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ナンダル国 上

「ナンダル国がキナ臭いらしいわよ」

「戦争か?」

「ううん。内輪もめ。王位継承権よ。第一王子と第二王子の派閥に別れてて、どっちがいいかってやつ」


 私の住んでいるポラリスの街近くの森の北向こうには、断崖絶壁の岩山が連なっていて、それを越えた先にあるのがナンダル国。あ、ちなみに私が住んでる国はオーガイル国ね。

 で、そのナンダル国には三人の王子と一人の王女がいるんだけど、現王アルハ二世がそろそろ病気でやばいらしくて、王位継承権で今揉めてるんだってさ。これは冒険者ギルドでそっち方面でやってた冒険者がいてね、そこで聞いた話なんだけど。

 ナンダル国は昔から戦争屋っていうか、お国柄気性の荒い人たちがたくさんいるのよ。現王アルハ二世も若かりし頃は戦争に明け暮れていたらしいし。なんでも帝国化しようとしてるんじゃないかって。小国はすでにいくつか飲み込まれてるし。うちの国も断崖絶壁の岩山に助けられてるけど、いつかそのうちにって国民は皆思ってるわ。

 そんな国で起きた王位継承権問題。なんだかそれだけでやばそうよね。血で血を洗う骨肉の争いの勃発よ。


「介入するのか」

「うーん。どうしよっか。正直どっちでもいいんだけどさ。でももしうちの国まで脅かされるようなことになると、ちょっとねえ」


 ルーにそう答えると、私はまた悩む。どうしようかしら。首突っ込んだほうがいいかな。それに民にはなんの罪もないのよね。これがもしオーガイル国だったらって思うと……。よし、首突っ込もう。


「やるわ。でも私だってばれたくないから、変装してね」

「わかった。なら荷造りしてすぐに発つか」

「あ、それなんだけど、私一人で行くわね。ルーは私がいない間は代わりに薬の卸に行ってちょうだい」

「だが俺はお前のパートナーだぞ。こういう時に一緒にいかないでどうするんだ」

「だめだめ。私がいない間でもそういうのはちゃんとしとかないと、信用問題になるんだから。それと、カチュアの相談にも乗ってあげてね。男目線からの話は参考になると思うから」

「はあ。わかった。だがくれぐれも無茶はするなよ」

「わかってるって。だいたいさ、私に傷をつけられる存在なんていないから」

「そういうことじゃないんだがな」


 こうして私はナンガル国に旅立つことにした。普通ならいくつかの国を通って、断崖絶壁の岩山を大きく迂回して行くんだけど、事が事だけに今回は突っ切っていくことにする。

 私にかかればちょろいもんよ。

 空を飛んで行くと眼下に岩山がある。頂はギザギザに尖っているし、それが何層にも横にあるもんだから、まるで鮫の歯みたいになっている。

 ここから落ちたら、さぞグロいことになるでしょうね。


「見えてきた。さてと、ここからどうしようかな。うーん、たまには歩いて向かうのもいいかもしれないな。そのほうが情報入るかもしれないし」


 私はそう思うとさっそく降り立つ。

 一番南の街っていっても、やっぱり北国。寒い。この国って大陸の一番北に位置する国だから、作物もたいして育たないし、特産物もないからいろいろと困ったことになってるのよね。だから他国を飲み込んで、少しでも豊かになろうとしてるみたい。

 でも、他国を潰して自分の国を豊かにする方法なんて、とるもんじゃないよ。アフターケアもしてないらしいから怨恨は根強く残るし、武力でもって押さえつけると反国心も芽生える。王族はなにを考えてるのかしらね。

 街の中を歩きながら北へ向かっていると、あ、あそこに酒場があるじゃない。情報収集よ。さっそく行ってみよう。

 酒場の店主にミルクを頼んだ私はごくりと一口。う、まずい。なにこれ、水で薄めてるじゃないの。これはないわー。ああ、でもこうしないと駄目なところまできてるのね。なんだかなあ。


