行商 下
翌日、ルブルを連れてきて、サルエさんを宿屋へと運んでもらった後、私とルブル、手伝うと言ってくれたカーラちゃんの三人で、部屋の大掃除をすることに。
お母さんのために頑張っているカーラちゃん、なんて健気な子なんだろう。まだ小さいのに。たぶん六才くらいよね。でも、あまり見られたくないものもあるから、ハーブのお世話をしてもらうことにした。
「カーラ、頑張るね」
「うん。一緒に頑張ろうね」
まずは庭に家具類を出して、それから私は風魔法で塵等を一箇所に集めて、家の外に出す。
それから、ルブルと二人で内装を変えることに。
ただの板張りだった壁を、内外壁を漆喰を作って塗りたくる。そして時魔法で一気に仕上げる。そして今度は屋根。瓦を作って並べていく。ちなみに、外での作業は結界を張って全て見えないようにした。
じゃないと大騒ぎだものね。まだ、工程を見られるよりも、急に外装が変わって驚かれるほうがましだもの。
そうして庭で家具も綺麗に拭き掃除をして、部屋の中へと配置した。軽くリフォームしただけだけど、部屋の中の気温も大分違くなったし。
ついでにベッドも洗って一気に乾燥させれば、清潔な環境が整った。
あとは、庭の一角にブロッコリーと大根、じゃがいもの苗を植えて、家庭菜園を作る。どれも喘息に良い食べ物だから。土壌を神力でよくしたから、数年は大丈夫なはず。
その頃には、カーラちゃんも大きくなっているし、今以上にサルエさんも楽になるはず。
出会いは一期一会だもの。私たちと出会ったことで、良い方向にいくと嬉しい。良い思い出にもなるようにと私は思う。
ハーブティーを飲み続けることによって、具合も大分楽になるはずだし、喘息に良い野菜を食べることによって、かなり変わるんじゃないかしら。
やっぱり薬がないから、こうした手段しか取れないのが残念だったけど、下手に薬に頼るよりも、健康的になるんじゃないかと思うわ。
「随分綺麗になったわね。カーラちゃん、ルブル、ありがとう」
「いや、かまわない」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう! カーラ、お母さんのために頑張るから!」
「うむ。母君のため、か。カーラは優しい子だな」
カーラちゃんの頭をぽんぽんして撫でるルブル。とても嬉しそうにしているカーラちゃんは、張り切ってる。本当にいい子ね。
ルブルにサルエさんを連れてきてもらい、ベッドへ下ろすと、外壁と内装を見て、感激しうるうると涙が溢れてきたみたい。ハンカチを渡すカーラちゃん。
「リウさん、ルブルさん、本当にありがとうございます。カーラもありがとう。お母さん売れしいわ」
「うん! カーラ頑張ったから、お母さんもよくなるよ」
「ええ、そうね。ええ」
その後、私はサルエさんに、家庭菜園のことも話しておく。
あと、少しだけ回復魔法もかけておいた。これで、少しは楽に動けるんじゃないかな。とはいっても、一日くらいだろうけど。
「それじゃ、私たちは旅に戻りますね」
「なにからなにまで、本当にありがとうございました。なにかお礼をしたいところなのですが」
「気にしないでください。カーラちゃんが頑張ってくれたから、ここまでやれたんですから」
あとは、サルエさんとカーラちゃんが頑張ってれば、症状は良くなってくるはずだから、そうなることを祈るのみね。
そうして私とルブルは行商の旅に戻る。
「病気を治すための、神としての力は使わなかったんだな」
「うん。奇跡は簡単におこしちゃいけないもの。じゃないと、なんでも神頼みになっちゃうし、それは本人によくない影響を与えるものね」
「我は、あの家でしたことが最善だと思うぞ」
「ありがと、ルブル」
フーラを出て、南西に向かい、王都ダーランドへと歩みを進める。
のんびり歩いてたから、王都に着いたのは三日後のことだった。
「やっぱり王都だと香水の売れ行きがすごいわね」
「うむ。そうだな。数日のうちに、身分のある者に仕えているものが、よく来るようになったと思うぞ」
「貴族の間では話題になっているとか。売れるのはわかってたけど、そこまでとは思わなかったわ」
でも、客層は、女性客ばかりなのよね。多分メイドさんに買いにこささせてるんだろうけど。もう少し男性も増えてもいいと思うのだけど。
あ。あれを作ってみようかしら。明日から売り出してみよう。
今日の露天が終わり、私は宿屋の部屋で、ペパーミントとローズマリー、カモミール、シダーウッドを配合して、アロマオイルを作ることにした。
この内容でなんの効果があるかというと、ふふふ。
実は、薄毛、育毛、脱毛に効果があるのよ。
これで、将来ハゲ予備軍や、すでに禿げちゃってる男性に、プレゼントすれば、とても喜んでもらえるはず。
売上もあがるだろうから、とても楽しみよね。
翌日。
「いらっしゃい」
「そこのお嬢さん、見ていかないか」
「このアロマオイルもおすすめですよ。効果はこのラベルに書いてあるとおり。お父さんやほかの男性にプレゼントにいかがでしょうか」
「一つも貰うわ」
「ありがとうございます」
おお、売れた。これは娘さんかな。たぶん、お父さんに渡すのでしょうね。
あ、でも。
これを渡される立場になると、居た堪れない空気になりそうよね。だけどまあ、使い続ければ効果はあるからね。髪の毛ふさふさを得るためには、そのくらいの空気、自分でなんとかしてもらわないとね。
それから、王都でしばらく観光もしながら露天を開いていると、男性客も少しずつだけど増えていくことに。やっぱり世界は違えども、男性の悩みの種は変わらないものなのね。
「行商もなかなか楽しかったわね」
「うむ。我もリウと二人きりの旅ができて、嬉しく思う。またどこかへ行きたいものだな」
「そうね。また機会があればいきましょう。その前に他の皆とも行く予定だけど」
「そうだな。でないと我ばかりが美味しい思いをすることになるからな」
こうしてダーランドでの行商の旅は終わった。
今度は誰と行こう。それぞれあまり一緒の時間がとれないからね。
ああでもその前に。
今回の行商の旅で得たことを生かして、もっと商品を作らないとね。
私とルブルは家に帰ると、みんなにお土産を渡す。とても気に入ってくれたみたいで、せっかくだから、私はその姿での写真を撮ることに。
家族写真なんて初めてだから、なんか嬉しい。
皆は写真に驚いてたけど、旅の間に撮っていた写真を見てもらいながら、その時の様子を土産話として話をして、少しでも旅行気分を味わってもらえるようにと努めた。
いつか、家族旅行もしたいわね。




