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ルブル

「リウ、しっかり掴まっているのだぞ」


 私は竜化したルブルの背に乗って、別の南東にある大陸、ダーランドという国に向かっている。

 ルブルは私をその国に連れて行きたかったみたい。

 ダーランドという国は、温暖で、年中春のような陽気の国なんだって。色とりどりの花が咲き誇る平原は、それはもう言葉がでないくらい、綺麗なんだそうだ。


「リウ。見えてきたぞ。あれがダーランドだ」

「ほんと。大陸が見えてきたわね」


 ダーランドに近づくにつれて、明るい色彩の花がどこまでも続き、花の地平線が見れる。感動しかできないその光景。


「すごい……」

「だろう。我が独りだった頃、たまにこうして空を飛び、この国の花々を見ていた。この美しい景色をリウに見せたかったのだ」

「ありがとう、ルブル。すごく感動したよ」

「喜んでくれるならばなにより。我もリウに見せることができて嬉しいぞ」


 ああ、ルブル。そんなふうに私のことを考えてくれてたなんて、嬉しいのと同時に、今まで番でなく、ただの仲間として見ていたことに、少しばかり罪悪感を覚える。

 だけど、罪悪感はいつまでもあっちゃいけないわよね。ルブルの優しさに触れて、私は少し涙ぐんだ。もっと真摯に向き合わないといけない。そう思った。

 人目につかない森のそばに降り立つと、私とルブルは近場の街へ向かう。その街には変わった食べ物があるんだって。


「わあ、この街も花で溢れかえっているのね、すごい」

「我も初めて訪れたときは、人も捨てたものではないと思ったな。花の種類や、色彩をここまで美しく見せることができるのだ。この国の人間は、心から花を愛している。そレンガ造りの家々は、まるで御伽噺のようだ」

「うん。本当に綺麗。きっと、花をより美しく見せるためなんだろうね。レンガと花って、とても相性いいもの」


 街の中を歩いていくと、中央通りに立ち並ぶ屋台が多い。その中で驚くことに、花を使った料理がとても多い。

 花の天ぷら、花のおひたし、花の混ぜご飯、花の飴細工、花のジュース。

 きっと、ルブルが言っていた変わった食べ物とは、花を使った料理のことなのね。


「私、花の天ぷらとジュースが飲みたいな」

「我が買ってこよう。そこの椅子に座って待っていてくれ」

「うん」


 ルブルが屋台へと歩いていく。なんだかこれってデートみたいだよね。うう、なんか急に恥ずかしくなってきた。

 ルブルが屋台で買ってきてくれてる間、私は少し考え事をしていた。

 考え事とは、もちろん今後のルブルとの関係だった。

 私としては、もう少し心の余裕ができるまでは、待って欲しいと思うのだけど、でも、ルブルは私のことをとても考えてくれていて、あまり待たせるのも悪いと思ってしまう。

 だけど、その悪いと思うこと自体が問題なんだと思う。それこそが今の私とルブルの距離感で。

 ルブルのことは嫌いじゃないし、大切なこちらの世界での家族であり、仲間だと思ってる。

 私の趣味で始めた店だって、すすんで手伝ってくれてるし、いつも助けられてばかりだよね。少しでも恩返しをしたいけれど、それもなにか違うと思う。

 今の私の精一杯でなにができるかな。

 そんなことを考えていると、ふと一つの露天に気がついた。あれは、花を樹脂で固めたアクセサリーだ。しかも、手作りのものが作れるみたい。

 リブルを見てみると、まだ並んでるみたい。行ってみようかな。内緒で作るには、今しかないよね。


「こんにちは。ここにおいてあるアクセサリーは琥珀でできたアクセサリーですよね?」

「おお、そうだぞ。どうだい、一つ作ってみるかい」

「はい」


 露天のおじさんにやり方を聞きながら、私はブルースターの花を選んだ。花言葉は、幸福な愛、信じあう心。

 いつかそうなることを祈って、この花を選んだ。

 すでに、信じあうことは出来ていると思えるから、あとは、幸福な愛。育んでいければ、とても素敵だから。

 型に樹脂を半分流し込んだあとに、ブルースターの花を乗せて、その上にまた樹脂を流し込む。そうして魔法を使って時を進めて固めると、直径四センチメートルほどの琥珀が出来上がった。

