依頼を請ける 上
アルビーと一緒に暮らし始めて一ヶ月。
すっかりここでの生活に慣れたアルビーは、進んで店を手伝ってくれるようになった。いい子だわあ。相変わらず尊大だけどね。でも、生き生きとしてるからいっか。可愛いし。
そういえば、アルビーにも私たちとお揃いの指輪をあげたら嬉しそうにしてた。ちなみにメインの宝石はブラックパール。闇魔法が得意だからね。
で。
思い出したことが一つあったのよ。
ギルドに一応所属してるけど、実は依頼を請けたことがないのよね。
だから、今更だけどやってみようと、今日は五人で冒険者ギルドへ行くことに。
私のギルドカードは一〇〇年前のだから、怪しまれないように新規で作ることにした。ルーたち四人も新規で。五人でのパーティ申請もしたし、準備は万端ね。
ギルド員のお姉さんから軽く説明を聞いたあと、さっそく依頼掲示板を見にいくと気になるものが。
「ウェルスナー子爵が依頼人?」
それってコレット嬢の父君よね。
依頼内容は……。
「護衛依頼? 目的地は王都か」
そういえば、王都にはまだ一度も行ったことがないのよね。
行商しながら王都行くのもいいわよねえ。いろんな街や村を回りつつさ。
と、それはまた今度にして。
護衛依頼か。えっと、なになに。護衛者の選考が明日あるのね。どうしよう、コレット嬢とは面識あるし行ってみようかな。とくに条件があるわけでもないから、私たちでも大丈夫だと思うし。
依頼を請けてこなしていくと、個人のギルドポイントが加算されていって、一定数貯まるとギルドランクが上がる仕組みなんだけど、何ランクでないと請けれないとかの条件はないのよ。
だから、今日ギルドカードを作った初心者でも、難易度の高い依頼を請けることはできるの。
だだ、依頼を達成できないと、ペナルティがあるから、自分の身の丈に合った依頼を請けないと、ペナルティ一〇回目でギルドカードを剥奪されちゃうのよね。
そういったことも自分で考えてやらないといけないから、冒険者たちは以外としっかりしてる人が多い。
「リウ、なにかいいのはあったのか」
「ルー。いいのというか、気になる依頼ならあったわよ。これ、護衛依頼。香水のオーダーしてくれたコレット嬢を王都まで護衛するやつなんだけど、どう思う?」
「そうだな。私兵を使わないのが気になるな。まあ、子爵だから私兵も少ないのかもしれんが」
「ああ、私兵かあ。言われてみればそうよね」
「だが、気になるなら請けてみてもいいんじゃないか。選考があるからそこで落とされるかもしれないが」
「ま、私たちは今日登録したばかりだからねえ。ルーはなにかよさそうなの見つけた?」
「いや。簡単なものばかりだな。ポラリスが国の外れにあるからだと思うが」
「そっかあ。皆はどうかな」
アラリスたちに聞いてみると、やっぱりルーと同じ答えが返ってきた。
ポラリスはオーガイル国の東にあって、それよりも東は海、北は山脈、南は深い森だから、けっこう平和なのよね。魔物もそんなに強くないし。マカロス伯爵の手腕がいいってのもあるけれど。
だから、これが西側だったら大陸の中央に位置するわけだから、もっと大きな依頼があったりするんだろうけど。
「じゃあ、この依頼、請けるだけしてみようか。明日は店もないし、皆で子爵邸へ行こう」
翌日。
私はウェルスナー子爵邸へと向かった。行ってみると、すぐに応接間へ通される。そこにはすでに数名の冒険者がいて面接は終わったらしく、応接間を出て行った。
選考するための面接予約は私たちが最後だったらしく、そのままウェルスナー子爵との面接が始まる。
しっかりアピールしていかないとね。
「おお、君が娘の香水を作ってくれた職人か。しかし、職人の君が護衛とは。守られる側ならわかるがね」
「私は素材は極力自分で入手していますから。ホコラの洞窟も九九階までは行きましたし」
「なるほど。君は徹底しているんだね。うん、職人というのはそういう者たちが多いのも事実だ」
ウェルスナー子爵はうんうんと納得顔で頷いてる。
すると、応接間の扉をコンコン叩く音がした。
「お父様。よろしいかしら」
「なんだい。今はお前の護衛者を選考するために、冒険者の皆さんに来ていただいているところだ。話は後で聞くから、部屋に戻りなさい」
「それでは駄目なのですわ」
カチャと扉を開いて、コレット嬢が入室してくる。
三ヶ月合わなかっただけなのに、少し大人びてきているようね。女の子は成長が早いから。
「こら、コレット」
ウェルスナー子爵がコレット嬢を窘める。
だけど、コレット嬢は、つかつかと私のところへ来て、私の肩に手を置いた。
「聞いてくださいませ。わたくし、王都へはこの者たちと向かいますわ。リウとは面識がありますし、同じ女性同士ですもの。他の面接しに来た方々には女性はおられませんでしたわ」
「うむ。そうだな」
「ですから、面識もあり、女性がいるパーティが一番よろしいかと思いますの。それに、デビュタントへ向けて、新しい香水の話も道中しておきたいのですわ」
デビュタントか。じゃあ、コレット嬢は十六才になるのね。
社交界にデビューするために、香水も一新したいのか。なるほど。ということは、プリンセスローズの香水はあと三ヶ月で半年だから、届けないとと思ったけど、どうするのかしら。
「ふむ。お前の言う意見ももっとだな。どうしたものか」
「悩む必要はありませんわ。わたくしがよいと言っているのですもの。お父様、わたくしのお願い、きいてくださりますわよね」
うーん。コレット嬢強い。そのまま私たちのパーティをプッシュしてほしいわね。
父君は腕組みをして悩んでいる。あと一押しかな。
「ウェルスナー子爵、私もお嬢様と香水についてのお話をさせていただきたいです。社交界にデビューされるのでしたら、最高の香水をおつけしていただきたいですし」
「ふむ。そうだな。わかった。では、護衛は君たちのパーティに任せよう。くれぐれもよろしく頼むよ」
「ありがとうございます。お嬢様を王都へ、無事に送り届けます」
よかった。私たちに決まったわね。
ポラリスから王都へは西に約二,〇〇〇キロメートルはあるから、馬車だと約十四日くらいかな。
荷物は異空間を使いたいけれど、今回はコレット嬢がいるから、出し入れは注意しないといけないわね。大きめのものは持ち運ばないと駄目かな。
「準備はこのくらいでいいかしら」
「そうだな。細かなものは、俺の異空間バッグとリウの異空間魔法で大丈夫だと思う」
「リウの準備したテントや毛布、着替えに食物などは、馬車に積んでおけばいいか」
「そうね。あとは背嚢を二つくらいでいいかしら。あまり持ち物が少ないのもあれだしね」
子爵邸から家に帰った私たちは、旅の準備をする。
出発は明後日。
そうだ。香水の話をしないといけないから、馬車の中で調合するのに、エッセンシャルオイルもいくつか持っていったほうがいいわね。さっそく準備。
さて、明後日から頑張っていこう。




