表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/60

休日?

 先週の安息日に無事に追加分を納品して、また安息日がやってきた。今日こそはまったりしないとね。

 私は大量のイカを、中央広場の貸し出し屋台で、醤油をつけてひたすら焼いた。美味しそうな匂いが辺りを漂っていて、道行くお客さんの足を止めさせた。

 ふふふ。

 このイカ焼きはすごく美味しかったわ。自信を持って売ることができた。

 だから、私のところではなく、頭にタオルを巻いたルーの方に行列ができているのは、イカ焼きが食べたいからだと思いたい。


「一本寄越せ」


 横からなにかが聞こえた。一本寄越せ? 顔を向けると、堂々とした様子の金髪碧眼のイケメンが、私に片手を差し出してる。

 ん、これって横入りよね。駄目だよちゃんと並ばないと。


「お客さん、ちゃんと並ばないと駄目ですよ」


 私はそう言ってイカ焼きに集中する。私の列に並んでいる、おじさんやおばさんは、なんだこの人といった感じでイケメンを見て、ルーのほうに並んでいる女性たちは、ぽーっとイケメンを見ていた。

 はいはい。イケメンなら誰でもいいんですね。私はちょっとやけくそ気味に焼き続ける。


「二度も言わすな。一本寄越せ」


 んん? またなにか聞こえた。顔を向けるとまた堂々とした様子の金髪碧眼のイケメン。でも最初よりも態度が悪い。横入りは駄目って言ったのに、なんでまだいるんだろうね。

 私は無視してイカを焼き続ける。その間にも、ちゃんと並んでいる、おじさんとおばさんたちの列はどんどん進む。

 最初に言ってたときに並んでおけば、もう買えただろうに。


「聞こえないのか。おい女」


 そう言って、なんと金髪碧眼のイケメンが私の肩を掴もうとした。


「俺の女に触れるな」


 ルーが! ルーが、私のことをそんなふうに言うなんて! うきゃーっ。

 私の肩を掴んでルーの胸板へ抱き寄せられて、私はどきどきした。女性達の悲鳴なんて聞こえない聞こえない。そんな私とルーを見て、金髪碧眼のイケメンは、むっとした表情で、なんとイカ焼きを奪った。


「なにをするんですか!」


 そう言って、私はつい頭をぽかりと小突いてしまった。悪ガキにするように。


「なにをする貴様!」

「それはこちらの台詞です! 横入りして、お金も払わずに食べ物を奪うなんて、泥棒! 憲兵に突き出します!」


 私はイカ焼きを取り戻すと、近くにあったロープで素早く拘束した。これでもう取られないでしょう。念話でアラリスを呼ぶと、転移したのかすぐに駆けつけてくれ、一緒に憲兵のところへと向かうことに。

 屋台はルーにお任せだ。


「離せ無礼者が!」


 もしかしてと、思う必要もない感じだけど、この金髪碧眼のイケメンって、この国の王子だったりするのかしらね。だって口調がそんな感じじゃない?


「殿下!」


 ほら。

 後ろ手に縛られている予想王子を見つけたシグルドさんが、慌てて私たちのところへ駆け寄ってきた。


「リウ殿。なにかあったのですか」

「こんにちは、シグルドさん。実は……」

「この者がわたしのイカ焼きを奪ったのだ」

「違うでしょ! あなたが何度も横入りしようとして、私はそれを注意した。なのに、お金も払わずにイカ焼きを奪ったのはあなた。私は泥棒を憲兵に突き出すために、こうして来てるんでしょう」


 私がむっとしながらも、シグルドさんにわかりやすく話すと、はあと盛大な溜息を吐いて、シグルドさんが口を開いた。


「すまない、リウ殿。これはわしが預かる。こんなのでもわが国の王子なのでな」

「あ、やっぱりそうだったんですね。この口調と態度の悪さ。これはもう絶対に、王子だと思っていましたよ」

「なんだと、口の悪い女め。わたしを愚弄するか」

「あら、愚弄なんて言葉、知っているんですね。わーすごーい」


 憎まれ口の言い合いみたいになったけど、だって仕方ないじゃない。せっかくの安息日を邪魔されたんですから。

 次からは、一般常識をしっかり覚えてから来てほしいわ。それなら私だって普通のお客さんとして扱ったのに。

 シグルドさんでも、こんなのって言うくらいひどい王子なのね。それってどうなのかしら。私はこの国の行く末が不安だわ。ダーランドは素敵な国だったから、そっちに引っ越そうかしらね。

 なんだかんだで、もうすっかり夕方。

 私たちは屋台を綺麗に片付けると、今日の売上を見てほくほくした。ルーが客寄せパンダになってくれてたから、女性客が多くて助かったわ。


「私、騎士から騎士団長ってきたから、なんとなく予感はあったのだけど、本当に王子が来るとは思ってなかったわ。そしたら次は国王かしらね」

「ふふ。リウは未来も見通せることができるようになったのかな。僕は見えないけど、だけど当たりそうだよね」

「私は当たってほしくはないわよ。だって、面倒ごとの匂いがぷんぷんするんですもの」


 それは当たっていたようで。

 国王陛下直々に会いたいとの知らせが届いたのは、安息日の翌日だった。

 行動が早すぎるのよ!

 そして当日。

 私はどうしたものかと思案していた。目の前をうろうろしているおじさんを、どうやって扱えばいいのかを。

 普段どおりでいいと言われても、ちょっと難しいわよね。まあ、とりあえずは、目的を果たしてもらって、少しでも早くお帰りいただくしかないわね。

 でも、言葉遣いをどうすればいいか、悩むわ。だって私、日本にいた頃だって、敬語すらあまり使ったことがないのだもの。

 十六年生きてきたといっても、いくらこちらでは成人していたとしても、中身はまだまだ子供なわけで。


「陛下、こちらが缶詰にございます」

「うむ。一度食したことがある。パンだ。焼きたてのように美味かった」


 国王陛下はそう言うと、缶詰の一つを手に取った。


「そちらはおでんです」


 おでん。日本料理の代表のうちの一つだ。私はおでんには必ずちくわぶを入れていたのよね。ちくわぶって、なんであんなに美味しくって、感触もいいのかしら。

 どんな鍋にも必ず入れていたから、ここでももちろん入れてある。


「ふむ。おでん、か。シグルド」

「は」


 シグルドさんがまず一口。毒見だね。仕方がないとは思いつつ、だけどやっぱりなんだか失礼だな、と思ってしまう。だって、作った本人は目の前にいる私なのだし。


「この料理は鍋という、陶器の鍋に具材やだしを入れて長時間煮込んだものなので、栄養がたっぷりあります。味もしつこくないので、食べやすいかと」

「うむ。うまい」


 そう言って国王陛下は、缶詰から器に盛られたおでんを一気食い。けっこう熱かったけど、口の中は大丈夫かな。

 でも、満足してるみたいだし、よかったわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