転生者だって!
「ねえ、アラリス。この気配って」
「うん。そうだね。僕もそう思うよ」
「アラリスのご両親が関わってるのかしら?」
「そんな話は聞いてないけどなあ」
なんのことかって?
転生者よ。
たった今、この世界の魂でない人間が生まれたのを察知したわけ。
なんで別の世界からうちの世界に転生してきたのかわからないけど、どうやらアラリスのご両親も関わってはいないそうだし、まさか、他の神様の仕業なのかしら?
ただ、魂が地球のなのが気にかかるわね。
「ねえ、じゃあ他の神様とかかな。交流とかあったりするの?」
「他の? そうだなあ。たしかに他の神様の仕業ってことも考えられるけど、だけど、父さんの世界、つまり地球の日本人の魂だからなあこれ。……まさか」
「まさか? ……あ、まさか、お忍びで別世界から来てた神様が誤って殺しちゃって、うちの世界にぽいって感じ?」
「……かも。ちょっと。僕心当たりあるから出かけてくる。リウは転生者の方を頼むよ」
「わかったわ。それに、すでに特典とかついてるみたいなのが気になるわね。厄介ごとが増えるのは嫌だわ」
アラリスが急いで出かけていく。私はとりあえず、転生者からの話を聞いてみないといけないわね。
私はさっそくその魂の元へと転移した。
『こんにちは。あなた転生者よね。日本人の。どういった理由でこの世界に来たのかしら?』
『なんだなんだ、日本人? 俺、異世界に生まれたんじゃなかったのか? あれ? これ、念話か?』
『そう、念話よ。たしかに私は日本人。それとここはあなたの言う異世界で合ってるわ。どういう理由で来たのか教えてもらってもいいかしら』
『幼女神様が俺のこと間違えて殺したから、チートで異世界に転生させてくれるって言われたんだ。それで気がついたら赤ん坊になってたわけだが』
『幼女の神様……。もしかしてこれはアラリスの言う心当たりのかな』
『で、なんで君は俺のところへ? いきなり現れたみたいだけど』
『ああ、私はこの世界の神様だから』
『へっ? 神様? あの幼女じゃないのか』
『あなた、他の世界の神様が私に無断でここの世界に転生させられたのよ』
『無断だって?』
赤ちゃんの男の子は脳内で疑問符一杯になった。
それにしても幼女の神様とかいるなんて。やっぱり神様にも色んな見た目のがいるのね。
だけど、これはちょっといただけないかも。なにがって? 彼についてるオプションの数々よ。こんな人がこの世界で好き放題しだしたら世界が破滅しちゃうわ。
言語、身体能力、魔力、武器の扱い、どれもがチート級。この人はこの世界で何をしようと思ってるのかしら。ちょっと深層意識を探ってみようかしらね。
“にしてもなんなんだこの女の子。いきなり現れて色々聞き出してきたけど、この世界の神様だって? そんな話聞いてないぞ俺。この世界でハーレム作って俺TUEEEEできるって言ってたのによ、あの幼女。くそ、なんなんだ”
……これは。危険かな。
『ねえ、あなた。この世界にどうして来たの?』
『剣と魔法の世界を希望したらここだったってだけだよ』
“もしかしてあの幼女の世界じゃないのかよここ”
『へえ。私の了承のもなしに、勝手に転生させてくるなんて、その幼女の神様、ずいぶんとやってくれるわね。しかもたくさんオプションを付けて、ね』
『無断でってことなのか?』
“なんだよ、話が違うじゃんか。しかも俺のチートに気づいてやがる。ていうかなんで日本人の女の子がこの世界で神様やってるんだ? それに俺、幼女の神様だなんて一言も話してないぞ。もしかして心もよめるのか?”
