ナンダル国 下
お酒を飲む描写がありますが、あくまでも小説の中でのお話です。
そう言って次に空間から出したのは、私特製のラガー。べつにエールが不味いってわけじゃないけど、エールには爽快感がないのよね。
おまけに泡が少ないから、仕事終わったー! よし飲むぞー! ビールだ! 乾杯だ! って飲んだ後の口につく泡。あれができない。頑張った自分へのご褒美にのむお酒は、喉越しも見た目もよくなくちゃ。
私にしてみれば、なんだか物足りないのよ、エールは。地球のエールは美味しいんだけどなあ。あ、こちらの世界では十六才から大人の仲間入りなのよ。お酒は大人になってから、ね。とかいいつつ、日本でもこっそり飲んでたけど。
「どれ」
「お待ち下さい。わたしが先に」
別に毒なんて入れてないわよ。
カルダンクがそう言って、一口飲む。どうかしら、初めての発泡酒は。私が反応を見ていると、カルダンクは気に入ったのか、一気に飲み干した。あらま、でもそれもいいわよね。宴会なんかでは。
「これは……美味い」
「なに? ではわたしも。……なんと。このようなエールがあるとは」
「エールじゃなくて、ラガーね」
ベルギーにはエールのでも発泡酒があるらしいけど、日本ではラガーが主流だから私はこっちを作ってる。喉越し爽やかで泡があってみためも綺麗。この世界にはないビールだからね。これを独占して売れば織物とビールの特産品が二つできることになる。
これは政治のカードとしても役立つはずだ。ゲルコックの目が真剣になった。
「ラガーというのかこの酒は」
「どう? いいでしょ。織物とこのラガー。この二つの製造権をあげるわよ。そうしたら民は職につけるし、国も民もお金が手に入る。食物を輸入すれば、手に入ったお金で食べられる。そして民の心は豊かになる。どうかしら、血を流さず、他国へ攻め込まずにいられる方法としては、なかなかいいんじゃないかしら」
「むぅ……」
「なるほど。だがなぜここまで我らに? こう言ってはなんだが、我らの国は他国から非難される立場だ。そのような国を……」
「だからよ。だからこうして豊かにさせるために私が来たんじゃない。私は平和な世の中を望んでいるのよ。争いはできる限りみたくないの。わかる? 私は、私のわがままでここにいるの。ただ、私が嫌だってだけでね。争いを見なくて済むならば、なんでもやるのよ、私」
そう。争いなんか見たくない。私の世界でも戦争があったけど、私の周りは、日本だしで比較的平和だった。できればそんな世界に近づけたい。かなりの無理かもしれないけど、理想はもっていたほうがいいでしょ。
私は心穏やかに暮らしていたいの。だから、さっきも言ったけど、争いを見なくて済むならば、なんでもやるのよ。
「王女様に掛け合ってみてくれないかしら。上の第一王子や第二王子は幽閉しちゃえばいいのよ。そしてこの国は女王国家としていくか、または、末の弟が継げばいいんだわ。時間はかかるけど、確実にこの国は変わるわよ」
危険な思想の王子には、退場してもらわないとね。
私の話に黙っている二人。駄目かな。これだけじゃまだ足りない?
「……いいだろう。明後日、商隊を率いて私は登城する。その時に、この二品を王女殿下に見ていただこう。話はそれからだ」
「いいわよ。じゃあ、カルダンクは私が借りるわね。その間に、織物とラガーの作り方を教えるから」
「わかった。頼む。お穣ちゃん」
「あら、私には名前があるのよ。リウっていうね。カルダンクさん」
「リウ。よろしく頼む」
それから一ヵ月。
いきなりの方向転換にレジスタンスの面々で多少の騒ぎがあったけれど、ゲルコック伯爵の鶴の一声で収まった。カルダンクもよくレジスタンスの面々を諭してたみたいだし。あの二人はかなり有能だったみたいね。
レジスタンスにまずは織物を教え、ラガーを教え、一ヵ月で一応は形になった。まだ粗いけど、どちらも日々よくなってきている。
これが完成したら、今度は作り方を覚えたレジスタンスの面々が方々に散らばって、国民の中から人を集って教えて。
そうしてやっていけば、国中でそれぞれの織物とラガーが出来上がる。
おそらく地域によってアレンジを加えるだろうから、地域ごとで競い合ったりしてさ。そのほうが活気があっていいかもね。
二つとも、一年もすれば安定するんじゃないかな。
「リウ殿。本当に有難う。この国を救ってくれた英雄だ」
「やめてよ。私はただ、私のわがままでこうしてるだけなんだから」
「またいつでも遊びにきてくれ」
「もちろんそのつもりよ。ラガーの飲み比べだってしたいし、服だってたくさん買いたいもの」
ゲルコック伯爵とカルダンク男爵が頭を下げる。やめてよ。そんなことしてもらいたくなんてないわ。
私としては、美味しいラガーが飲めるようになるし、お洒落だってもっとできるようになるしで、それだけで万々歳よ。もう戦争もないだろうしね。
今は王女様が女王となって国を支えているみたい。末の第四王子が大きくなれば譲るんだって。王女様に会いたいって言われたけど、私はそれを断った。別に王族に取り入るためにしたんじゃないもの。
第一王子と第二王子はそれぞれ別々の辺境で幽閉といってもいい生活を送ってるそうだ。きっと、この国が豊かになるのを目の当たりにしたら、危ないことは考えるのやめると思う。というか、思いたい。
飲み込まれた小国も元に戻り、今は少しでも関係を良好にするためにナンダル国は四苦八苦。簡単にはいかないけど、頑張ってほしいわね。
こうして美味しいお酒と綺麗な織物をお土産にして、私は長らく空けていた家へと帰った。
「ただいま~」
「おかえり、リウ。どうだった」
「なかなか良い結果になったと思うわよ。たぶん、ナンダル国はもう大丈夫ね。はい、これお土産」
ルーに出迎えられた私は、そう言いながらお土産を手渡した。ルーの服とラガーだ。
袋の中を見たルーは、服が気に入ったみたいでさっそく着替えてきてくれた。いいじゃない。とても似合ってる。
ラガーのほうは。舌がびっくりしたみたいで、ちょっと面白かった。
「これ、カチュアからだ」
「なになに? って、カチューシャじゃん! わ、可愛い。私お礼行ってくる!」
「待て待て。カチュアは今日はレックスと出かけるそうだぞ。朝言いにきた」
「え、そうなの? わお。やるじゃんカチュア」
白いカチューシャで、レースと花飾りが使われている一品だった。
カチュアなりのジョークで作ったらしいけど、でもすっごい可愛い。私と同じジョークを思いつくとは、さすが私の友達ね。以心伝心だわ。
来週ポラリスの待ちに行くときはぜひとも着けていかないとね。
今日の天気は晴天。私の気分も晴れやかだ。
作者はビールに詳しくありませんので、おかしいところがあってもスルーしていただけると助かります。




