行商 中
時々写真を撮りながら進むと、道しるべがあったので読んでみる。トラストとフーラの二方向あるみたい。どちらに行けばいいかしらね。
「こういう時は、あれよね」
私は手ごろな木の枝を捜してきて、道しるべの真ん中で枝を倒す。その倒れた方向へ行こうと思ったのよ。
「フーラね」
「では行くか」
フーラはサンブルから南下して、途中ここの道しるべを、地図上で見て右側、つまり東へと行けばたどり着けるみたい。
で、フーラからさらに南西に行けば、王都のダーランドへ行けるそうよ。
「ここがフーラね。やっぱりサンブルと同じで花で溢れてる街みたいね」
「とりあえずは街の広場で露天を開くか」
「そうね。行きましょ」
中央広場で露天を開いていると、一人の女の子がこちらの様子を窺っているのに気がついた。どうかしたのかしら? にこっと笑いかけてみると、こちらへこようかどうしようかと迷っているみたい。
「どうしたの、お穣ちゃん」
なるべく優しく話しかけてみると、女の子はこちらへ来る気になったのか、ちょこちょこと露天に近づいてきた。
「あ、あのね。わたし、カーラっていうの。お姉ちゃんたちは行商の人でしょ。だから、お薬も売っているのよね?」
「ええ。お薬は売っているわよ。誰か病気なのかしら」
「お母さんがね、苦しい苦しいって言うのよ。だから、お薬飲めば治ると思ったのね。だけど、街のお薬屋さんは売ってくれないの」
「お医者様には診てもらったのかな」
「うん。お薬も飲んだの。だけど、効かないの。ねえ、お母さんずっと苦しいままなのかな。カーラ、お母さんに元気になってほしいのよ」
「そっかあ。カーラちゃんのお母さん、元気がいいものね」
「うん。だからね、お薬売ってほしいの」
うーん。この子のお母さんが病気なのはわかったけど、なんの病気かもわからないし、街医者でも駄目ってことは……。
私は最悪の状況を思うけど、もし助けられるなら、助けてあげたいわよね。
ちらとルブルを見ると、眉間に皺を寄せている。
「カーラちゃん、お薬にもね、いろんなのがあるのよ。お母さんがどんな病気かわからないと、飲ませるお薬もわかるんだけどなあ。お家に案内してもらってもいいかな」
「うん! こっち!」
私がそう言うと、カーラちゃんは駆け出した。
「リウ」
「うん。わかってる。でも、それでも頼って来てくれたのだから、できる限りのことはしたいのよ」
「ならばなにも言うまい」
「じゃあ、ここはお願いね」
露天をルブルに任せて、私は急いでカーラちゃんと追いかけた。
ついていった家は木造で、周りの家々より古ぼけた家だった。中へ入ると、あまり物がなく、萎びた野菜やカビた匂いが漂っている。
これは、生活環境がよくないのね。
「お母さん。お薬売ってくれるって、お姉ちゃんが来たのよ」
「カーラ? ……お姉ちゃんって……」
「こんにちは。私はリウといいます。行商の旅をしている途中で、カーラちゃんと出会ったのですが、まずはどんな病気かわからないと、処方する薬もわかりませんので」
「ああ……なんてこと。カーラ。お姉ちゃんが困ってしまっているわ。駄目よ、連れてきちゃ。リウさん、ごめんなさい。うちの娘が迷惑をかけてしまって……こほこほ」
「いいえ。それは構いません。それよりも、どういった病気かわかりますか?」
「街の医者にも診てもらったのですが、風邪を……拗らせただけだと言われ、風邪薬を処方してもらったのですけど……。この通りでして」
「うーん。たしかに咳をしているものね。他に気になる症状はありますか」
「他、ですか」
そういいながらも、ゼーゼーとしながら息をしてる。ゼーゼーしてるということは。
「夜から朝にかけて、咳で起きることはありますか? あと、呼吸がしずらいとか」
「ええ……こほこほ」
もしかして喘息なのかしら。きっとそう。
「お医者さんは、風邪と言っていたんですよね。喘息ではないと?」
「喘息がどのような病気かはわからないです……。風邪ではないのでしょうか」
ああ。わからないというのは、この世界では医療が発達していないからなのかしら。
喘息に効く薬かあ。困ったな。作れる薬を少し調べないと。
「私たち、明日までこの街に滞在しますので、その間に効くであろう薬を探してみます」
「ですが……ゼーゼー。ご迷惑を、おかけすることに……」
「お子さんが心配なさってますから、治せるかもしれないものは、治してしまいましょう」
私は一旦、宿屋へ戻り、異空間の中身をチェックする。喘息って大人がなるとほぼ完治は無理なのよね。
一生付き合わないといけないものだから、薬を定期的に飲まないといけないし。
私が今持っているのは病気に効く薬だけど、滋養強壮、風邪、鎮痛、貧血、不眠に効くものなのよね。喘息に良い薬ってなにかしら。
うーん、薬はともかく、ハーブならたくさんあるから、まずはハーブティーを飲んでもらったほうがいいわよね。
そうね、カモミール、ジンジャー、ミントをブレンドしてハーブティーを毎日飲んでもらおうかな。
あとは、ミントのアロマオイルを作るのもいいかも。布に数滴たらして、発作が起きたら口に当てるといいらしいし。
私にできるのは、これくらいかな。あとは、エリクサーしかないもの。他の万能薬、家に帰ったら作ってみよう。で、完成したら、もう一度ここへ来て飲ませればいいよね。
あとは、家のお掃除もしたほうがいいわよね。いっそのこと、リフォームしちゃおうか? でも、そうすると、お金がかかるしね。迷うわ。
「さてと、こんなものかしら」
私はハーブティとアロマオイルを作って、再度カーラちゃんの家に向かう。
あとは、明日、ルブルにも手伝ってもらわないと。やらなけりゃいけないこともあるし。
「こんにちは。具合はどうですか」
「こんにちは。こほこほ。昨日と同じようです。あの、昨日はありがとうございました。わたしはサルエです」
「私はリウです。そういえば、お互い名乗っていませんでしたね。さっそくなのですが、私の作ってきたお茶を飲んでください。きっと楽になると思いますので」
サルエさんにハーブティーを淹れて飲んでもらう。数分後、少しだけど効いたみたいで、咳が少し治まってきてる。
ちなみにカーラちゃんは眠っていた。
「少し、楽になりました。お茶にこんな効果があったなんて……」
「ハーブの効能って、実はあまり知られていないのよ。これからは毎日数杯飲むようにしてくださいね。あと、お庭お借りしても?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます。このお茶のハーブを植えてきますね」
私は庭に行って、さっそくハーブを植える。けっこう植えたから、あとは時々世話をすれば、いつでもハーブティーを飲むことができるわ。
起きてきたカーラちゃんに、このハーブについてたくさん教えたけど、まだ小さいからそんなには覚えられないみたい。
私は紙に詳細を書いて、サルエさんに渡す。
「サルエさん、明日なのですが、私の仲間を一人連れてきて、家のお掃除をしますので、その間、私たちの泊まっている部屋にいてもらってもいいですか」
「掃除、ですか。でも、そこまでお世話になるわけには……」
「綺麗にしないと、もっと具合が悪くなってしまいます。ですから、カーラちゃんのためにも」
「カーラのため……。わかりました。よろしくお願いします」




