コレット嬢
今日はコレット嬢へプリンセスローズの弱と中の香水を、届けに行くことになっているのよ。ついでに夜会用のロイヤル・ハイネスのもまだ早いけど持ってきた。それと化粧水の試供品もね。
ウェルスナー邸へと行くと、執事のカルナーさんが出迎えてくれて、そのままコレット嬢のもとへ案内される。同じ王都にいるから、馬車を使わなくても歩いていけていいわ。
「待っていたわ、リウ。今日は香水を届けに来てくれたのよね」
コレット嬢が親しげに私に駆け寄ってきてくれた。可愛い。
持ってきた香水はメイドさんに渡して、私とコレット嬢は話をする。
「化粧水も作ってみたのです。試供品をお持ちしましたので、よろしければ使ってみてください」
「あら、ありがとう。わたくしの使っている化粧水、肌にあまり合わないみたいで、困っていたところなのよ」
そう言ってコレット嬢は嬉しそうに試供品を受け取ってくれた。こういうのって、信用と信頼を得られてないと、できないものよね。
コレット嬢が私に対してそう思ってくれているのがわかって、嬉しい。
私への態度も軟化してきてるし。
「そういばお嬢様、夜会はどうですか?」
「ふふ、それがね。わたくし、いろいろ素敵な方々からダンスのお誘いがきてしまい、とても素敵な夜を過ごせたのよ。とても素敵な香りがしますねって、言ってくださるかたがいて、その時胸が高鳴りましたの」
「その方が気になるのですか」
「ここだけの話よ。とても気になっているわ。あの方のことを考えるだけで、幸せな気分になれますの」
「お好きなのですね」
「好き……。ええ、そうなのかもしれないわ。でも、とても人気のある方だから、わたくしのことはあまり目に入っていないかもしれない」
「そんなことはないと思いますよ。だって、お嬢様はとてもお綺麗ですから」
「わたくしもそう思いたいのだれど、私の他にも魅力的なかたはたくさんいますのよ。こんな気持ち、初めてだわ」
恋に悩める乙女といったふうに、コレット嬢が話してくれる。
初恋かあ。素直に自分の気持ちを語るコレット嬢は、とても愛らしい。この姿を見せるだけで、その気持ちを自分へと向けて欲しいと思い男性はけっこういると思うんだけどな。
「わたくし、どうしたらいいのかしら」
私に聞くコレット嬢だけど、ようは、どうすればその男性を、射止めることができるのかってことよね。
薬、たとえば媚薬を使えばその時だけは、うまくいくかもしれないけど、恋とか愛って、そんなもので手に入られないもの。
コレット嬢のことを応援したいけど、私にできることといえば、香水や、化粧品を贈ることくらいしかない。あとは、こうして話を聞くくらいだものね。
私に恋愛経験があれば、もっとアドバイスを出きるけれど、私だって十六才だもの。一〇〇年間眠っていたのは、寝ていたのだからカウントできないし。
いったいどうすればいいのかしら。
私とコレット嬢は悩む。
だけど、どんなに悩んでもいいアイデアはでてくるはずもなく。
でもさ、私、思うんだけど、コレット嬢はそのままでも十分魅力的だと思うのよね。なにもしなくても、人を惹きつけるものを持っていると思う。
まるで天使のような要望は、守ってあげたくなるような、庇護欲をかきたてられるし、笑いかけてくれると、こっちまで笑顔になるもの。
向けられる笑顔が男性相手なら、ぽうっと見とれちゃうんじゃないかしら。笑顔は三割り増しっていうけれど、コレット嬢の場合は三割なんてものじゃないわ。
だから、必要なのは、そのままの姿のコレット嬢と、良い雰囲気を出すための、シチュエーションじゃないかしら。
だけど、シチュエーションといっても、夜会なんて、爵位のない私がいけるような場所でもないし。やれることといったら、今までどおり、コレット嬢のために作った香水や、化粧品を届けることと、こうして話を聞くくらいしかできないのよね。
「私は今のままでも魅力的なのだから、なにかを変えようとなさらなくても大丈夫だと思いますよ。必要なことといえば、良い雰囲気になれるような場所、でしょうか」
「良い雰囲気になれるような……」
「はい。たとえば、ダンスの後に、庭に誘うとか、バルコニーに誘うとか。疲れたので少し休みたいと言えば、あとは男性のほうからなにかのアプローチがあると思います」
「そういえば、わたくしの友人も、いつの間にかいなくなったりしていたわね。もちかしたら、そういうことなのかしら」
「きっとそうだと思いますよ」
「ありがとう、リウ。わたくし、次の夜会で頑張ってみますわ」
「応援しています」
私にできるのはこのくらいしかない。ダンスにたくさんの男性から誘われるということは、とても魅力的だからだと思うもの。
「あ、そうそう。そういえば、リウは他の大陸へは行ったことありますの?」
「いいえ。私はまだこの大陸だけですね。東西南北の四つの国にはいきましたけど、でもいつか、他の大陸にも行ってみたいと思います。私の知らない素材を入手できるかもしれませんから」
「そうなのね。リウみたいにあちこちを旅することも、実のところ少し憧れていますの。時々、わたくしに旅の話を聞かせていただきたいのですけれど、いいかしら?」
「ええ。もちろんです」
「本当? 嬉しいわ。ぜひお願いしますわね」
コレット嬢と少し話をして、私は店へと戻る。お嬢様は自由に旅ができないから、羨ましいと思うのだろうね。私はどこかの貴族の娘でなくて心底よかったよ思う。だって、私は自由が大好きなのだし。
旅の商人って感じで世界中を巡ってみるのもいいかもね。香水はあと半年後だし。
と、いうことで。
「私、ちょっと行商に行きたいと思うのだけど、ルブル、一緒に行かない?」
「我とか。もちろん構わない。新婚旅行もまだだったしな」
あ、そうか。花嫁と言われてたけど、私って、ルブルの番でもあった。そんな雰囲気あれからちっともなかったから、ついつい忘れてしまうわね。
それに他の皆のことも、もう少しよく考えないといけないよね。私の今の状況って、ニコラと変わらないじゃない。
逆ハー。
私が流されてしまうのが悪いのだけど、それぞれのそうなった時に断れなかったよね。言い訳だけど。
ルーの場合は、もちろんその、えっと、好きだからあれなのだけど。ルーは今の状況どう思っているのかしら。今度二人きりになった時にでも聞いておこう。
なにはともあれ、まずはルブルよね。最近、あまり時間が取れてないから、ゆっくり二人で行商という名の旅行に行くのもいいと思う。その、新婚旅行で。ああ、なんか急に照れくさくなってきたわ。




