王都のお店
コレット嬢の護衛依頼を無事に達成してから一ヵ月。
他にも小さめの依頼をこなし初めて、私たちの顔も少しずつ売れてきたそんな日。
私は店のカウンターで考えていた。
「返事、どうしようかな」
実は、王都から店を出さないかと打診がきたのだ。冒険者ギルドから。
ホコラの洞窟のダンジョンの、一〇階刻みでの各階のセーフティエリアで、缶詰や魔法石などを委託販売していたのだけど、それがとても好評で、王都近くにあるダンジョンでも、委託販売をするか、もしくは王都で店を持たないかと言われ、現在悩み中なのよ。王都で店っていうのも興味があるからね。
ポラリスの店を週三に変更してから、常連も増えて売上もアップしたのはいいのだけれど、残りの四日間でいろいろやらなければならないこともあったりで、けっこう忙しいのよね。
そこへ今回の打診。店だけをやっているわけにはいかないし、アラリスだけに頼らずに、自分でも他の大陸にも行って情勢も見なければならないと思うし、行商だってしたい。他のダンジョンにも行きたい。
やりたいことは次々でてくるけれど、積みゲーのように、手を出せずにどんどん重ねられている。
私が分裂できるのだったら楽なのにな、と思いつつ、先に返事をしなければならないこの話。
どうすればいいのかな。
「悩んでいるな」
「ルブル」
「我はリウがやりたいことは応援するぞ」
「だけど、そうすると、他のことがおざなりになりそうだし。皆に手伝ってもらってるのに、また他に手をだすのもって思うとね」
「我らは家族だ。家族は助け合うことが大事なのだろう? 書物に書いてあったぞ」
「ふふ。うん。皆にはたくさん手伝ってもらってるよ。だけど、ちょっと甘えすぎかなとも思うのよ。神様の仕事もアラリスに丸投げ状態だし」
「リウ。幸い、我らの時間は無限だ。有限な者はいない。いきなり全てをやろうとすることはないのではないか。その時その時で必要なことをしていけばいいのだ」
「その時その時、か。ありがとう、ルブル」
「我はいつでもリウの味方だ。それは他の者も同じ。リウは一人ではないのだ。どんどん頼ってくれ」
カウンターで頬杖をついてると、ルブルが助言をくれた。その言葉が胸にしみて嬉しい。そっか、時間は無限か。やりたいことがありすぎて、焦っちゃってたのね、私。
その時その時で。なら、王都のことは、今がその時なのかもね。
ならやることは一つ。
「よし。店を出そう」
そうと決まれば早かった。
打診がくるくらいだから、店の場所候補は冒険者ギルドのほうで何軒か見つけてくれていて、私はその中から、三LDKの店を選んだ。
売り場、作業場、倉庫の三部屋に、リビングダイニングキッチン。
これだけあれば十分でしょ。作業場には家とポラリスの店を繋ぐ転移陣を置けば、各自の部屋は必要ないし、移動時間の短縮もできる。
ただ、ポラリスの店を週三でやるのはきついから、週一に戻した。そして王都でも週一にするわ。
うちの商品は特別なものが多いから、王都でもすぐに週一じゃなくてもっと多く開いてって言われそうだけど、今はちょっと無理そうだから、週一だけでも開店できればいいでしょって、冒険者ギルドの人に言うわ。
王都近くのダンジョンでも、ホコラの洞窟のダンジョンでも、委託販売をするのだし、週一でいいと思うのよね。
「まずは売り物リストね」
ポラリスと王都、どちらも同じ種類を売ることに決める。
リストは。
体力回復薬、気力回復薬、解毒剤、結界石、剥ぎ取り用短剣、魔法石(火水風土光闇無)、病気(滋養強壮、風邪、鎮痛、貧血、不眠)、香水は桃(防御力)、木苺(攻撃力)、葡萄(毎時体力回復率)、バニラ(魔力回復率)、ミント(素早さ)。
胴鉄鋼銀の長剣、短剣、小盾、胴鎧、腕具、足具、頭具、弓と矢。
缶詰(パン、ポトフ、シチュー、おでん、アイスクリーム)、付与魔法陣(防御力、攻撃力、ガード率、レジスト率、命中率、素早さ、麻痺三〇%)。
こんな感じね。
香水と缶詰、付与魔法陣はうちだけのオリジナルだから、ギルドでの委託販売以外は、他店で販売することはしないようにしてる。
とはいっても、どっちみち私とアラリスしか作れないけどね。
「さてと、こんな感じかな。アルビー、そっちはどう?」
「終わってる」
「ありがとう」
アルビーに手伝ってもらいながら、王都の店で商品を陳列する。作業場に転移陣も置いたし、準備万端ね。
ちなみに、店はポラリスと同じで路地裏にあるのよ。ひっそりと開いてるってのがいいのよね。
「いらっしゃいませ」
ポラリスの店はルーとアラリスに任せて、王都の店は私とルブルとアルビーでやることに。同じ日に開店することにしたから、週六は自由に過ごせるね。
王都に店を持つことになったし、いつでも来れるから便利になったなあ。今度ゆっくり観光しよう。
「すまない。これはなんだ?」
「これは缶詰といいます。中には料理が入っているのですが、このフタを開けると温かいものを食べることができますよ」
「ほう。温かい料理か。一つ貰おう。おすすめはどれかな」
「そうですね。どれも美味しいですが、特にポトフがおすすめですよ」
「ではそれにしよう。一,〇〇〇ゴールドだな」
「はい。たしかに受け取りました」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
私に缶詰のおすすめを聞いてきた、品の良い二〇代の男性は、ポトフを買うと店を出ていった。なんだか騎士にでもいそうなタイプの人ね。
やっぱり缶詰や香水がよく売れているみたいね。開店と同時に缶詰の試食を少しだけやったのがよかったのかもしれない。
「リウ。ボクの柘榴飴がそろそろなくなってきた」
「わかったわ。じゃあ、私ちょっと休憩してくるから、作ってくるね」
アルビーに柘榴飴を作るために、私は作業室へと向かった。
この前は五〇個にしてみたけど、もっと多めのほうがいいかもしれないわね。一〇〇個にしよう。
「はいアルビー。今回は一〇〇個にしてみたからね」
「感謝する」
うーん。そういえば、この柘榴飴、アラリスに作り方教えておかないとだね。作れるのが私だけだから、なにかあった時に困るし。明日にでもレシピ渡しておこう。
夕方近くになると、少しお客さんの入りが減ってきた。初日ということで、けっこう売上はよい感じだし、店出してよかったかな。
店はポラリスでは十八時で閉店しているから、王都でも同じ時間でいいかな。ちょうどお客さんがいなくなったから、この辺で閉店しちゃおう。
「待ってくれ」
「え、はい?」
店の看板を店内にしまって、閉店のプレートを下げようかと思ったら、さっき缶詰を買ってくれた男性が息を切らして走ってきた。なんだろう?
「どうかしましたか」
「いや、すまない。缶詰はまだあるだろうか」
「ええ。少し残ってます」
「では、それを全部売ってくれないか」
「はい。かまいませんよ。では中でお待ち下さい」
私は急いで缶詰を袋に詰めると、合計二八個分の二八,〇〇〇を受け取る。
息切らしてくるまで、缶詰が気に入ったのかしら。
「ありがとう。閉店なのにすまなかった」
「いえ、大丈夫ですよ。うちとしては、完売できたわけですし」
男性はお礼を言うと、また走って戻っていった。




