えない。

 巫女舞の奉納が終わると、境内もだいぶ空いてきた。時計を見るともう深夜の二時をまわっている。

「そろそろ、俺たちも帰るかな」

「え? もう 帰るの?」

「もう、たらふく食べただろう! こっちは、もうすっからかんだよ!」

「えへへ」

「えへへじゃねーよ。さぁ、おしまい! 帰るぞ!」

 俺は、ミユキの手を握り締めると参道に向かった。


 参道には、深夜だというのに色とりどりの提灯がぶら下がり、初詣客でにぎわっている。たくさんの笑い声が聞こえ活気を感じる。

「ユタカ、ありがとね!」

 ミユキは、うつむきながらそっと俺の手を握り返してきた。

「うん?」

「来てみてよかったよ」

「そうか! おまえも元気になったみたいだし、よかったよ」

 突然、人の波が押し寄せてきた。俺はミユキとはぐれないようにミユキの手を離すと肩を組んだ。

「ユタカ、私、おみくじも大吉でたし、今年は、神様が見守ってくれてると思う!」

「そ、そうか。それはよかった」

 もみくしゃにされながら参道を進むと、いきなりミユキが俺のほうを振り向いた。

「痛たたた……」

「だいじょうぶか? ここを抜ければ、すこしは楽になる。ガンバレ!」

 俺は肩を抱きしめたミユキの横顔を見つめた。考えてみれば、こうしていっしょに歩くのも久しぶりだ。ここのところ予備校での模試やらなにやらで、二人並んでで歩く事もなかったし、肩を組んで歩くのも小学生以来じゃないだろうか。

ミユキの肩は、思った以上に小さく華奢だった。そして、ミユキのショートカットの髪の毛が揺れ、色とりどりの明りがミユキを照らしている。

(うん? いい香り……)

 こんなに間近でミユキを見たのは久しぶり。

 俺は、ジッとミユキの横顔を見つめた。そして、ときより見せるミユキの表情に、今まで経験もしたことのない感覚につつまれた。

「ミユキ! 今日は、おまえ、かわいいぞ」

「はい?」

 ミユキは、俺をみつめると、ニヤリと笑った。

「今日は? 今日もでしょ!」

 そう言うと、ミユキはマフラーを半分解き、俺の首に巻きつけた。

「はい。これで、私たちは結ばれました!」

「え!」

「へへへ、ユタカくん、ドキドキしちゃったりした?」

「し、してねーよ……」

「ちぇっ、つまんない! でも、なんか顔赤いよ」

「寒いんだよ」

「ほんとぉ?」

「マフラー返せ!」

「えー! そんな事だから、彼女できないんじゃないの」

「お、お前に、言われたくない!」

「あははは……」


 俺たちは、始終ふざけながら、ミユキの家まで送り届けた。ミユキは玄関先で、マフラーをはずすと俺の首に巻きつけた。

「ユタカ! ほんと感謝! ありがとね」

「おぉ じゃぁな」

 俺が帰ろうとした瞬間、マフラーで俺の首ねっこが引っ張られ、俺の唇に柔らかいものが触れた。

「うぉ! な、なんだよ」

「ごほうび!」

「バ、バカ!」

 ミユキはニコニコ微笑むと手を振った。

「ちゃんと、寄り道しないで帰るんだよ」

「こ、子供じゃねぇよ。んじゃな」

 俺は、ミユキと分かれると、寒空の中、自宅へ急いだ。

 しかし、ミユキのやつ、なんだっていきなりチューするんだよ。っていうか、俺のファーストキスって奪われた? いや、そういうことじゃなくて……俺は、一人ぶつぶつつぶやきながら歩いた。


 自宅に着いたのは、午前三時。

 ゴロリとベットに横になる。目を閉じるとあの巫女さんの微笑みと華麗な舞姿、そしてミユキとのキスシーンが繰り返し再現している。

「なんだったんだろう。あのビビビっときた衝撃。それにミユキのやつ、気でもふれたのか?」

 俺は、ひとり暗闇でつぶやいた。

 やがて、二つのイメージがミックスされてゆき、巫女さんと俺がキスするシーンに脳内変換されていくのだった。


(つづく)


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