うーん。アラリスなにやってるのかしら。その幼女の神様のところに行ってそうだけど。存在値辿っていけば行けるけど、二人とも出かけるわけにもいかないしなあ。
困ったわね。
少しだけその場で待つ。すると。
あ。……アラリスだわ。とりあえず、帰ってきたみたいだから、進展あるまでは様子見してましょうか。どうやら別の世界の神様も連れてきたみたいだしね。気配を感じるもの。
『とりあえず、また来るわね。今は眠りなさい』
『え、いやまだ俺聞きたいことが……すぅ』
“くそ、なんなんだ。眠く、なって、き、た……”
とりあえずは眠らせておこう。
じゃ、一旦帰るかな。
そうして私は無人島に帰ってきたんだけど。これ、どういう状況かしら?
「びえええぇぇん。ごめんなざいいぃ」
「泣いたって駄目だよ。勝手なことをした君が悪いんだから」
「アラリス、これは?」
「あ、おかえり、リウ。向こうで話してても埒が明かないから連れてきた」
「あの転生者が言ってた幼女の神様ってあなたね?」
目の前で号泣してる女の子がびくっと震える。
「あ、あたち。ま、間違えて殺しちゃって。こ、この世界がいいっていうから、だから、びええぇぇん! ごめんなざいいぃ」
「泣いてたって何も変わらないんだよ」
「こらこらアラリス。おさえて。ね、それでこれからのことなんだけど。もちろんあなたの世界に連れ帰ってくれるわよね?」
「で、でもお。あたちの世界……まだ石器時代なんでしゅ。ひっく、ひっく……」
「あんな能力たくさん付けておいて、こっちに丸投げなんて、神様がするわけないわよね?」
「会議でもこの件は取り上げてもらうからそのつもりでいてよね」
「会議?」
「神様会議だよ。それぞれの世界の問題や、世界経営にかんしてを議題にして話し合うんだ」
「へえ、そんなのあるんだ」
「機会があれば連れて行くから」
「わかったわ」
神様の間でもそんなのあるんだ。会議かあ、でもこの女の子、会議って言葉だしたらあからさまにびくっとしたわね。
「会議だけは! お仕置きされちゃうでしゅっ。ひっく、ひっく。わ、わかりましたからあ、あたちの世界に連れて帰りますからあ……」
「駄目だよ。会議で話さないとならないことをしたんだから。とにかく、あの転生者は今すぐに君の世界に連れ帰ること。責任持って自分で面倒みなよ。勝手にこの世界に転生させるなんて、法律違反だ」
ほ、法律まであるのね……。ちょっとあとでアラリスに神様の仕組み、聞いておいたほういがいいかも。
「ごめんなざいい。もうしませんからあ。許してくだざいいぃ。びえええん」
「それは会議の時に改めて誓ってもらうよ。さあ、いつまでも泣き真似してないで転生者を連れてって」
「な、泣き真似?」
「……ちっ、あたちの涙、流し損じゃないしゅか。仕方ないでしゅ。連れて帰りましゅよ! ……心が狭い神様でしゅね」
「会議が待ち遠しいなあ」
「う。も、もう帰るでしゅ!」
「ちゃんと連れ帰ってよね」
「わかってましゅ!」
女の子はそう言って、たしかに転生者を連れ帰ったみたい。
にしても。
「なんだか台風みたいだったわね。あの女の子」
「あいつ、僕よりも年上のくせに、いつまでもあんな姿でいるんだよ」
「えっ、そうなんだ……。神様にも色々いるのね」
それから。
次に開催された神様会議に、私も連れて行かれて、他の神様達に挨拶回りをしてきたわ。個性的な方々ばかりでちょっと疲れたけど。
そういえば、あの幼女の格好をした神様だけど、反省室で改心するまで閉じ込められることになったそうよ。その間の世界は他の近くの神様が面倒みることになってた。
あと、転生者のことだけど。
目が覚めたら石器時代だったから、相当荒れたみたいね。まあ、うちにこられて同じことされたら嫌だし、あまり首を突っ込まない程度にしか聞いてないけど。代理で面倒を見てる神様がぼやいてた。
困ったものよね。あの神様にも、転生者も。