「また徴兵だってよ」

「俺たち民をなんだと思ってるんだ。俺たちはただ貧しい思いをしたくないだけなんだ」

「次はハルバリー国らしいぞ」

「あそこの国は魚が取れるからいいなあ」

「だがそのためには俺たちも戦わないといけないんだぞ」

「だからってこのままの暮らしにはもう耐えられない。俺は戦うぞ」

「俺はいやだ。他国の俺たちみたいな民はどうなるんだ」

「そんなの知ったことか。俺たちがよければそれでいいんだ」

「俺はもうなんでもいい。このまま生きていたって辛いだけだ。でもどうせなら、妻や娘たちが少しでも食い物を食えるようにしたい」

「ならお前もこいよ。兵になれば優先的に食い物貰えるらしいぞ」


 聞き耳をたててると。うーん。なんというかまあ。ここまできちゃうと、意識を変えるのに苦労するだろうなあ。どんな感じがベストなのか。

 たとえば、穀物。ナンダルは麦が主食らしい。けどエールはまずい。キルトの織物があるけど、あまり複雑な柄は作れない。他国を飲み込むほどの軍事力があるけど、それは背水の陣の如くもう後には引けない食物事情があるから必死なだけ。他国の民のことなんて考える余裕がないのだ。


「うーん」


 ということは。

 まずは心に余裕を持たせることからしたほうがいいかな。といってもこれはかなり長期的にだから、どこかの話のわかる貴族に接触しないと難しいか。

 いきなり王族に接触なんてしたら速攻牢獄行き、またはその場で斬首だろうし。まあ、首切られても死なないけどね、私。


「どうしたんだい、お穣ちゃん、難しい顔をして」


 隣で飲んでいた、どこか気品のあるおじさんに声をかけられる。

 うーん、なんだかロマンスの予感? なわけないない。このおじさん、どこかの貴族かしら。なんだかお古を着てるけど、しっかり洗ってるみたいで清潔感はあるし、背筋もピンとしてて育ちがよさそう。まさかほんとにお忍びで街に下りてる貴族だったりして。


「いえ、私、少しお腹が空いていて……」

「ああ、なるほど。おやじ、この娘になにかつまめるものを」

「いいんですかい。カルダンクの旦那。こんな見ず知らずの娘に」

「いいんだよ。可哀想じゃないか、こんな小さな子供がひもじい思いをするなんてね」


 ふーん。可哀想、ねえ。


「ではお穣ちゃん、わたしはもういくよ。おやじが出したもの、きちんと食べるんだよ」

「ありがとう」


 カルダンクって呼ばれてたおじさんが、そう言って酒場を出て行った。これは後を追うべきかな。

 私は酒場の店主が持ってきた炒め物を、後ろでくだをまいている男たちにって言って酒場を飛び出した。

 どこに行ったかな。……あ、いた。馬車に乗り込んだわ。仕方が無い。目立つのは嫌だし、透過させるか。私は路地裏に行って体を透過させると、発車する馬車の後ろに張り付いた。このまま連れてってもらおう。

 馬車はぽくぽく進んで林の中を通ったり、麦畑の間の道を進んだりした。

 そうして着いた場所は男爵や子爵が住むくらいのお邸があった。カンダルクはここの当主なのか、大きな玄関に立つと執事らしいおじいさんが出迎えてて扉を開けたら中へと堂々と入っていく。

 私も滑り込むようにしてお邸の中へと入る。


「旦那様、いかがでしたか」

「この前より悪い。これは時期を早めたほうがいいかもしれん。私は今から手紙を書く。至急ゲルコック伯爵へ届けてくれ」

「かしこまりました」


 カルダンクはそう言うと、インクに羽ペンをつけて羊皮紙になにやら書き込んでいる。なにを書いているのかしら。

 私はその羊皮紙を覗き込むと、それはゲルコック伯爵へと宛てた……、これはレジスタンスじゃないか。


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