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パレット山廃坑

 私は今、ルーと二人で王都の北西に位置する、パレット山にある廃坑に来ていた。

 この廃坑では、以前は銅鉱石の採掘が行われていたのだけど、もっと近場に銀鉱石が採れる場所が見つかったため、ここは廃坑になってしまったんだそうな。

 だけど、噂ではこの奥の坑道で、金鉱石が自然金で採れるらしいという話を、ポラリスの酒場で聞き、こうして確かめに来たのよね。金鉱脈があるのだとすれば、またここは賑わうことになるんだろうけど。

 私とルーは、ギルドの依頼でそれを確かめに来たのよ。


「先客がいるみたい」

「俺が先に行く」


 光魔法のライトで坑道を進んで行くと、前の方からピッケルで崩しているのか、削り音がガッガッと聞こえてきた。

 噂を聞いて、私たちの他にも来ている人がいるってことね。

 進んで行くと、なんとなく見覚えのある装備が見える。

 あら。あれって、私が作った装備よね。それに、周りを警戒している女の子と男性が。女の子の方ほうは、ミーナさんだわ。てことは、ツルハシを振るっているのはガイルさんか。もう一人の男性は知らないけど、たぶんエルクさんかな。アルビーのときに、討伐隊を組んでたって人だったような気がする。


「こんにちは」


 知っている相手だったから、こちらから声をかけると、警戒していたミーナさんの表情が明るくなった。


「こんにちは、リウさん! ガイル、リウさんとルークスさんよ」

「おお。リウ殿か。ここへは金鉱脈を探しにきたのか?」

「ええ。ギルドからの依頼でね。ガイルさんたちも?」

「いや、俺たちは依頼ではない。噂を聞きつけて、他にもけっこう来てるみたいだぞ」

「そうなんだ。この奥って、まだまだ続いてるのかしら」

「続いてましたよ。先ほども数名の冒険者たちが向かわれたようです。わたしはエルクといいます。以前はミーナのことで大変お世話になりました。ありがとうございます」

「いえいえ。困ったときはお互い様なので、お気になさらずに」


 そんな挨拶をかわしつつ、私とルーはもっと奥に行くために、向かおうとした。


「リウ殿。この先で、金喰い虫が出るらしいから、その時は、掘ったものを置いて逃げるんだぞ」

「金喰い虫? 初めて聞く名だけど、金を食べるってことよね」

「ああ。そして、金を持っている人間から奪おうとするんだ。その魔物は強い」

「わかったわ。ありがとう」


 金喰い虫、ねえ。虫苦手だから、出てきてほしくないなあ。

 逃げてって言われたけど、私とルーがいれば大丈夫でしょうね。

 たまに他の冒険者とすれ違いながら奥へ奥へと進むと、行き止まりだった。他の道を探したほうがいいかしら。


「別の道を探しましょ」

「待てリウ。この奥に何かがいるぞ」

「奥って、でも、行き止まりだけど? あ、そうか」

「ああ。金喰い虫が食べている音かもしれん。ここを崩していけば、金脈が見つかるかもな」

「金脈かあ。でも、虫、だよね。……うう」


 金と虫。どっちがいいかって? 金だけどさ。どっちを選んでも、ついてくるのよね。はあ。


「じゃあ、ここ掘ってみようか」

「そうだな。二人でやればすぐだろう」


 とんてんかんとんとツルハシで壁を崩していく。

 異変を感じてどこかへ行ってくれないかなあ、虫。そんなことを考えつつ、壁を崩していくと、ボロっと大きめに崩れたかと思ったら、一気にバラバラと壁がなくなっていく。

 ライトを先に照らしてみると。


「ぎゃああ! 出た! 出ちゃったよルー!」

「こら、騒ぐな。集まってきたらどうするんだ」

「はっ!」


 そうだったわ。大声を聞きつけて、他からも虫が湧いてきたらと思うと。ぞわわわ。

 他にも来ていないか辺りを見回すけど、どうやら来てはいないみたい。よかった。


「あれは……、ムカデか」

「むっむむむ!」


 ムカデ!

 見たくないけど、見てしまう人の性。壁の向こうには、全長三メートルほどのムカデがうねうねとしながら、壁を齧っていた。ひいい。


「は、早く倒しちゃってよ、ルー」

「わかってる。だが、そう背中に張り付かれてると、身動きが取れないんだが。それとも一緒に行くか」

「まさか! 私、ここで待ってるから」


 ぱっと手を離すと、ルーに溜息をつかれた。

 さあ、ちゃっちゃと倒しちゃてよね。


「はあっ!」


 ルーにプラチナソードで真ん中を真っ二つに分断されたムカデは、動きが激しくなって気持ち悪いのなんのって。

 さらに体節ごとに切っていくルーは、緑の体液を被らないように避けている。

 飛び散った体液は、土に被るとじゅわっとなって、土が溶けていた。強力な溶解液があるみたい。

 数えてみると、三七対あった。


「こんなものか」

「もう大丈夫、だよね。まだ動いてるけど……」

「近づいたり、触れない限りは大丈夫だろう。それより、燃やすぞ。腹の中には食べた金があるはずだ」

「あ、そっか。わかった」


 私はバラバラにされたムカデを結界の中に閉じ込める。そこにルーは、以前私が渡した魔法石・改を投げ込んだ。すると、爆発音がして、ムカデは木っ端微塵に、そして焼かれて灰になった。


「わ、すごい溜め込んでたわね。なにこの金の量」

「金のインゴットが一〇個か。相当な量を食っていたんだな」


 すごいけど、この金のインゴットは冒険者ギルドに渡さないといけないのよね。信用問題になるから、くすねるなんてことはしたくないし。

 他にも金喰い虫はいそうだから、もう少し探してみたほうがいいわね。ガイルさんたちでも逃げるような魔物なんだもの。

 この廃坑が復活したら、採掘員の人に被害がでてしまうもの。

 それから。


「まだいるわね。どんだけいるのよこの廃坑に」

「廃坑になってから、三〇年は経っているそうだからな。おそらく巣もあるんだろう」


 巣!

 想像したくないものを脳裏に浮かべちゃったわ。うごめいてる大量のムカデ。考えるだけでもおぞましい。


「これだけ倒せばいいでしょう。もう帰らない? 報告して、そのあとどうするかはとかは、冒険者ギルドでなんとかするだろうし」

「そうだな。全部で金のインゴットが二一一個。相当な数だ。これを見せれば、すぐさま討伐隊が組まれることだろうな。参加するか?」

「いやよ。もうムカデは一生見たくないわよ」


 金のインゴットは魅力的だけど、金って硬度が低いから、装備には向かないのよね。装飾品くらいでしか使い道がないもの。

 あ、でも、食べれる金粉を少しほしいかも。料理の飾りにふりかけて食べたいわ。

 ガイルさんたちはもう帰ったみたいで、帰り途中にそれとなく探したけどもういなかった。装備品につけた、付与魔法、そろそろ効果が解けると思うんだけど、大丈夫かな。

 冒険者ギルドに事の次第を報告すると、やっぱりすぐに討伐隊を組むことになったみたい。やらないかって聞かれたけど、もうムカデは見たくないからお断りしたわ。

 その後、定期的に討伐隊が派遣され、廃坑から金脈も見つかり、鉱山として復活することになった。

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