 それを、金のインゴットで髪留めを作る。

 気に入ってくれるといいんだけど。

 最後は時魔法と錬金術で手早く作ったから、屋台のおじさんは目をぱちくりさせていた。


「待たせた、リウ」

「ううん、大丈夫。買ってきてくれてありがとう。食べよっか」


 ルブルは買ってきてくれた天ぷらを二人で食べて、ジュースを飲む。とても穏やかな空気が流れていて、心地よい。まるで長年連れ添った夫婦みたいで、なんだか少しこそばゆかった。


「次はどうするの?」

「うむ。次はこのまま中央通りをまっすぐ行くと、巨大な温室のある施設があるのだ。そこへは我は行ったことはない。二人で行かないか」

「行こう! すごい綺麗な花がたくさん咲いてるかもね」


 私とルブルはわくわくしながらその温室へと向かう。

 その後も時計塔や、高台の鐘、大きな風車や森林公園など、時間をたくさん使っていろいろ見てまわった。

 二人で過ごす時間はとても楽しみに満ちていた。

 そうして、夕暮れになり、宿屋で夕飯を食べたあと、お風呂に入って、私はルブルの部屋へと向かう。今日の出来事を振り返りながら、作った琥珀の髪留めを渡すつもりなの。

 長髪の銀髪をそのまま下ろしているから、これをつけてほしいのよね。

 露天でアクセサリーのあるところを見たりしたけど、ルブルはあまり興味ないみたいだったけど、私の作ったものは世界に一つしかないもの。

 まあ、つけてくれなくても、今日の思い出のために受け取ってくれるだけで、私はいいんだけどね。気持ちを籠めて作ったものだから。


「今日はいろんな場所で、たくさんの花を見れてすごく嬉しかった。ありがとう、ルブル」

「我もリウと回れ嬉しいぞ。明日からは行商を始めるのだ。今日のうちに回れたのは幸いだ」

「うん。でね、この包み開けてもらってもいいかな」

「わかった」


 包みをそっと開くルブルに私はどきどきする。だって、どんな反応が返ってくるかって思うとね。


「これは、髪留めか。中に花が入っているな」

「実はね、この髪留め、私が作ったの。ほら、屋台でルブルが買いにいってくれてる間に、私、手作りアクセサリーの露天を見つけてね、そこで花を選んでルブルのために作ったんだ」

「我のためにリウが……。これほど嬉しいことはない。ああ、リウ」


 ルブルが私を抱きしめる。

 私も抱き返すと、さらに抱きしめる強さが増した。

 さっきとは違うどきどきで、私の心臓がルブルに聞こえてしまうかと思うくらい、大きく聞こえた気がする。でも、腕の中は安心感もあって、暖かいしもう少しこのままでいたいと思ったけど、ルブルは腕を緩めると、優しく微笑んでくれる。

 ああ、なんて表情をするんだろうか。私、こんなに優しい笑みで見られてるなんて、なんだかこそばゆい。

 次第に近づいてくるルブル。瞳が綺麗だなと思いながら見ていると、唇に柔らかい感触がした。その後も角度をかえつつ何度か優しい口付けが降ってきて私はくらくらした。

 ルブルのことしか見れない。そんな気持ち。私は彼のことが好きなようだった。


「ルブル……」

「リウ」


 私は今どんな顔をしてルブルを見ているのだろうか。

 ぼうっとしながらルブルを見ていると、気づいた時にはいつの間にかベッドに押し倒されていた。


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