缶詰と修理
翌週の開店日、缶詰をたくさん買ってくれたお客さんが、今日もまた来てくれた。そして、その日の分の残りの在庫を全て購入してくれる。
よっぽど気に入ってくれたのか、もしくは誰かへのお土産なのか。どちらにしても、店一番の上得意のお客さんであることには間違いない。
けれど、今日は朝早くのご来店だったから、今日の分がなくなってしまった。なので、急遽前倒しで補充したのだけど。
「すまない。それも購入したいのだが」
なんと、補充分の五〇個も購入してもらえるなんて。
これは客注にしたほうがよさそうよね。
「お客さん、あとおいくつ必要でしょうか? 在庫はまだありますよ」
「そうか。ならば、アイスクリーム以外のものを、あと一五〇個ほどいただきたいのだが」
「一五〇個で一五〇,〇〇〇ゴールドになります。商品はお届けも出来ますが、どうなさいますか」
「そうだな。では、頼む」
「かしこまりました。お代金、たしかに頂きました。では、午前中にお持ち致しますね」
長旅でもするのかしら?
普通、長旅の時は、干し肉や、その場で動物を狩って食べたりするのだけど、私たちが作ったこの缶詰なら、そんなことしなくてもいい。
かさばるし、個数もあれば重さもあるけど、温かく栄養のある料理をすぐに食べられるほうを私だったら選ぶ。
「君の名はなんという?」
「リウといいます」
「わかった。場所は騎士の宿舎で頼む。ロラン・エスクッド宛といえば、中に入れるようにしておく」
「かしこまりました。ありがとうございます」
騎士だったんだね。どこかに任務でも行くのかな。
ロランさんは、そう言うと店を出て行った。大口注文だわ。お得意様になってもらえるといいな。
「ここが騎士の宿舎よね。すごい大きい建物ね」
店をルブルとアルビーに任せえて、私は騎士の宿舎までやってきた。
王都にいる全ての騎士が暮らすそうで、L時型の巨大は宿舎だった。
えっと、入り口はあそこかな。
騎士が二人門の両脇に立っている。そこには小さな建物があって、おそらく中に入る時に、検問をするんだと思う。
「おはようございます。ロラン・エスクッド様宛で、商品の納品をしにきました」
「ご苦労。そこの検問所で検査を受けてくれ」
検問所へ行くと、騎士が何人かいて、カウンターで荷物検査をしているみたい。
「なんでも屋のリウといいます。ロラン・エスクッド様宛で、商品の納品をしにきました」
「副隊長から話は聞いている。ここで荷物を預かる」
「はい」
そう言われて、私は異空間から一五〇個の缶詰を出す。
騎士さんがそれを見て驚いてたけど、異空間のバッグは数は少ないけど出回ってるから、そこまで驚かなくてもいいんだけどなあ。商人なら商会から借りることもできるし。とはいっても、それはかなり容量は小さいのだけどね。
「一五〇個、これで全部です」
「たしかに受け取った。こちらにサインをしてくれ」
納品書を渡して、かわりに出入り管理表を渡されて、店の名前と、自分の名前、誰宛かと荷物の名を記入する。
「よろしくお願いします」
これで終了かな。
翌日。
「昨日は助かった」
「ロラン様、こちらこそありがとうございます。今日も缶詰ですか?」
「いや、今日は別の用事だ」
そう言うと、ロランさんは一本の剣をカウンターに置いた。
ん? 修理でもしてほしいのかな。
「この剣よりも良いものを探している」
「この剣よりも、ですか」
ロランさんは騎士なのだから、騎士達専属の鍛冶師がいると思うのだけど、どうして私にいうのかな。
私が訝しく思っていると、ロランさんは苦笑いをする。
「実はこの剣は祖父から受け継いだものなのだが、どうにかして修理してほしいんだ。この店はなんでも屋なのだろう。直せなくとも、直せる者を知っているかと思ってな」
