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客注

 シルカの森に行った日から一週間後、ロランさんが店に、異空間バッグを受け取りに来た。

 異空間バッグは簡単に作れるものじゃない。商会のものだって、遙か昔に作られたものを、今でも使っているというだけらしい。だから、今回のような無茶振りは、もう引き受けないことにした。

 とはいっても、冒険者ギルドからの指名依頼だと、断るのが難しいのよね。だけど、私はもうロランさんからの依頼は引き受けたくはないと思うわ。

 なんでもできるなんて思われたくないもの。

 ロランさんはいったいなにを考えて、今までうちの店にきていたのかしらね。


「うむ。異空間バッグは完成したようだな。いくらだ」

「一〇,〇〇〇,〇〇〇ゴールドになります」

「いくらなんでも高過ぎやしないか? 君も持っているのだし、簡単に作れるのだろう?」


 その言葉にむっとした私だけど、あくまでも、ロランさんは今はお客様なので、笑顔を貼り付けて答える。


「お客様。時の朝露と時縛りの糸はどうすれば入手できるかご存知ですか?」

「知っている。シルカの森の中心部にあるという大木から取った朝露のことだろう。糸はその近くに生息している蜘蛛の糸のはずだ」

「ええ。その通りです。では、シルカの森の中心部へは、どうすれば行くことがれきるかはご存知ですか?」

「もちろんだとも。ダンジョンを進んでいけばいいのだろう。簡単ではないか」


 なにを言っているんだとばかりに、私を呆れた目で見ながら話すロランさんに、私は笑顔が引きつった。この辺りの冒険者なら誰でも知っているようなことを、彼は知らないから、簡単だと言えるのだ。

 これは一度身を持って体験してもらわないといけないようね。


「お客様。大変申し訳ないのですが、あなたにはお売りすることができません。残念ですが、お引き取り下さい」

「なんだと。俺は指名依頼までしているのだぞ。それを断るということが、どういうことだかわかっているのか」

「ええ。重々承知致しております。ですが、あなたのような無知な方に、この商品をお売りすることはできません。これは、冒険者の方にお売りすることにします。依頼を破棄してしまい、大変申し訳ないのですが、あなたには勿体無い商品のようですので。私は職人です。私の作った物は、その商品がどのようなものかをきちんと知っている方にしか、お売りすることはしたくないのです」

「……冒険者ギルドへ報告させてもらうぞ」

「どうぞ。私も包み隠さず今のやりとりを話ますので」


 実は、話したことを録音できる魔法石を私は持っている。そして、今までのやりとりは、全て録音済みなのだ。話したければ話せばいい。

 私のような貴重な物を製作できる職人は、相手を見て売ることを決めることができるのだ。それをロランさんは知らないようだ。

 ぱっと見貴族のような感じがしていたのだけど、本当にそうなのかも。でなけりゃこんなに無知なわけないでしょう。

 今後一切、ロランさんからの依頼は請けないように、拒否させてもらおう。私には選ぶ権利があるのだから。職人とはそういうものなのだ。やはり、彼は地雷だったようね。


「どうぞお引取りください」

「二度と来るかこんな店」


 悪態をついて、ロランさんは商品棚を蹴り飛ばして店を出て行った。なんだかとんでもない人だったわ。実は口も悪かったのね。

 その場にいた他の冒険者のお客さんが、災難だったなと声をかけてくれて、少しだけ気分が晴れた。

 さてと。この異空間バッグ、どうしようかしら。

 ガメレオンの皮をなめす時に、ロランさんの魔力を練りこんだから、神様特権で消去しておかないとね。とりあえず、誰か買いたい人が見つかるまでは、魔力登録はしないでおこう。

 私は異空間へバッグをしまうと、さっそく事の顛末を冒険者ギルドへと報告しに。

 そして、やはり私のほうが正しかったからか、ロランさんからの指名依頼、または、ロランさんに頼まれて他の方を通しての依頼も、冒険者ギルド側で拒否してもらえるようになった。

 ついでにうちの店も出入り禁止にしておいた。


「なんだかまだちょっとだけむしゃくしゃするかも。これはなにか作りまくらないと、収まりそうにないわね。あ、そうだ。化粧水でも作ろうかしら」


 実は、前々から女性のお客さんに言われてたのよね。香水があるならば、化粧水もあると助かるって。

 ローズペタルとオレンジピールの橙の果皮、ペパーミントとローズマリー、ウォッカを準備して、容器に入れて、振りながら時間経過の魔法をかける。

 そうすると、抽出されて茶色い液体になるんだけど、これを濾過すると原液の出来上がり。うん、良い香り。使うときには、教会で貰える聖水で割る必要があるのよね。

 オレンジプールは今回はビターで。小瓶に移し変えて、夜用と書いたラベルを貼っておく。

 効能も書いておかないと。


「よーし、これでいいわね」


 ものづくりを楽しんだから、気分はもうすっかり晴れた。

 さっそく次の開店日に商品棚に並べておこう。


「わ、化粧水作ってくれたんですね、嬉しいです」


 香水の隣に陳列した化粧水を発見した女性のお客さんが、嬉しそうに小瓶を手にとって私に話かけてきた。


「ええ。けっこうご要望が多かったので、作ってみました。心身をリラックスさせてくれて、肌の弾力も増してくれるのでおすすめですよ」

「わあ、いいわね。さっそく買って帰ります」

「ラベルにも書いてありますが、この化粧水は夜用ですので、日中には使用しないでくださいね」

「ええ。わかったわ。ありがとう」


 女性客は嬉しそうにして帰っていった。喜んでもらえて私も嬉しくなってくる。せっかくだから、自分の分もあとで作ろうかな。こっちの世界に来てから化粧水なんてつけてなかったし。お肌の手入れはしないとね。


「そういえば、明日はコレット嬢に香水を届けないといけないんだった。試供品ってことで、化粧水も持っていこうかしら」


 久々にコレット嬢と会うから、少しはお話ができるといいな。

 ポラリスと王都の店で同時販売した化粧水は、常連のお客さんが購入してくれて、在庫は一日なのに半分になった。

 意外と売れてちょっとびっくり。商品用のも作らないと駄目ね。

 そうして私は、また化粧水を作って、来週の開店時のための在庫を増やしておくことにした。


「お、なんか肌の感じが違う。弾力がある! これすごい。なんか肌が若返ったみたい」


 翌日。昨日の夜に化粧水を使ったけど、一日で効果がわかる。これ、ますます売れそうだわ。

 ふと思ったんだけど、この世界の人って、髪や瞳の色、色彩豊かなのよね。

 すごくいいんだけど、髪色を変えられる毛染めや、瞳の色を変えられるカラコンなんてのも作ったら売れるかしら。

 黒目黒髪の私からしたら、緑や青、銀やピンクの髪色の人って、羨ましいのよね。

 カラコンは髪染めよりも抵抗があるかもしれないけど、作るだけやってみてもいいかもしれない。

 今度時間が空いたら作ってみよう。

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