表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/60

缶詰と修理

 翌週の開店日、缶詰をたくさん買ってくれたお客さんが、今日もまた来てくれた。そして、その日の分の残りの在庫を全て購入してくれる。

 よっぽど気に入ってくれたのか、もしくは誰かへのお土産なのか。どちらにしても、店一番の上得意のお客さんであることには間違いない。

 けれど、今日は朝早くのご来店だったから、今日の分がなくなってしまった。なので、急遽前倒しで補充したのだけど。


「すまない。それも購入したいのだが」


 なんと、補充分の五〇個も購入してもらえるなんて。

 これは客注にしたほうがよさそうよね。


「お客さん、あとおいくつ必要でしょうか? 在庫はまだありますよ」

「そうか。ならば、アイスクリーム以外のものを、あと一五〇個ほどいただきたいのだが」

「一五〇個で一五〇,〇〇〇ゴールドになります。商品はお届けも出来ますが、どうなさいますか」

「そうだな。では、頼む」

「かしこまりました。お代金、たしかに頂きました。では、午前中にお持ち致しますね」


 長旅でもするのかしら?

 普通、長旅の時は、干し肉や、その場で動物を狩って食べたりするのだけど、私たちが作ったこの缶詰なら、そんなことしなくてもいい。

 かさばるし、個数もあれば重さもあるけど、温かく栄養のある料理をすぐに食べられるほうを私だったら選ぶ。


「君の名はなんという?」

「リウといいます」

「わかった。場所は騎士の宿舎で頼む。ロラン・エスクッド宛といえば、中に入れるようにしておく」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 騎士だったんだね。どこかに任務でも行くのかな。

 ロランさんは、そう言うと店を出て行った。大口注文だわ。お得意様になってもらえるといいな。


「ここが騎士の宿舎よね。すごい大きい建物ね」


 店をルブルとアルビーに任せえて、私は騎士の宿舎までやってきた。

 王都にいる全ての騎士が暮らすそうで、L時型の巨大は宿舎だった。

 えっと、入り口はあそこかな。

 騎士が二人門の両脇に立っている。そこには小さな建物があって、おそらく中に入る時に、検問をするんだと思う。


「おはようございます。ロラン・エスクッド様宛で、商品の納品をしにきました」

「ご苦労。そこの検問所で検査を受けてくれ」


 検問所へ行くと、騎士が何人かいて、カウンターで荷物検査をしているみたい。


「なんでも屋のリウといいます。ロラン・エスクッド様宛で、商品の納品をしにきました」

「副隊長から話は聞いている。ここで荷物を預かる」

「はい」


 そう言われて、私は異空間から一五〇個の缶詰を出す。

 騎士さんがそれを見て驚いてたけど、異空間のバッグは数は少ないけど出回ってるから、そこまで驚かなくてもいいんだけどなあ。商人なら商会から借りることもできるし。とはいっても、それはかなり容量は小さいのだけどね。