「そうでしたか。拝見させていただきます」
鞘から剣を抜くと、刃こぼれが酷い。砥石で研ぐにももうこれ以上したら、耐久力がもたないと思う。もうこの剣は寿命がきてるみたい。
うーん。難しいなあ。どこの鍛冶師に見せても、断られちゃうような剣を、直してほしいって、それだけ思いいれがあるんだろうけど。
「修理というよりは、生まれ変わる、と言ったほうがいいかもしれませんね。これ以上砥ぐことはおすすめできないです。それでも直してほしいというのでしたら、鋼ではない素材と組み合わせるくらいでしょうか」
「生まれ変わる……」
「はい。地鉄と鍛接して打ち直すので、形状は大きく変わってしまいます。この剣は両刃ですが、片刃になってしまいます。叩き切るというよりは、引いて切るので切れ味は上がりますが、扱いは難しいですよ」
「直るのならば、なんでもいい」
「後悔しませんか」
「ああ」
「わかりました。では、この剣はお預かりしますね。鞘はどうされますか。形状が変わる以上はこの鞘はもう使い道がありませんが」
「鞘は持ち帰ることにするよ」
そう言ってロランさんは帰っていった。
この剣は愛されてるんだなあ。じゃあ、さっそくやりますか。
話を聞いていたルブルに店を任せて、私は作業場へと籠もる。
地鉄と合わせて剣を熱し、鍛接剤がないから錬金術で合わせる。そして打ち伸ばしていく。工程をふまえて次第に形になっていく剣は、刀となって生まれ変わった。
転移陣で家に戻って、庭で切れ味を確かめるために、案山子を置いて切ってみると、スパッと綺麗に真っ二つになる。
こんな感じでいいかな。私は熟練の鍛冶師さんとは違うから、この刀の切れ味をもっと良くするなら、刀鍛冶師にお願いしないと駄目だと思う。でも、この世界にはいないから私しかできない。でも刃紋は美しいと思う。
戦闘で使うよりも、観賞用としたほうがいいかもね。まあ、使う人次第だけど。
「剣はできているか」
翌週、ロランさんが店にやってきた。
「ええ。できていますよ。こちらです」
黒塗りをした鞘に収められている刀を抜いて見たロランさんは、ほぅと声を洩らして黙ってしまった。大丈夫かな。納得いく仕上がりになってくれてばいいのだけど。
「試し切りをしたい」
「では、裏にいきましょうか。案山子を用意します」
店の裏にロランさんと行き、さっそくロランさんは用意した案山子を切ろうとしたのだけど、私はそれにストップをかける。
「叩ききるのではなく、引き切りをしてください」
「わかった」
そうして試し切りをすること数回。なんとなく感覚を掴めたのか、スパッと綺麗に切れた。
「これはすごい。刀とはこれほどまでによく切れる剣なのだな」
「刀を使ったあとは、必ず手入れをして下さい。やり方はこの紙に書いておきましたので、読んで下さいね。切れ味が悪くなったら持ってきてください。研ぎますので」
刀に見とれているロランさんは、聞いているのかわからないわね。
「私は鍛冶師一本でやっているわけではないので、私の打った刀は実践で使うよりは、観賞用として飾っておいてほしいのですが、やはり実践で使うのですか?」
「いや。観賞用にしておく。元々代々受け継がれてきた剣を使えないかと思い、試し切りをしたのが悪かったようだ。だから持ってきた時は、刃こぼれが酷かっただろう。この剣のため、これ以上酷使はしたくない」
「それが良いと思います」
「リウ、ありがとう。世話になった。またなにかあれば、来てもいいだろうか」
「えっと? 店が開いている時でしたら、いつでもいますので」
「そういうことではないんだが……。まあいい。これは代金だ。ではまた会おう」
「たしかに受け取りました。ありがとうございました」
そう言って帰るロランさんを見送って、私は店の中へと戻る。今日は忙しかったな。




