ものづくり 壱
ルブルとの二人行商旅を終えてから、私はポラリスと王都の店を、ルーたち四人に任せ、せっせと新商品作りに励んだ。
まずは石鹸と髪を洗うオイルね。
石鹸は無添加石鹸を予め大量に作っておいて、作りたい石鹸にするのだけど、今回は薔薇の香りの石鹸にする。なんだかんだで、女性やプレゼント用で購入していく男性には薔薇が人気なのよ。
頭髪皮剤にはカモミール、イランイラン、シダーウッド、ユーカリ、カチュールスガンディを配合し抽出したオイルを使うのだけど、これは原液だから、化粧水と同じように聖水で割ることが必要なのよね。
わざわざ教会に聖水を貰いに行くのが面倒な場合は、井戸水でも構わないけれど、そうすると効果が少し落ちてしまう。その辺もラベルに記載しておけばいいかな。
ちなみに、効能は、フケ防止に脱毛予防と髪サラサラ、血行促進など頭皮に効くものがいろいろ。発毛剤とはまた違うから、こっちは女性に人気が出そうね。
ダーランドではすでにあった商品だけど、オーガイルでは、ダーランドからの輸入でしか入手できず、それも高貴な身分の者にしか売らないという感じだから、うちは貴族ではなく一般人向けに販売しても、大丈夫なはず。まあ、輸入会社からは疎まれるかもしれないけどね。でもまあ、販売独占はよくないし、いいでしょ。
それに、言っちゃあなんだけど、私が作ったもののほうが品質がいいしね。
「なにもつけなくてもリウは、いつも良い匂いだけど、このオイルを使ったリウも良い匂いだね」
アラリスがそう言って私の髪の毛の匂いを嗅ぐ。そうしたら、ルブルまでもがくんくんするから、なんだか犬いみたいだと思って少し笑ってしまった。
「そのうち王室から仕入れたいって連絡がきそうだよね。最近すごい評判みたいだよ。常連のお客さんが言ってた」
「我も聞いたぞ。なんでも貴族間でも使っている婦人方がいるらしい。ダーランドの品を使っていたそうだが、民の噂を聞きつけて、メイドに買いにこさせているらしい」
「僕も聞いた。で、うちの商品を使っていることが、一種のステータスになってるんだってさ。民なら気軽に買えるけど、貴族だと逆に入手しずらいみたいだよ」
「へええ。じゃあ、私がコレット嬢にオーダー品を届けてるの知られたら、注文が増えそうよね。でも、そうなると、商品作りに追われる生活になりそうだから、化粧品のオーダーはしていないってことにするわね」
「そのほうがいいだろうな」
そんなに噂になっていたなんて。ちょっと張り切りすぎたかしら。
でも、石鹸も頭髪皮剤はもう作っちゃったあとだし、化粧品関連のものは、このへんにしておこうかな。こっちは趣味でやってるようなものだしね。
あ、でも。あと二つだけ作らないといけないのがあった。
毛染め剤とカラコン。これは前々から欲しいと思ってたからね。ただし、この二つが誰でも買えるようになると、犯罪に使われそうだから、自分専用にしておこう。気分転換に髪色や瞳の色、変えたいし。
ということで、私はさっそくその二つを作った。……のはいいのだけど。ものすごく今更なことだけど、私だけが使うのなら、魔法でちょちょいと変えればいいだけだったんじゃ……。
結局、作ったはいいけどお蔵入りをした毛染め剤とカラコンだった。
でも、白髪染めくらいならあってもよさそうだけどね。まあ、それはいっか。
「あとは写真くらいかな、できそうなのって」
銀のインゴットが必要で、それを薄く延ばして板状にする必要があるのだけど、写真にするには、魔法と錬金術が使ないとできないから、人数は限られてしまうのよね。
だから、販売はせずに、写真館みたいにうちで撮ってもらうか、撮りに出向くかを予約でしてもらうしかないわね。
さっそく店先の看板に写真撮りますって書いておいたら、写真とはなにかって常連のお客さんから質問がきた。
実際に撮ったほうがわかるから、試にルブルの写真を撮ったら、その撮った写真が欲しいって言われ、どうしようかと思ったわ。
だって、一応個人情報なわけだしさ。
「リウ、我は構わぬぞ」
「ならいいんだけど。いくらにしようかしら」
なんだかアイドルのブロマイドみたいね。
とりあえず、銀のインゴット代と手間賃と本人への報酬も考慮して、一二〇,〇〇〇ゴールドってとこかしらね。高いけど、ここまで精巧なものなんてこの世にないし、まあまあ妥当かと思うわ。
ま、結局お客さんは高いと言って買わなかったから、ルブルにあげた。
でもこれが、念写とかもできるようになって、それを考え付く人がいたら、犯罪人を捕まえるのに役立つかしら。その逆で犯罪に使われるってこともあるだろうから、あまり出回らない方がいいかもしれないけど。
せっかくいいと思ったんだけど、これもお蔵入りかしらねえ。まあ、景色を撮ったものだったら売ってもいいかな。
ダーランドで綺麗な花を撮ったのを、額縁に飾って店に置いておいたら、すごいすごいって言いながら、購入してくれた常連のおじいさんがいたしね。
どんなものでも、使う側の意思によるってことよね。
少しずつ、小出しに小出ししていけば、そのうち平和なほうへ向かってくれるかしら。
そのためにもまずは、平民の結婚式の写真でも撮ろうかしらね。ブライダル方面へ向かうのも、ありっちゃありかも。
誰か結婚予定の人、いないかしらね。看板にでも書いておこう。
「ルー、そろそろ休憩の時間よ」
「わかった。後は頼む」
物作りも終わったし、久々にポラリスで店番でもしよう。
私は店番をしていたルーに交代を申し出て、カウンターの椅子に座る。今日の売上もなかなかね。
だけど、缶詰の伸びが少し落ちてきたかもしれない。アイスクリームなんかは、誕生日とかに奮発して買って行くお母さんがいるけど、やっぱり普段はなかなか手が出ないみたいだし。
貴族向けなのかもね。一応、そっち向けにもう数種類足して、販売できるかやってみようかな。
うーん。
コレット嬢に話を通してみるのもいいかもしれないわね。
ダーランドへの土産もあるし、伝書鳥で会えるか聞いてみよう。私は伝書鳥屋へのおつかいを、アルビーに頼んで、連絡を取ってもらった。
すると、翌日返事が来て、明日なら大丈夫だと書いてあった。
よしよし。試供品を持って、さっそく明日行ってこよう。




