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ヴァンパイア 下

「ねえ、アラリス。ここはひとまずもう一度、壁を作っておいたほうがいいかもしれないわ。後でまた来ましょ」

「うん。それがいいかもね。お前もそれでいいかい? すぐにまた来るから」

「わかった。待っている」


 話終わったら、ちょうどガイルさんが来た。


「ねえ、ガイルさん。このヴァンパイアは相当衰弱しているし、このままでもいいのではないかしら。九九階で壁を作って、出てこれないようにすれば、彼も今までの生活に戻れるわけだし」

「だが、また壁が崩れたら?」

「その時はまた」

「ガイル。私もリウさんの意見に賛成する。ここにいる間、私に謝ってばかりだったの。でも、血がそばにあるのに飲まないから、苦しそうにしていて。そんなヴァンパイアをあたしは殺せないよ」

「むう……」


 悩むガイルさん。

 だけど、本当私も殺すなんてことしたくない。だって、アラリスの子供だもの。それって、私の子供でもあるわけでしょう。


「……わかった。だが、九九階から上にきたら、見つけ次第即座に殺す」

「ガイル」

「駄目だ。これ以上妥協はできん。また誰かが連れ去られて、その時、間に合わなかったらどうする」

「……わかった」


 ヴァンパイアのほうに偏ってる私だけど、ガイルさんの言う事もわかるから、これ以上は無理か。


「じゃあ、そろそろ帰りましょう。長く居過ぎても彼に悪いですし」

「そうだな。リウ殿、アラリス殿。ありがとう。助かった」

「いいんだよ。困ったときはお互い様さ」


 ホコラの洞窟を出て、その場でガイルさんとミーナさんと別れる。素材集めをまだしてないからまたダンジョンに入るって理由で。

 そうして私たちは再びヴァンパイアのもとへと戻る。

 闇の精霊が何体もいてざわついてたのは、あの子がいたからなのね。


「アラリス、私、ちょっと考えがあるんだけど、ここは任せてもらってもいい?」

「もちろんいいよ」


 アラリスの了解を得て、私は部屋の扉の前で、錬金を始める。いいこと思いついたのよ。

 私の家の庭に、柘榴があるんだけど、これって血の味がするらしいのよね。実が生ったときに収穫しておいたんだけど、ここが使い時だと思ったのよ。

 異空間から柘榴を数個取り出すと、私はコップに柘榴の果汁を流す。

 砂糖と鉄釘も入れておき火魔法で煮立たせて、神力を使って魔力という栄養も籠める。鉄釘を取り出したら一口大にして、水魔法で氷をだして飴にした。よし。これで大丈夫なはず。


「よく思いついたねリウ。それ、すごくいいよ」

「私もそう思う」


 瓶に柘榴飴を二〇個ほど作っていれておく。

 準備が整ったから、入りましょうか。


「待たせたね、白い子」

「構わない。さあ、俺様を殺せ」


 物騒なこと言うお口には柘榴飴!

 私はすたすたヴァンパイアに近づくと、口の中に柘榴飴を放り込んだ。

 ヴァンパイアはむがってなりながら、口の中に入れられた柘榴飴を吐き出そうとする。だめだよ。それは血を飲まなくてもいいようにするためのものなんだから。

 栄養だってあるし、それ舐めてから一日は吸血欲求がなくなるようにもしてあるのよ。私特製の飴だんだからね。

 頭と顎を押さえつけて、柘榴飴を舐め終わるまで待つ。……うん、もう舐め終わったかな。


「な、なにをする!」

「具合はどう?」

「なに?」

「具合。さっきより良くなってない? 吸血衝動は抑えられてるはずなんだけど」


 私に抗議したヴァンパイアだけど、聞いてみるとぽかんとした。右手で喉を触るとはっとした様子で私を見た。


「これは……、まさか」

「効いたみたいね。これ、私特製の柘榴飴。血の味もするでしょう? 味は似せただけなんだけどね」

「あ、う、うん」


 こくりと頷くヴァンパイアに私とアラリスはよかったと、笑顔になる。

 

「その柘榴飴はね。舐めてから一日は吸血欲求が起らないようになるのよ。魔力も戻ってきてない?」

「そういえば、体が楽だ」

「じゃあ、次はこれを飲んで」

「これは?」

「エリクサー」

「エリクサー!? なぜそんなもの持っている。幻の霊薬じゃないか」

「大丈夫だよ。まだまだあるから。さ、飲んで。じゃないと無理やり飲ませるよ」


 そう言われて、半信半疑でヴァンパイアはエリクサーを飲み干した。

 するとみるみるうちに元気になっていくみたいで、活力がみなぎっていくのが私にもわかった。


「すごい」

「でしょ? 元気になったと思うんだけど」

「あ、ああ。もうすっかり大丈夫だ。あの、あ、ありがとう」

「どういたしまして」


 よかった。これで大丈夫ね。あとは……。


「じゃあ、行きましょうか」

「……どこに」

「僕らの家だよ。大丈夫。家は街外れの森の中だから。ついておいで、白い子」


 アラリスがそう言うと、ヴァンパイアはためらいながらも、ぴょこぴょこ私たちについてきた。

 だけど、白い子って。別の名前があったほうがいい気がするんだけど。


「さあ、入って」

「あ、ああ」


 促されて家の中に入ったヴァンパイア。間取り、もう一部屋増やさないとね。


「白い子、元の姿には戻れるよね」

「ああ。……感謝する。おかげでまた人化できた」

「いいのよ。それにしても綺麗な白髪ね。瞳の色もルビーのようだわ」


 人化した姿は十四才くらいの中性的な男の子だった。長くて絹のようになめらかな白髪に赤い瞳。長耳をぴくぴくさせてるのがまた可愛い。褒められて少し頬に赤みが差してる。


「白い子、君は今日からここに住むんだ。他にも精霊や神竜もいるから、仲良くね」

「せ、精霊に、神竜!? というか、アラリス神よ、そちらの女性は」

「うん。僕の奥さん。ちなみに精霊と神竜も彼女の伴侶だからね」

「成り行きでそうなってるだけなんだけどね。一応私は女神でアラリスと結婚してるのよ」

「だから、白い子は僕らの子供ってとこかな」

「こ、子供……」

「そうね! 私たちの子供ね。じゃあ、名前もちゃんと決めないといけないわね」


 だって、いつまでも白い子じゃなんだか可哀想だし。


「アルビノだから、アルビーっていうのはどうかな」

「わかりやすくていいと思うよ」

「ボクもそれでいい」

「本当? よかった。じゃあこれからよろしくね。アルビー」


 ショタコンってわけじゃないけど、女の子みたいな男の子が、尊大な態度でいるのって、なんだか可愛くない? 萌えるんだけど。あ、別に変な意味じゃないからね!

 今日から一緒に住むことは、閉店して家に帰ってきたルーとルブルも賛成してくれた。

 部屋に案内すると、嬉しそうにしてて、つい頭をなでなでしちゃったわよ。


「柘榴飴はいくらでも作れるから安心してね。効いてる期間を長くするために、改良もしていくつもりだから」

「ありがとう。でもどうして」

「言ったでしょ。私たちの子供って。家族になったんだから、なにかしたいと思うのは当然じゃない」

「家族になってくれるの?」

「もちろんよ。これからよろしくね、アルビー」


 私はそう言ってアルビーを抱きしめると、アルビーも応えてくれて、私の背中に腕を回してきた。うーん。可愛い!

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