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襲来そして旅立ち

 結果からいうと、国王陛下は大変満足したみたいで、貢物をたくさん持ち帰られました。貢物ってのは、うちの商品たちのことね。

 缶詰がここまで大事なことになるとは思いもしなかったわ。

 全種類五つずつ持って帰ったんだけど、更に毎週定期的に持ってくるようにもなってしまった。

 王室ご用達だよ。すごすぎ。

 だけど、これでもうなにもないだろうと思っていたのに、そんなことはなかった。三度あることは四度ある、である。

 あの王子様襲来。


「金はある。買える分だけ用意しろ」


 なんで、王子ってだけで、こんなに偉そうにしてるんだろう。なんにもできない駄目子にしか見えないのに。ちゃんと帝王学とか勉強してるのか甚だ疑問だわ。

 しかも、持ってきたのは白金貨。こんな下町でそんな大金どうやっておつりをだせと?

 ああ、釣りの心配をして買えるだけって言ってくれてるのね。って、そんなわけないでしょ!


「殿下、申し訳ないのですが、白金貨一枚で買える分と言われますと、うちのここにある商品全てでも足りません。金貨はお持ちではないのでしょうか」

「ない」

「うちの店では、白金貨で全ての商品を購入したとしても、お釣りが用意できません。そこまでの大金がないのです」

「親父には食べさせたのに、俺には寄こさないきか。ならばお前をわたしの側妃にしてやるから、全て寄越せ」


 えええ。なんでそんなことになるの? 側妃とかわけがわからないから。そんなんで選んでいいわけがないでしょうに。

 もうこの王子と話をしたくなくなってきてるわ私。早く迎えにきて、シグルドさん。


「殿下! やはりこちらにおいででしたか。さ、戻りますぞ」

「なにを言うシグルド。俺はまだ帰らぬぞ」

「なりません。殿下は稽古を抜け出して来たのですぞ。これが知られれば、陛下からお叱りを受けますぞ」

「父上ばかりずるいではないか。昨日はこの店で美味いものを食べたと自慢していたのだぞ。わたしには一口もくれなかった」


 美味しいって言ってくれるのは、とても嬉しいのだけど、自慢って、子供じゃないんだから。でも原因は陛下か。一口くらいあげればよかったのに。そうしたらここに来なかったかもしれないじゃない。


「シグルドさん、うちは白金貨で商品全てを買ったとしてもおつりがないのです。シグルドさんが払っていただけませんか」

「うむ。そうしよう。殿下、どれがよろしいのですか」

「缶詰全てだ」

「……全て。一つずつでよろしいですかな」

「いや、全種類、全てだ」

「わかりました。すまない、リウ殿。頼む」


 人に買ってもらうのに、なんて王子なんだ。私このタイプは無理。生理的に受け付けないわ。

 私は早く帰ってほしくて、今日の分を袋詰めすると、馬にくくりつけて帰ってもらった。


「隠蔽の魔法でも掛けておこう」


 これ以上巻き込まれたくないため、私は王都と、念のためポラリスの店に隠蔽の魔法施した。これで、入られたくない人が来ることはなくなるわね。

 ロランさんとアランさん、シグルドさんにも悪いけど、王族と関係あるから入れない対象に入れておいた。

 これで平穏な毎日に戻るわね、よかった。

 それからというもの、私たちの生活は平和だった。なんて素敵な天気なんだろう。例えどしゃぶりの雨が降っていても、私には晴天に見えた。そこまで精神的にきてたのね……。

 だけど、店の売上は、やっぱり落ちてしまう。まあ、趣味でやってるようなものだからかまわないのだけど。

 隠蔽の魔法をしていても入ってこれる人は、私たちに迷惑をかけない人、という設定にしている。イケメン目当ての女性客はとくに迷惑をかけられているとは思っていないので、入れるのよね。


「そろそろ王都とポラリスの店は引き払おうかしら。新天地で新たにスタートさせるのもいいわよね。別の大陸でよさそうなところでも探してこようかな」

「俺も行こう」

「そうだね、今度はルーも一緒に行こうか」


 この前はルブルと一緒に行ったから、次はルーと旅。楽しみね。

 私たちは残りの皆にお留守番を頼んで、住みやすそうな国を探しに旅立つ。


「南東の大陸のダーランドは花がすごくて綺麗だったわよ。それよりも下のティエルトから西のカルバニアを巡っていきましょ」

「そうだな。俺としては過ごしやすいといえば、気候が大事だと思うが、リウはどうなんだ」

「私もそこは大事だと思う。四季があるのもいいけど、できれば年中温暖なところがいいかな」

「だとすると、北東の帝国はなしだな。あそこは寒暖の差が激しいそうだ」

「そうなんだ。じゃあ、まずはティエルトからいってみよう」


 そうそう。

 たとえ別の国に引越ししても、定期的に騎士の宿舎と陛下への納品は続けるつもり。でも、関わりたく

ないのは変わりないから、仲介役をロランさんにしてもらうことにした。だから、持ち運びを便利にするために、あの異空間バッグは、ロランさんへ渡すことにした。

 缶詰に飽きて、もう仲介をしなくてもよくなったら、そのまま異空間バッグはあげると伝えてあるの。あの人たちの中で、彼が一番まともな人だったからね。お世話にもなるしで、お礼としてはなかなかに良いでしょう。


「ティエルトは荒野だと聞いたことがあるが」

「そうなの?」

「ああ。だから、リウ望んでいる条件には当てはまらないと思うぞ。カルバニアはここよりも少し暑いくらいだと聞いたことがある」

「お客さんから聞いたの?」

「ああ。冒険者から少しな。それと、リウが眠っている間に少しだけ旅をしょたことがあるんだ。目を覚まさせるにはどうしたらいいか、知りたくてな」

「そうだったんだ」

「アラリスから、自然と覚めるまで待つしかないと言われてはいたんだが、なにかしていないと生きていられなっかった」

「うん」

「だから、もう、どこにもいかないでくれ。そして、どこかに行くときは俺を連れて行ってくれ」

「ごめん、心配かけて。わかった」


 ルー、ごめんね。

 私、ちゃんとしてなかったな。この旅の間、もっとルーのことたくさん考えて、もっともっと大切にしよう、ずっと。もちろん、家族の皆もだけどね。


「じゃあ、まずはカルバニアに行ってみようか。その後に、西の大陸に行ってみよう」

「そうだな。西の大陸には俺もまだ行ったことはないから、楽しみだ」


 自分たちが住むところは、実際に旅をして見てから決めないとね。

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