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のんびりカルバニア

 カルバニアはオーガイルよりも暑いってルーに聞いてたけど、ほんとね。日本で言う、初夏くらいの暑さかな。

 薄い半袖のシャツに長旅にいい厚手のパンツに、首元には涼しげな水色のストール。身軽な格好な私は魔法使い専用の指輪をしている。

 薄手の長袖のシャツに黒地のパンツ。腰に帯剣している身軽な格好のルーは剣士。

 私たちは今、エゾットからダーランドを経て、ようやくカルバニアの地にたどり着いた。

 カルバニアの大地は一面に芝生が生えていて、緑の地平線が見れることで有名なんだそうよ。


「すごいわね、あたり一面全部芝生。ダーランドからの街道を歩いてきたけど、次第に色とりどりの花から緑に変化して。ダーランドと違うのはレンガでなくて、白石なとことね。白街道、って何度もここに来るまでに聞いたけど、実際に見るとほんと綺麗」

「一面芝生を見ればわかると思うが、この国では、理由がある場合を除いて、地面が土というのはなしなんだとか。必ず芝生にしないと、役人の検査でひっかかるそうだぞ」

「わお。そこまで徹底しているには、なにか理由があるのかしらね」

「なんでも、昔の王妃が、土だとドレスの裾が汚れるから芝生にしろと民に命じたそうだ」

「へえ。じゃあそれからなんだ」

「三〇〇年は続いてるそうだぞ」


 わお。

 そんな昔から今も続いてるなんて。だけど、芝生に白石畳で続く街道もすごく綺麗で、いいわね。理由はちょっとあれだけど。

 ちなみに、一〇〇年前ほどまでは、街道から外れて芝生に入ることを禁じていたらしいけど、民からの反発があってからは、汚さないようにすれば入ってもいいことになったそうよ。

 白石畳を歩いていれば、そうそう靴が汚れてるなんてことはないから、芝生の上で旅人が寛いでる姿も時々いたりする。私とルーももう少ししたら芝生の上で休むつもりよ。


「日陰だと風が涼しいわね」

「ああ」


 私の膝枕で横になっているルーは、気持ちよさそうに目閉じてうたた寝をしている。

 なんで魔物がいるのにここまで寛いでいられるかというと、結界石を使わなくても、街道沿いに、国が置いた大きい結界石が定間隔で並べられているからなのよ。

 だから絶対出ないとは言えないけれど、旅もわりと安心してできるのね。

 オーガストはそういうのしてなかったから、道中も魔物を警戒して旅することが多いみたい。豊かな国と、それほどでもない国。民を優先にする国と、王侯貴族を優先する国。まあ、いろいろね。


「なんだかまるで庭でのんびりしてるみたいね」

「たまにはこういう二人っきりで、こうしているのもいいな」

「そうね。なんていうか、まったりできてほっとするわね」


 たまに道行く旅人がいると、こんにちは、とか挨拶を交わす。時には立ち話をしたりして、どこどこが良かったとか、あそこはおすすめだとか、聞いたりして皆旅を満喫してるのよ。

 行商でダーランドに来た時とは違う楽しみがあっていいわ。

 今度は五人全員でこういった旅をするのもいいかもしれないわね。

 そんな感じでゆったり歩いていくと、目の前に街が見えてくるのに気がついた。看板が近くにあったので見てみると、そこには街道宿場の町ワン、と書かれていた。


「今日はあそこで宿をとろうか」


 中央通りに面している小中大のうち、中級宿を選んで一泊した私たちは、翌朝辻馬車がちょどあったので、乗車することにした。

 歩きの旅もいいけれど、馬車に揺られる旅もなかなかね。道は整備されてるからそんなに揺れてないし。

 そうして数日を辻馬車の中で過ごして、王都カルバニアに着いた私たちは、不動産を覗いてみることにした。


「もし住むことになったとしたら、やっぱり五LDK以上はほしいわよね。ついでに庭付き地下倉庫付きだと嬉しいんだけど」

「今の家と同じように使えればいいな」

「そうよね。でも街中で探すのはやっぱり厳しいかな。どとすれば、またどこかの森の中に、あの土地ごと転移させちゃえばいいんだけど」


 あ、それよりも、一DKとかを借りておいて、転移陣を敷いておいて、ポラリスの森の中の家に跳ぶのもありかもしれないわね。

 ただ、いつまでもあの国のあの場所にずっと居続けるのも、街の人に怪しまれるだろうけど。実際、森の名前が、魔女の森って噂されてるしさ。

 その辺は、皆と相談するのもいいかもね。まあ、私の意見でいいって言いそうだけど。

 もしくは、どこかの気候のいい無人島を結界張って、そこに家を転移させておくのもいいかもしれない。いや、むしろそれが一番いいかも。

 店をやるにしても、何十年もできないし。できて数年よね。外見の問題があるし。自由に変えれるには変えれるけど、やっぱり今の姿のままのほうがしっくりするもの。

 同じ理由で、騎士の宿舎と国王陛下用の納品だって、あと数年くらいしかできないもの。馬鹿正直に引越します、とか言ったら絶対引き止められるし、下手したら拉致監禁とかされそうよね。

 あとは政治の中枢に組み込まれたりして。

 そういう系には関わりたくないし、ひっそりと生きていきたいわよね。できる限りなにかしつつさ。

 うーん。けっこう自由度が低いわよね。もっとこう、いろいろとバーンとかジャーンとかできると思ってたけど、そうそううまくはいかないみたい。

 力があれば、使いたいけど、利用してきたい人だって必ずでるし、それを押さえる為になにかをしないといけなくなったり、なにかを犠牲にしたり。

 なにをするにしても、なにかは捨てないといけないのね。


「とりあえず、家関係は皆と相談だね」

「そうだな。そろそろ辻馬車の時間だ。行くぞ」


 辻馬車に乗って、今度はサトへと向かう。この街も街道上にある宿場街で、賑わっているみたいよ。

そこから更に西に行くと、港があって、定期便が出てるんだけど、それに乗ると西大陸に行けるの。

 西大陸は、縦長なんだけど、国が二つしかなくって、国も縦長に半分になってるのよ。この世界にある大陸の中で一番大きな大陸なの。


「次は船旅かあ」

「ここから先が俺たちには未知の土地だな」

「縦長なのよね。とりあえずはライの国から回りましょうか。でもその前に、これ以上だとすごい日数かかるから、皆と一緒に旅したほうがよさそうね」

「そうだな。二人きりでなっくなるのは残念だが」

「そ、そうね」


 時々恥ずかしいことを平気で言うのよね、ルーって。

 私とルーは、サトに着いたあとに、そこから北へと丸一日歩いたあと、なにもない原っぱから飛び立って、飛んでオーガイルの家に帰ることにした。

 結局なにしにカルバニアに行ったんだと思うけど、まあ、そこそこよさそうな土地ってわかっただけでもいいわよね。

 済む土地を探してるわけだから、実際に見てみないと駄目だし。

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