「一五〇個、これで全部です」

「たしかに受け取った。こちらにサインをしてくれ」


 納品書を渡して、かわりに出入り管理表を渡されて、店の名前と、自分の名前、誰宛かと荷物の名を記入する。


「よろしくお願いします」


 これで終了かな。

 翌日。


「昨日は助かった」

「ロラン様、こちらこそありがとうございます。今日も缶詰ですか?」

「いや、今日は別の用事だ」


 そう言うと、ロランさんは一本の剣をカウンターに置いた。

 ん? 修理でもしてほしいのかな。


「この剣よりも良いものを探している」

「この剣よりも、ですか」


 ロランさんは騎士なのだから、騎士達専属の鍛冶師がいると思うのだけど、どうして私にいうのかな。

 私が訝しく思っていると、ロランさんは苦笑いをする。


「実はこの剣は祖父から受け継いだものなのだが、どうにかして修理してほしいんだ。この店はなんでも屋なのだろう。直せなくとも、直せる者を知っているかと思ってな」

「そうでしたか。拝見させていただきます」


 鞘から剣を抜くと、刃こぼれが酷い。砥石で研ぐにももうこれ以上したら、耐久力がもたないと思う。もうこの剣は寿命がきてるみたい。

 うーん。難しいなあ。どこの鍛冶師に見せても、断られちゃうような剣を、直してほしいって、それだけ思いいれがあるんだろうけど。


「修理というよりは、生まれ変わる、と言ったほうがいいかもしれませんね。これ以上砥ぐことはおすすめできないです。それでも直してほしいというのでしたら、鋼ではない素材と組み合わせるくらいでしょうか」

「生まれ変わる……」

「はい。地鉄と鍛接して打ち直すので、形状は大きく変わってしまいます。この剣は両刃ですが、片刃になってしまいます。叩き切るというよりは、引いて切るので切れ味は上がりますが、扱いは難しいですよ」

「直るのならば、なんでもいい」

「後悔しませんか」

「ああ」

「わかりました。では、この剣はお預かりしますね。鞘はどうされますか。形状が変わる以上はこの鞘はもう使い道がありませんが」

「鞘は持ち帰ることにするよ」


 そう言ってロランさんは帰っていった。

 この剣は愛されてるんだなあ。じゃあ、さっそくやりますか。

 話を聞いていたルブルに店を任せて、私は作業場へと籠もる。

 地鉄と合わせて剣を熱し、鍛接剤がないから錬金術で合わせる。そして打ち伸ばしていく。工程をふまえて次第に形になっていく剣は、刀となって生まれ変わった。

 転移陣で家に戻って、庭で切れ味を確かめるために、案山子を置いて切ってみると、スパッと綺麗に真っ二つになる。

 こんな感じでいいかな。私は熟練の鍛冶師さんとは違うから、この刀の切れ味をもっと良くするなら、刀鍛冶師にお願いしないと駄目だと思う。でも、この世界にはいないから私しかできない。でも刃紋は美しいと思う。

 戦闘で使うよりも、観賞用としたほうがいいかもね。まあ、使う人次第だけど。


「剣はできているか」


 翌週、ロランさんが店にやってきた。


「ええ。できていますよ。こちらです」


 黒塗りをした鞘に収められている刀を抜いて見たロランさんは、ほぅと声を洩らして黙ってしまった。大丈夫かな。納得いく仕上がりになってくれてばいいのだけど。


「試し切りをしたい」

「では、裏にいきましょうか。案山子を用意します」


 店の裏にロランさんと行き、さっそくロランさんは用意した案山子を切ろうとしたのだけど、私はそれにストップをかける。


「叩ききるのではなく、引き切りをしてください」

「わかった」


 そうして試し切りをすること数回。なんとなく感覚を掴めたのか、スパッと綺麗に切れた。


「これはすごい。刀とはこれほどまでによく切れる剣なのだな」

「刀を使ったあとは、必ず手入れをして下さい。やり方はこの紙に書いておきましたので、読んで下さいね。切れ味が悪くなったら持ってきてください。研ぎますので」


 刀に見とれているロランさんは、聞いているのかわからないわね。


「私は鍛冶師一本でやっているわけではないので、私の打った刀は実践で使うよりは、観賞用として飾っておいてほしいのですが、やはり実践で使うのですか?」

「いや。観賞用にしておく。元々代々受け継がれてきた剣を使えないかと思い、試し切りをしたのが悪かったようだ。だから持ってきた時は、刃こぼれが酷かっただろう。この剣のため、これ以上酷使はしたくない」

「それが良いと思います」

「リウ、ありがとう。世話になった。またなにかあれば、来てもいいだろうか」

「えっと? 店が開いている時でしたら、いつでもいますので」

「そういうことではないんだが……。まあいい。これは代金だ。ではまた会おう」

「たしかに受け取りました。ありがとうございました」


 そう言って帰るロランさんを見送って、私は店の中へと戻る。今日は忙しかったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